霊地にて2

 公園を出ると、ミリアは自宅の方へ向かう。目指すは隣の家のツグミの部屋だ。

ツグミは引きこもりがちだからきっと部屋に帰ってるはずだ。

 隣の皆藤家のドアを開け、玄関を抜けて2階のツグミの部屋に向かう。この部屋には何度も入ったことがある。間違えるはずがなかった。

 ノックもせずにドアを開けると、10歳くらいのツグミがぬいぐるみを抱き、ベットの上で耳を塞いで蹲っていた。その周りには3人の人影がツグミを見下ろしている。

「ごめんなさい」

 ツグミは泣きながら呻く。

「お前はテロが起こることは全部知っていたんだろ! どうしてうまくやれなかった!」

「ごめんなさい」

「私の娘はテロで死んだ。お前が転生者なのにうまくやれなかったせいで」

「ごめんなさい」

「未来のことが分かっていたのに何もしなかった。お前さえしっかりしていたら被害も少なかったのに」

「ごめんなさい」

「やめるモグ! 悪いのは組織で、ツグミは悪くないモグよ!」

 人影はかわるがわるツグミを攻めた。モググは泣きながらツグミをかばうが、ツグミは謝り続けていた。

 ミリアは一瞬で頭に血が上る。

「やめなさい! ツグミのせいじゃないでしょ! 責任転嫁もいい加減にしなさい!」

 ミリアは人影に近づくと腕を振り回して彼らを振り払う。だが、人影は一旦は消えたものの、すぐに人影の形を取り戻す。そしてツグミを糾弾し続けた。ツグミの足に足かせがつけられているのに、ミリアは気づいた。

 ミリアはツグミを引っ張ると、人影からツグミをかばった。

「ツグミ、大丈夫? あなたは悪くないんだからね!」

 ツグミは泣きながらミリアを見つめた。

「でも私は知っていた。組織が町でテロを起こすことも、成人式のあの日に起こることも知っていた・・・。でも私は家族が巻き込まれるのが怖くて、警察に通報することもできなかった。私が…、私さえしかりしていれば」

 後悔に苛まれながら泣き続けるツグミを、人影はさらに攻め立てる。

「そうだ! お前がもっとちゃんとしていれば、無事な人も多かったんだ」

「お前が行動しなかったから、私の家族は死んでしまったんだ」

 責め立てる人影を、ミリアは睨む。

「ツグミはやれることをやってきたわ。アンタたちに攻められることなんてない!」

 そして、ミリアは銃を構える。破壊の力が銃に収束する。人影はおののくが、ミリアはためらわずに銃弾を放った。

 魔力は人影に直撃する。人影は、直撃してできた穴から跡形もなく消えていった。

 ミリアはツグミに向き直る。

「アナタはちゃんとレオのお母さんを助けたじゃない! ヒョーゴが立派な警察官になれたのも、ツグミがいたからなんだよ」

 ツグミのこれまでの行動を振り返るミリア。不器用だけどいつも一生懸命だったツグミ。いつも自信なさげな彼女だが、大事なところでは勇気を振り絞って行動してくれた。だからこそ、今のレオやヒョーゴ、そしてミリアがある。

「私は転生者なの! 15歳まで他の世界で生きてきた記憶があって、その中の小説でミリアたちに起こることは知ってたの! 私がもっと頑張っていれば、ミリアだって傷つかずに済んだはずなのに。小説ではミリアたちは傷つきながらも組織のエージェントに負けなかった。でも私が干渉したせいで、前のミリアは死んじゃった」

 前世の記憶があると聞いて驚くが、ミリアの意見は変わらない。泣き叫ぶツグミを何とか慰めようと、ミリアは言葉を紡いだ。

「ねえツグミ。未来に何が起こるか分かったって、私たちは神様になったわけじゃない。できることしかできないんだよ。ツグミは決して傍観者になってたわけじゃない。当事者の一人としてできることを精いっぱい頑張ってたこと、私が一番近くで見てきたから分かるよ。自分や家族の安全を考えるのって当たり前じゃない? 自分たちの安全を顧みないで行動できる人っていうのは、それこそ物語の中にしか登場しないよ」

 ツグミは泣き顔のまま、涙を必死にこらえた。

「さあツグミ、一緒に帰ろ? 私にはあなたが必要なのよ」

 そういって足かせに銃を向けるミリア。弾丸は足かせを粉々に破壊した。

 手を差し出すミリア。ツグミは涙でぐしゃぐしゃになった顔で、その手を取った。モググはツグミの肩に乗り、どこか安心した顔をしていた。


 自宅から公園に向かう途中、周りの景色が徐々に崩れていくのが分かった。

「時間切れ? あの公園に急ごう!」

 ミリアはツグミの手を引いて公園に向かう。

 しかしその時、横道から男が襲ってきた。男は手に魔力を込めて水の玉を作り、ミリアたちに放った。

「危ない!」

 ツグミがとっさに魔力障壁を作る。水の玉は障壁に防がれたが、その間に男はミリアたちの前に立ちふさがった。

 ミリアと同時に魔法陣に巻き込まれたナンバー2が、そこにいた。

「やあ、魔女の方々。2人揃ったところで悪いけど、私に従ってもらおうかな」

 そう言って水晶を掲げると、青い光があたりを包む。ミリアもツグミも洗脳の力が解放されたことに気づき、顔を背ける。光は2人を取り囲むが、2人の体に触れるとあっさりと弾かれた。

「魔女の力は同じ魔女には通じない!」

 そう宣言するツグミを見て、ナンバー2は焦りを強くする。魔力を練ると、水の玉を空に浮かべた。

「お前たちを返してなるものか! 一人はここで死んでもらうぞ!」

 何発もの水の玉がミリアたちに襲い掛かるが、ツグミが作り出した障壁にすべて阻まれる。だが、2人は反撃できない。万が一相手を殺してしまったら・・・・・。襲ってくるナンバー2を倒すほどの覚悟は2人にはなかった。

「ミリア、あの場所へ急ごう」

 ツグミにせかされて、ミリアはナンバー2を魔力で横に突き飛ばし、2人は公園に向かう。

 公園にではセイカがベンチに座って待っていた。

「早かったわね、6人目の魔女。7人目の魔女もお疲れ様。頑張ったのね」

 セイカは立ち上がると、さっきと同じように穏やかに微笑んでいた。

「セイカさん! 元の場所に戻して! はやく!」

 ミリアはセイカをせかす。

「はいはい、すぐに用意しますよ」

 セイカは慌てず急がず、門を出現させて扉を開く。ミリアたちは門に駆け込んでいく。

「このくそ魔女どもめ! 待て!」

 ナンバー2が吠えるが、2人はもう扉の中だ。

「あら、残念。アナタはまた後でね」

「貴様は治癒の魔女! 貴様がなぜここに!」

 それは私も知りたかった――ミリアは思う。セイカさんは余裕の表情で語る。

「ここは死後に魂が一度留まる場所よ。後輩が来ると聞いてちょっと出張ってみたのよ。私、魔女じゃなくて神子だし。死んだ後もここに具現できるのよ」

 セイカの言葉に、ナンバー2は驚いた表情だ。

「神子だと!? 何を言っている! 貴様は魔女ではなかったのか!」

 叫ぶナンバー2にセイカは笑って答える。

「成長過程で地脈に触れて覚醒するのが魔女。神子は、魔法使いが地脈に深く入り込むことで覚醒するの。膨大な魔力を持つという共通点はあるけど、できることは全然違うのよ」

「何を言っている! 神子など聞いたことがない!」

 ナンバー2は困惑した様子で叫ぶ。セイカはその顔を見て、納得したような表情を見せる。

「アナタ・・・・、篠上マヤちゃんの甥っ子ね」

 セイカの言葉に驚くナンバー2。

「お姉さまを知ってるのか」

 色めき立つナンバー2。セイカは落ち着いた様子で答える。

「マヤちゃんは納得して逝ったわ。あなたと違ってね。あなたはマヤちゃんの遺志を継いだつもりだろうけど、本人の遺志はきちんと確認したの?」

 まるで顔見知りのように篠上マヤについて語るセイカに、ナンバー2は苛立つ。

「うるさい! お前に何が分かる!」

 ナンバー2は怒りをあらわにする。しかしそのやり取りは、現世に戻ろうとする2人にとってチャンスだった。

「今のうちに帰るよ! ツグミ!」

「うん!」

 2人と1匹は扉に向かって走る。

「まて!」

 怒りを見せるナンバー2に、ミリアは嘲笑の笑みを浮かべる。

「じゃあ、またね。お先にスカイラインタワーに戻らせてもらうよ」

 扉はナンバー2の前で閉まっていく。そして二人はこの世界消えていった――。 

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