展望台での戦い1

「こちらがアチラの狙いに気づいていることは大きなアドバンテージだ。先手を取るぞ」

 翌日の朝、スクワーレは全員をリビングに集めニヤリと笑いながら説明する。モニカは笑みを浮かべ、アイラは不敵に笑う。そしてノルンは気を引き締めた表情を浮かべる。

「でも、どうやって?」

 ミリアが疑問を口にすると、モニカが不敵な笑みを浮かべたまま答えた。

「そりゃもちろん、待ち伏せするのよ」



 ヒューゴの話を聞いてから4日後のことだった。スカイラインタワーの展望台に、10人の男たちが向かっていた。ゴウトをはじめとする「暁の空」の魔術師たちだ。

「おかしいな、先行した連中からの連絡が途絶えた。なにかトラブルがあったのかもしれない」

 高校生くらいの少年が報告する。彼の隣にいる同じくらいの年頃の少女がその言葉に続く。

「警察? でもこちらの動きが察知できるとは思えないわ。どうしますか? いったん引きますか」

 少女の言葉に、男の一人――ナンバー2は嘲笑を浮かべる。

「馬鹿を言うな。展望台についてあれを使えば、連中は何もできなくなる。勝利を目前にしておじけづいたのか? 行くぞ」

「でも、展望台に上ればもう後戻りはできません。不測の事態がおこったのです。慎重に動いた方がいいのでは?」

 少年が少女を援護するが、他の男たちは聞く耳を持たない。

「薄ノロどもが何を言っている。さっさと行くぞ」

 真っ先にエレベーターに乗り込んだのはゴウトだ。それ以外の男たちもつい次とエレベータに乗り込む。しかたなしに少年たちも続くが、少女は不安を口にする。

「兄さん、私不安だわ」

「お前のカンは当たるからな。だがついていくしかない」

 エレベーターは10人が乗れるだけの広いスペースがある。一度エレベーターに乗ればもう後戻りはできない。このエレベーターはオフィス棟などがある42階までは向かえるが、そこからはエスカレーターで登る必要があった。

 全員が乗り込んだのを確認すると、42階のボタンを押す。エレベーターはぐんぐんと上層階に上っていく。

「いよいよですね。いよいよ今日、組織の悲願が達成できます」

 ナンバー2が興奮を抑えられないように言う。ゴウトも同様に、嬉しそうな表情を隠せない。

「スクワーレを倒せなかったのは心残りだがな。だが上であれを発動できれば問題ないさ。おい、薄ノロ兄妹。最後なんだからきっちり護衛するんだぞ」

 一行の中で特段若い2人の兄妹――兄の漆原テツヤ方がナンバー7で、妹の漆原ナツメがその補佐をしている。まだ若いものの、ナンバー7の特異な体質と兄妹ならではの連係プレーで多くの魔術師を葬ってきた実績があった。そんな2人でも、ナンバー1のゴウトから見れば戦力に不安があった。

 2人は神妙な顔で頷く。そしてエレベーターは42階に到達する。一行はエレベーターを降りる。出迎えがあるはずだが、彼らに近づくものはいなかった。

「ここから展望台までは少し歩くことになります。すでに先発隊がここを制圧しているはずですが・・・」

 ナツメが怪訝な表情であたりを見渡す。

「展望台に行きさえすれば、すべてが終わるんです。先に進みましょう」

 そう言って進みだすナンバー2。やれやれと言った表情で後を追うゴウトとそれにつづく魔術師たち。兄妹は不安そうだが、大人しくついていく。

 そして一行はエスカレーターを上ると、展望台に進む。通路の左側には座席とテーブルがいくつか用意され、何組かの男女が景色を眺めていた。一行は彼らの横をすり抜けて、さらに上へと向かう。


「ちょっとよろしいですか」

 4人組の屈強な男たちに声を掛けられたのは、そんな時だった。ゴウトは舌打ちしたい気持ちをこらえる。

「なにか」

 一行の一人が答えると、男は素早く銃を抜き、ゴウトに銃口を向けた。

「おとなしく両手を上にあげて跪け」

 男は警官だった。そして後ろの3人も銃口を向ける。その次の瞬間、テーブルでくつろいでいた全員が銃を抜いた。

「罠か!」

 ナンバー2は言うと同時に煙幕を足元に放つ。銃声が響く。ゴウトは体をひねって銃弾を躱す。魔術師の一人が4方に素早く土壁を展開して銃弾を防ぐが、一行の何人かが撃たれて倒れ込むのが分かった。

「ここは私たちで防ぎます。ナンバーズの皆さんは展望台へ!」

 一行の魔術師の言葉を聞くや否や、ナンバーズたちは行動する。ナンバー1が正面の4人を素早く殴り倒すと、先に進む。その後ろを、ナンバー2と漆原兄妹が続く。

「あきらめろ! お前たちはもう袋の鼠だ」

 そう伝えたのはアイラだ。彼女の指揮のもと、ナンバーズ以外の男たちは次々と倒されていく。

「くそっ! 警察の奴らめ」

 憤るナンバー2。その時彼らの前に、3人の男女が立ち塞がった。スクワーレとモニカ、そしてノルンだった。

「スクワァアレェ!」

 ゴウトが叫び、ナイフを抜いてスクワーレに突撃する。スクワーレも前に出て、ゴウトに刀を振るった。2人は身体強化の魔法を駆使しながら戦闘を開始した。

 そしてナンバー7たちも仕掛ける。ナンバー7・漆原テツヤは素早く魔力を展開すると、土の鎧を身にまとう。その間に、妹のナツメは炎の魔法をモニカとノルンに放つ。マタイの2人は炎を横に飛んで躱した。魔術師たちの攻撃で道ができると、ナンバー2はその間を素早く抜けて上層階に向かった。

「くっ、上にいかせるわけには!」

 ノルンは悔しそうに言うが、ナンバー7の兄妹がけん制する。

「お前たちの相手は僕ら兄妹がする。覚悟するんだね」

 土の鎧を纏ったテツヤが宣言する。展望台へと向かう道で、魔術師たちの戦闘が始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る