決戦の前の夜に
組織との決戦まで、ミリアは訓練に費やした。そして決戦を翌日に備えた夜、ホテルのベッドで目を閉じたミリアだったが、目がさえて眠れなかった。
隣のベッドにはアイラがいびきをかきながら眠っている。そんな彼女をうらやましく思いながら、何か飲もうかとリビングに向かう。
リビングには明かりがともっていて、ホットミルクを飲んでいるノルンの姿があった。
「子供はもう寝る時間でしょ? もう寝たら?」
「ちょっと目がさえただけ。これを飲んだらもう寝るよ」
目をそらして答えるノルン。ミリアはなんともなしに隣の席に座った。
「遠足の前の日とかは興奮して眠れなくなる質なんだよね。アンタも寝れないの?」
ミリアが尋ねると、ノルンは目をそらす。
「明日は失敗できない。絶対に組織の魔法使いに負けられない」
小さな体に決意をみなぎらせるノルン。ミリアはそんな彼女に危うさを感じた。
「あんまり気負いすぎても、空回りするだけだよ」
ノルンはミリアを睨むが、すぐに足元に視線を落とす。
「ただでさえ、私は7課で一番役立たずなんだ。失敗しないように気合を入れるのは当然のことだろう」
「でもアンタ、魔法はすごいじゃん。それに魔力を見られるんでしょ? 私見たんだ。成人式の日にモンスターを火だるまにしたの」
ミリアは励ますが、ノルンは気を落としたままだ。
「あの日は結局結界に阻まれて、モンスターにダメージを与えることができなかった。結局倒したのはスクワーレだった」
ノルンはうつむくと、気を紛らわすようにホットミルクを飲みほした。その姿を見て、ツグミも落ち込むことが多かったことを思い出す。落ち込むツグミを、ミリアはよく励ましたものだ。
「アンタ、ツグミに似てるね。あの子も失敗して落ち込むことが多かった。1回失敗するとパニックになって、似たようなミスを続けちゃうんだよね」
ノルンはミリアを睨む。
「私は失敗しないって、言い切れればかっこいいんだけどね。ねえノルン。人は失敗する生き物だと思わない? どんなに注意していてもミスするときはミスをする。大事なのは、必要以上に引きずらないことなんじゃないかな?」
ノルンは思わずミリアを見つめる。ミリアは照れたように笑って言葉を続ける。
「失敗してもいいんだよ。アンタが失敗したら、私がフォローする。モニカだってアイラだって、そうするでしょ? アンタは失敗しないようにとか余計なことを考えないで、できることを精いっぱいやればいいの」
ミリアの不器用な励ましを聞いてノルンは顔をそらす。
「ミリアのくせに生意気だ」
いつもの調子で毒を吐くノルンに、安心したようにミリアは続ける。
「さあ、今日はもう寝ましょう。眠れなくても、布団をかぶって目を閉じてれば、そのうち眠れると思うわ」
ノルンはうなずいてカップを片づけ、ミリアとともに部屋に戻った。
そんな2人を、いつの間にかリビングに出たモニカとアイラが見つめていた。
「ノルン・・・、大丈夫かしら」
「姉さんも心配性だな。ノルンなら大丈夫さ」
気軽に言うアイラを、モニカは睨んだ。
「ノルンはあなたと違って繊細なの。ちゃんと眠れるかしら」
慌てだすモニカを、あくび交じりに眺めるアイラ。アイラから見れば、ノルンは小さいが頼りになる魔法使いだ。残念なことに、アイラでは、ノルンの魔法に対抗するのは難しい。ノルンがその気になれば、あっという間にあたりを火の海に変えられる。本人は自信のない様子だが、敵からすれば手に負えない魔法使いであることは間違いない。
「まあ、あたしは適当にやらせてもらうさ。悪いけど、強そうなのはアンタやリーダーに任せるからね」
堂々とそう宣言するアイラに、モニカは溜息交じりに答える。
「アナタは戦闘スキルはそこまでじゃないですわよね。でも、アナタのスキルは頼りにしてましてよ」
モニカの言葉にニヤリと笑って答えるアイラ。2人は揃って部屋に戻っていく。
「明日は決戦になる。ウチの課全員に、魔女が一人。ミリアじゃないが、ミスしてもフォローできる体制は十分だろ。とっとと眠って、明日に備えようぜ」
アイラはそう言うと、部屋に戻ってベッドを目指す。隣のミリアは布団を頭からかぶって眠りにつこうとしていた。
「明日で全部終わるはずだ。私にできることは力いっぱいやらせてもらう。今まで通りに、ね」
そうつぶやいて笑うと、アイラはベッドに入って目をつぶる。そしてすぐに、ベッドからアイラの寝息が聞こえてきた。
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