決戦2

「アユヒロ、久しぶりじゃのぉ。図体と顕示欲ばかり強くなりおって」

 苦々しい表情で、黒いローブの女は吐き捨てる。ナンバー2は顔を引きつらせて答える。

「お、お姉さま・・・、生きていらっしゃったのですか」

 感動したように目を潤ませるが、反対に女性――『夢』の魔女、篠上マヤは醒めた目でナンバー2・アユヒロを見つめる。

「お姉さま・・・、会いたかったです」

 よろよろと近づくアユヒロだが、マヤは一瞬でアユヒロに近づくと、鳩尾に鋭い一撃を加える。

「ぐふぅ」

 あまりの衝撃に体を折るアユヒロを冷たい目で見降ろす。マヤは告げる。

「地脈に近い場所で神子が地脈の力を使えば、その場は霊地になる。魔力が強く、まだ地脈に溶けていない魂は具現化することもできるんじゃ。もっとも、魔力が強くなければ発現できないんじゃがの。それよりも・・」

 マヤはアユヒロを睨む。

「ワシがお前のやっていることを知らんとでもお持っとったんか? 他人様をむやみに傷つけおって! 挙句の果てに洗脳じゃと? 恥を知れ!」

 そう言うと頭を掴んで立たせると、その顔を拳で殴りつける。

「ぐはぁっ」

 マヤはアユヒロを何度も殴り続ける。唖然として2人を見つめるミリアとツグミだが、マヤはふと気づいて2人を振り返る。

「おう、後輩! すまんかったのう。こいつはワシがしめちゃるきに」

 そう言って再びナンバー2を殴ろうとするが、アユヒロは慌てて魔力を構築し、結界を張ろうとする。しかし魔力の制御を間違えたのか、その手から大量の魔力があふれ出る。

「く、くそ!」

「大人しくお縄に着くがよいわ」

 とどめとばかりに杖に風を纏わりつかせ、ナンバー2目掛けて振りかぶった。しかし風を纏った杖がナンバー2に当たるその瞬間、結界が発動して杖をはじく。

「なんじゃと!」

 ナンバー2を守ったのは、その後ろに出現した小さな人影だった。

「いけてるメンズ、略してイケメン! イケメンは世界の宝だよ? 傷つけちゃいけないんだから」

 そう言ってナンバー2をかばうのは、10代半ばくらいの少女だった。

「おまんは『結界』の魔女! なんで犯罪者のこのガキを守る!」

「え~、でもイケメンを守るのは当然のことじゃない? それにミヒロの力を必要としてくれたしぃ。魔女が求められたら力を貸すのは当然のことだョ」

 2人目の魔女――空星ミヒロは能天気に首をかしげる。忌々し気にミヒロを睨むマヤは、風の玉を2人めがけて放つが、2人の周囲に現れた結界にあっさりとかき消される。

「お、おばさまは分かってくれないようだが、結界の魔女は私に微笑んだ! 洗脳の力がなくとも、私は無敵だ!」

 水弾をマヤに放つ。マヤは、悔しげな表情で何とかそれを躱す。マヤを襲った水弾は、その後方で戦っていたスクワーレに突き進んでいく。

「くっ、流れ弾か!」

 スクワーレはなんとか躱すが、その隙を逃すゴウトではない。ナイフを振るって攻撃してくる。スクワーレはその一撃を躱すが、続けて放たれた回し蹴りを避けることはできなかった。片手で頭を守ったものの、吹き飛ばされ、片膝をつく。

 スクワーレはゴウトを一睨みし、その後のアユヒロとミヒロに目を向ける。スクワーレと目が合ったミヒロは、一瞬ハッとした表情を浮かべると、だらしなくほほを緩める。

「まさか、こんなところで理想のイケメンが見つけるなんて」

 スクワーレがわずかに戸惑ったスキに、ゴウトがナイフを持って突撃する。スクワーレは何とか避けるが崩れた体制は立て直せない。ナイフを避けきれず、左脇に一撃をもらう。

「くひひひっ、勝負あったな!」

 とどめを刺そうと追撃するゴウト。しかし、その攻撃はスクワーレに届く前に弾かれる。ミヒロが結界を作ったのだ。

「お前、こっちの味方じゃなかったのか!」

「え~、そんなこといったかな~」

 ミヒロはとぼけた顔で言い放つ。アユヒロは苦虫を嚙み潰したような顔でミヒロを見る。

「このクソアマが! 俺はお前の存在を消せるんだぞ!」

 しかしミヒロは「やれるもんならどうぞ」とどこ吹く風だ。マヤは噴き出す。

「くっくっく、おまえごときに扱えるほど、魔女は安くないのさ。何も考えずにお前のために働いてくれると思ったのかい?」

 体勢を立て直したスクワーレはゴウトに襲い掛かる。刀を振るうと、後ろに飛んだゴウト目掛けてペンデュラムを発射する。

「くそっ!」

 ゴウトは体をかすめて通り過ぎるペンデュラムの鎖を、魔力障壁を纏った手でつかんでスクワーレを引き寄せようとする。しかし鎖を触れたと同時に電撃が走った。怯むゴウトを、スクワーレが斬りつける。その一撃は結界を破り、ゴウトの胸を引き裂いた。そして、返す刀でゴウトの脇腹を打つ。刃を返した峰打ちだが、ゴウトの意識を削り取るのに十分だった。

「おのれ! 最後に裏切るとは!」

 アユヒロは手をかざすと、マヤとミヒロから魔力が抜ける。2人は静かに消えていくが、明るく笑っていた。

「じゃあね、イケメンさん。あなたがこっちに来るときにまた会いましょう」

「あのバカ甥を任せることになってすまん。後は頼むきに」

 そう言って、2人は煙のように消えていった。

「くそが! だが魔力は十分にある!」

 ナンバー2は魔力を開放する。すると床に散らばっていた水晶のかけらが魔力を吸って輝きだす。

「これは『夢』の力? 粉々になっても力を持ってるってわけ?」

 ミリアはあきれたように水晶の破片を見つめる。力はひと塊となってアユヒロの上に集まっていく。

「これをタワーに掛ければ洗脳終了だ! 最後に笑うのは私だったな!」

 アユヒロがゆがんだ笑みを浮かべる。ミリアは素早く”破壊”の力を込めて銃を放ってアユヒロの魔力の塊に穴をあけるが、その穴はすぐにふさがっていく。レオは接近戦を仕掛けようとするが近づけない。ヒョーゴはアユヒロに向かって銃を数発打ち込むが、すべて魔力障壁に阻まれてしまう。

「何とかあれを止めないと!」

 破壊の力では穴をあけられても濃密な魔力をすべて消し去ることはできない。ツグミは周りを見渡すと、気づいた。ミリアの左腕に、破壊以外の力が宿っていることを。

「ミリア、その左腕は?」

「へ? あ、これ・・・」

 問われて思い出す。秘密の間で『静寂』の力を持った魔女の力を借り受けたことを。

「静寂の魔女の力?」

「尾藤教授に聞いたことがある。静寂の力はあらゆる魔力を鎮めることができたって。ミリア、私の魔力も使って!」

 ツグミはミリアの腕を取る。濃厚な魔力が左手に集まっていくのが分かる。

 ミリアは、左手をアユヒロが集めた魔力に向かってかざした。

「静寂の力よ! あの魔法を消し去って!」

 巨大な魔力がミリアの左手から飛び出していく。ナンバー2が集めた魔術にぶつかると全体を包み込み、相殺していく。

「馬鹿な! 魔女の力だと!」

 魔女の力には魔力は届かない。たとえ同じ魔女の力でも。しかし、静寂の力は別だ。静寂の力はそれ自体では何もできない代わりに、どんな魔法も木阿弥にしてしまう。

「くそっ! ここで消されるわけにはいかん!」

 ナンバー2は、さらに強力な魔力を上空に送る。その膨大な量は強い光を放ち、ミリアたちは顔をしかめた。「洗脳」と「静寂」の力は互いに打ち消し合った。

 しばらく光がお互いを食い合い音が響く。しかし、最後に残ったのは洗脳の力だった。魔力の大きさはソフトボール大にまで小さくなったが、依然として力は残ってしまう。

「っ! くはははは! どうやら私の魔力が勝ったようだな。これだけの大きさでも、この町から理性を奪うには十分だ!」

 勝ち誇るナンバー2。だが、魔力を展望台にぶつけようとするが、密度が大きすぎるせいか、魔力をすぐに動かせないようだった。

「ミリア! 破壊の力なら、いくら密度が濃くても、あの大きさの魔力なら、あなたの力で破壊できる!」

 ツグミはミリアを見つめる。ミリアは決意を込めると、銃口を魔力の塊に向けて静かに銃を構えた。

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