決戦1
スカイラインタワーの最上階では、スクワーレとゴウトが激しい戦闘を繰り広げていた。その周辺にはレオとヒョーゴが、必死の表情でスクワーレを援護している。だが、2人のすさまじい戦いに手が出せず、2人は攻めあぐねるばかりだった。
「くそっ! ここまで来てなにもできないのかよ!」
「強化してるはずなのに、手を出すタイミングが分からない」
悔しそうにそうつぶやくヒョーゴとレオ。そんなとき、広間の一角が輝き始める。光は徐々に門になり、その扉が開くとミリアとツグミが駆け込んできた。
「ミリア! 無事だったか!」
レオが嬉しそうにつぶやく。ヒョーゴはツグミを見て泣きそうな表情だ。
「! くっ、あの男は失敗したのか?」
2人とは反対に、ゴウトはうめき声をあげる。ゴウトが落胆したその隙に、スクワーレは左袖からペンデュラムを発射する。
「どこを見ている!」
スクワーレの叫びながらの攻撃に、ゴウトはかろうじて右手のナイフではじくが、その体勢を大きく崩してしまう。その間に2人の魔女はヒョーゴたちと合流する。
「おのれ! 貴様らごときに!」
ゴウトは悔しげに叫ぶと、ミリアたちに向けて手をかざす。爆発の力が込められた光の玉がミリアたちに高速で進んでいく。だが、ツグミとモググが魔力障壁を作り、爆発の力を相殺する。
「ふっふっふ。モグがいる限り、ツグミには指一本触れさせないモグ」
「わ、私だって魔女なんだから!」
叫ぶツグミを見て、ヒョーゴは泣き笑いの顔にニヤリと笑みを浮かべる。レオは鋭い目でゴウトを見つめる。
「一旦ここから下がろう。悔しいが、俺たちではスクワーレさんの足を引っ張ってしまう」
悔しそうに語るレオ。そのとき、展望台の傍に新たな光の柱が出現した。ナンバー2が帰ってきたのだ。ナンバー2は額から血を流し、服はぼろぼろだった。満身創痍に見えるが、その目はギラギラとしている。
「魔女どもが! 私から逃げられると思うなよ!」
叫ぶナンバー2は結界装置を作動させる。怒り狂った表情のナンバー2を見てツグミは恐怖する。
「あいつ…、戻ってきたようね」
ミリアが悔し気に吐き捨てると、ツグミがナンバー2の変化に気づく。
「なにあれ・・・、すごい魔力」
帰ってきたナンバー2を見て危機感を強める。セイカは魔術師が地脈に深く潜ることで神子になったと言っていた。つまり、素手の魔女であるミリアたちと違い、地脈の中に行った魔術師のナンバー2は・・・。
「素晴らしい! この魔力! これはまるで魔女じゃないか!」
ナンバー2は嬉しそうに笑うと、楽し気な目で2人の魔女を見つめる。
「くふふふふ、お前たちも素晴らしい魔力だが、魔女の力と神子の力は共存できないようだね。さて、地脈でのお礼はさせてもらうぞ!」
そう叫ぶと、水の玉をミリアたちに放つ。水に込められた圧倒的な魔力はツグミの障壁に直撃し、ミリアたちはこらえきれずに後ろに弾き飛ばされる。その光景を見て、さすがのスクワーレも焦りを隠せない。
「馬鹿な・・・、なんて魔力だ」
ゴウトの猛攻をしのぎながら、それでもミスなく立ち回るのはさすがと言ったところか。
「今ならこの力をもっと引き出せるはずだ」
ナンバー2はそう言って水晶にさらなる魔力を籠める。水晶から発せられた光はこれまでにないくらい大きくなり、レオとヒョーゴに降り注いだ。
「くっ」
「うがっ・・・!」
2人は頭を抱えて跪く。それを見てツグミが2人をかばうように前に出る。障壁を作って防ごうとするが、すべてを防ぐことはできない。光は結界の隙間から侵入してレオたちを洗脳しようとしていた。
「この! いい加減にしなさい!」
ミリアは銃を構え、ナンバー2に放った。ナンバー2は自力で結界を発動する。結界は銃弾で破壊されたものの、ナンバー2が手をかざすと再び結界が現れる。ナンバー2が即座に結界を再生したのだ。
「これが結界の魔女の魔法・・・、神子の力はこんなこともできるんだな」
ナンバー2は感動したような声を上げる。一方のミリアは新たな結界を見て動揺を隠せない。
「魔女の力は再現できないんじゃなかったの!?」
思わず叫んだミリアに、ツグミも焦りの声を上げる。
「それに、あの人の魔力量は異常よ。まるで、この地脈の魔力を吸い上げているみたい」
魔女の力を再現し、地脈に流れるエネルギーを自在に操れるのが神子の能力だとしたら・・・。大地の魔力が集まるこの場所では、ナンバー2に勝つことができない。ミリアとツグミ、2人の魔女の力をもってしても、ナンバー2を止めることができそうになかった。
「そんな・・・・、どうすれば!」
魔女の力を奪わなくても、今のナンバー2にはこの町全体を洗脳できるだけの魔力がある。ここで彼を止めなければ、この町は組織に支配されてしまうだろう。
「ふふふ、時代は私に微笑んだようだな」
サディスティックな笑みを浮かべるナンバー2は、手に魔力を籠めると、周辺に数えきれないくらいの多くの水弾を出現させた。
「さて。一人二人は死んでしまうかもしれないが、いいかな。数が多くて目障りだ。消えろ」
そう言うと、手をミリアたちの方に振り下ろす。水弾は轟音とともにミリアたちに降り注いだ。
レオは水弾をガードするが、踏ん張りがきかず、そのまま後ろに吹き飛ばされる。ミリアは頭を抱えて跪いて何とか回避する。そしてヒョーゴは、ツグミをかばうように前に立ちふさがった。
水弾の群れがヒョーゴを貫く。モググが作った障壁はあっさりと破壊された。ヒョーゴは体中から血を流しながら、ゆっくりと崩れ落ちていく。ツグミの悲鳴があたりに響いた。
「く、くそ! 畜生め」
ヒョーゴは呻くようにつぶやくと、膝をつき、床にあおむけに倒れていく。ツグミは慌ててヒョーゴを抱きとめたツグミは、”時”の魔術を発動してヒョーゴの体を傷を受ける前の状態に戻す。その様子を、ナンバー2はにやにやと見つめている。
「“時”の魔法を見られた?」
ミリアは青くなる。相手はさっき、2番目の魔女の魔法をコピーしたばかりだ。この上“時”の魔法も使われてしまったら・・・、焦るツグミだが後の祭りだ。しかし予想に反して、ナンバー2は自分の傷を治そうとはしなかった。
「なんで時の力でけがを治さないの?」
ツグミは疑問を感じる。そして注視する。ナンバー2は結界の力以外に魔女の力を使っていないことを。そして、洗脳の力を使うために水晶を使っていたことを。
「魔女の力を使うには条件がある? だったら!」
ツグミは仲間を見る。
「(あいつの水晶を壊しちゃえばいい)」
ツグミは唇だけで伝えると、ミリアとレオ、ヒョーゴはツグミを見て頷いた。
「まずはあの結界を何とかしないと!」
ミリアはそう言って銃口をナンバー2に向けると、狙いをつけて銃弾を放つ。ガラスが割れる音がして、結界は壊れていく。
「無駄だ!」
結界は壊れたものの、結界を作ろうと魔力を練るナンバー2。しかし結界が再構築されるわずかなスキを、ヒョーゴは逃がさない。素早く拳銃を抜くと、銃弾を充てて水晶に狙いを定める。
「この距離なら外さねぇ!」
ヒョーゴは水晶に向かって銃を放つ。ナンバー2は自分を守るべく結界ではなく魔力商品を展開するが、銃弾は手に持った水晶を直撃する。水晶は弾かれ、後方に飛ばされた。
目論見が成功したことを確信し、ヒョーゴがニヤリと笑う。
「ふざけやがって!」
ナンバー2は水晶に飛びつくが、その前にもう一つ、水晶に向かう影があった。身体能力を魔力で強化したレオだ。
「うおおおおお!!!」
レオは必至で手を伸ばすが、ナンバー2の方がいち早く水晶に届きそうだった。だがその時、レオがさらに加速する。ツグミが“時”の魔法でレオのスピードを上げたのだ。レオは水晶を掴むと、抱えて倒れ込む。そしてすぐに立ち上がると、ミリアの方に水晶を放り投げた。
「ミリア! お前の力で!」
ミリアは再び銃を構える。弓なりに投げられた水晶目掛け、魔力を構築する。
「ばかな! やめろ!」
ナンバー2は叫ぶが、ミリアは落ち着いて銃を構える。
「これでアンタはおしまいよ」
破壊の魔力が籠った銃弾が放たれる。“破壊”の魔法が籠った弾丸は、水晶を容易く砕いていく。
ガラスが割れる音がする。銃弾が直撃した水晶は粉々になり、その破片は四方に飛び散っていく。
ナンバー2は絶句してその光景を見つめる。しかし一瞬茫然としたものの、ミリアを人睨みすると魔力を一気に練り上げて、さらなる魔法を展開しようとする。
「水晶などなくとも! 洗脳の力さえ発現できれば!」
ナンバー2の魔力はさらに高まっていく。展望台全体に魔力が広がっていく様子に、ミリアたちは絶句する。
「なんて濃厚な魔力・・・」
ミリアが茫然とした様子でナンバー2を見つめる。ナンバー2が放った魔力により、展望台は霧がかかったように視界が悪くなるだが、これほど濃厚な魔力を発現しても、洗脳の力は発現することはない。
「なぜだ! なぜ叔母様の、洗脳の力が使えない!」
憤るナンバー2に答える人影がった。
「そりゃ、おまんごときにワシの力を使わせるわけにはいかんからの」
ナンバー2の後ろには黒いローブを纏い、長杖を持った女性が立っていた。
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