決戦3

 ミリアもツグミも、魔力はほとんどなくなっている。ミリアは深呼吸すると、アユヒロの魔力の塊を睨んだ。

「これが最後の一撃よ。消えてしまいなさい!」

 銃を放つ。“破壊”の力が込められた銃弾は、魔力の塊に向かって突き進む。アユヒロは魔力の塊にさらなる魔力を送り込んで防ごうとする。魔力の塊は、一瞬人を飲み込めるほど大きくなるが、弾丸はそれをあっさり貫いていく。

 魔力の塊に一線の穴が開く。その穴からミリアの“破壊”の力が塊全体に侵食する。そして魔力の塊に空いた穴は広がっていき、静かに消滅する。

 水晶の破片は一つ残らず消えている。アユヒロには、もう魔女の力を使う術はなかった。

「そ、そんなばかな」

 アユヒロは茫然とする。次の瞬間、鬼のような形相でミリアたちを睨んだ。

「お、おのれ! お前たちのせいで!」

 八つ当たりのように水弾を放つと、ミリアとツグミは紙のように吹き飛ばされる。スキを突こうと動き出したレオは、アユヒロの水弾によって倒される。ヒョーゴも銃を放つが、魔力障壁にあっさりと阻まれた。

 スクワーレは左脇の怪我でうずくまっている。町の危機は去ったが、ミリアたちのピンチは続いていた。

 ミリアたちにとどめを刺そうと近づくアユヒロ。魔法を練り、再び攻撃しようとするが、次の魔法は発動しない。いぶかしげな表情で何度も腕を振るが、さらなる魔法は飛んでこなかった。

「なぜだ! なぜ魔法が発動しない!」

 困惑するアユヒロに、スクワーレが冷静に指摘する。

「魔力の使い過ぎだ。お前、体が透けてるぞ」

 アユヒロは戯言だと判断し、再び魔法を構築しようとするが、透明になっている自分の腕が目に入った。そして気づく。本当に体が透けてきていることに。

「ばかな! 地脈がある限り、神子の魔力は無限のはずだ!」

 そう叫んで否定するが、体は確実に薄くなっていく。

「確かにこの場には大量の魔力があるが、分からないか? 地脈から魔法をくみ上げるお前の力は有限なんだ。地脈から魔力を使うたび、お前自身の魔力は確実に消耗していたのさ」

 その言葉にアユヒロは恐怖を隠せない。

「うそだ! 私が負けるはずがない!」

 スクワーレは憐れむような目をアユヒロに向ける。

「あきらめろ。分に過ぎた力を使った代償だ」

 アユヒロは涙を流して懇願する。

「いやだ! 消えたくない! お姉さま、僕を助けて!」

 最後まであがくアユヒロ。ついには大声で泣き叫ぶが、体の消滅は止まらない。そして、アユヒロは跡形もなく消えていった。

 地脈に捕らわれた人間は、人々の記憶からも消えてしまう。ミリアは、ナンバー2の顔をもう思い出すことはできなかった。 ゴウトを倒し、ナンバー2が消えた展望台には、スクワーレと2人の魔女、2人の若手警官が残った。

「これで終わったんだね」

 しんと静まり返った展望台に、ミリアの声が冷たく響く。レオは構えを解き、ヒョーゴは溜息を吐く。そしてツグミは脱力したようにへたりこんだ。



「7番目の魔女、ツグミさんだね。ちょっと話を聞かせてもらおうか」

 脇腹を抑えながら、スクワーレがツグミを見る。

「はい。私が分かることでしたら答えさせていただきます」

 寂し気に頷くツグミ。

「スクワーレ! ツグミは何も犯罪を犯したわけじゃ・・」

 焦ったような顔をするミリアに、スクワーレはちょっと噴き出しながら答える。

「いや、話を聞くだけだから。ちょっと拘束させてもらうが、彼女が犯罪を犯していないのは分かってる。すぐに自由になることを俺が保証しよう」

 それを聞いて脱力するミリア。

 階下は騒がしくなっていた。階段から何人もの機動隊員が現れ、気を失っているゴウトを連れていく。そして、モニカとノルンもゆっくりと階段を上ってきた。

「どうやら、終わったようですわね」

「そっちも無事だったんだ。アイラは?」

「下で警察のお手伝いをしていますわ」

 モニカもノルンも、大きな怪我はないようだ。

「まだ残っている組織の戦闘員は、この町の警察が何とかするでしょう。私たちの仕事はこれで終りね」

 モニカが背伸びをする。ノルンは怪我をしているスクワーレを心配そうに見つめている。

 やがて、機動隊員がミリア達を階下にエスコートしてくれた。地上には何台もの警察車両も並ぶ中、そのうちの一台にミリアたちは載せられる。

 車の中からスカイラインタワーを仰ぎ見る。周りの建物よりひときわ高いタワーを見る。いつも大学で見ているスカイラインタワーの景色だ。それに気づいて、やっと終わったのだとミリアは安堵の息を吐いた。

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