ツグミを取り戻せ
ミリアたちはヒドルンホテルの部屋に戻ってきた。あの後レオは警察病院に運ばれていったが、ヒョーゴはツグミのことと時間が巻き戻る前のことを話してくれた。
ミリアは思い出す。ツグミという親友がいたことを。朝に弱いミリアを毎朝起こしてくれて、そのおかげで学校に遅刻することはなかった。小学、中学校でも高校でも、そして大学でもいつも彼女が一緒にいてくれた。
「なんで、忘れてたんだろう。大事な親友だったのに」
ミリアがつぶやくと、ヒョーゴは答える。
「あのあと、気づいたら成人式の後だった。驚いたぜ、ツグミの存在だけがぽっかりと消えてるんだ。尾藤教授によると、身の丈以上の魔力を使って存在が消えてしまったからだそうだ。今回の、あのナンバー3みたいにな」
今も、ナンバー3という存在がいたことは覚えているが、どんな顔をしていたか、どんなことを言っていたかは思い出せない。これが、存在が消えるということなのか。あの子が・・・、いつも自己主張せず優しく私を見守ってくれたあの子が、その存在をかけて私を助けてくれたのだ。
「モググが・・・・、あの子だったのね」
「多分な。どうしてあのぬいぐるみにそんなことができたのか分からない。あいつがお前を助けようという想いが、あの使い魔を生んだのかもな。お前とツグミが長年愛用しているモノだったから魔力がこもったんじゃないかと思う。ミリア、今度こそ俺はツグミを助けたい。協力してくれ!」
ヒョーゴは頭を下げる。ミリアは当然と言わんばかりの顔で、頷く。
「あたしがツグミを助けるのは当たり前のことじゃない。まずはどうすればあの子を助けられるか、調べないとね」
ミリアは快諾する。ミリアとツグミはいつも助け合って生きてきたのだ。困っているのを助けるのは当然のことだった。
「ありがとう」泣きそうな顔でヒョーゴがいうと、ミリアに向き直った。
「オレも今日まで遊んでいたわけじゃない。過去に魔力を使いすぎて消えてしまった人が戻った例がないか、調べてみたんだ。そしたら5番目の魔女が一度魔力の使い過ぎで消えたことがあったらしい」
5番目の魔女――ミリアは思い出す。治癒の力を使ったとされる彼女だが、秘密の間には彼女の台座がなかった。あれはどういうことだろう。
ミリアは頭をガシガシとかきむしる。考えても結論は出そうにない。
「だめだ、全然わかんない。尾藤教授に聞いてみる?」
「いや、実は教授には魔力の使い過ぎで消えた人間が戻ることができるかもう聞いてみたんだ。5番目の魔女のことは教えてくれたけど、詳しい話はわかんないってさ。くそっ、お手上げかよ」
頭を悩ませる2人に話しかけたのは、間々田だった。
「魔力の使い過ぎで消えた人間は地脈に吸収されると言われている。5番目の魔女は、5名の魔術師が彼女の娘を媒介にして地脈から取り戻したそうだ」
「ツグミに娘なんていないよね?」
ミリアは茫然とつぶやくが、モニカがあきれたように話す。
「あのしゃべるぬいぐるみがいるでしょう。あれは本人ではなく使い魔だと思いますわ。あれには本人の魔力が籠っているはずだから、媒介としては十分よ。そして魔力なら魔術師10人が集まってもかなわない魔女がここにいますわ。私たちが協力すればそのツグミさんとやらを助けられるんではなくて?」
そんなモニカの言葉に、ノルンが続く。
「ミリアの魔力が足りないというなら私の魔力を使えばいい。地脈からツグミを呼び出すのは、間々田さん、できる?」
そう尋ねると、間々田はため息をついて答える。
「10日・・・・、いや一週間時間をもらえるか? 私が行けば尾藤教授はもっと詳しい資料を用意してくれるはずだ。それを確認して送還の術式を作る」
いうや否や、間々田は出かけて行った。尾藤教授のところに駆け込むのだろう。アイラはミリアに頷くと、間々田の後を追う。
「瀬良警官の言う通りなら、スカイラインタワーに組織の構成員が集まるのは7日後のはず。ただ、ぬいぐるみから魔力を抜き取るのはもっと簡単かもしれない。スカイラインタワーの展望台に人を配置しよう。ナンバー1が来たら、勝負をかけようじゃないか」
スクワーレは不敵に笑う。その言葉にうなずく魔法対策7課の面々。
「さて、やることが決まったら今はゆっくり休みましょう。決戦の日に体調不良だと話になりませんものね」
洒落っ気たっぷりにモニカが言うと、ミリアは緊張した表情で頷き、部屋に戻った。ツグミを助ける――そのことを目標に、ミリアたちと魔法対策7課の心は一つになった。
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