レオを救うために

「どうやらさっきの場所に戻ったみたい」

 光が収まると、ミリアたちは映像ルームの中に戻っていた。怪物と化したレオと白衣の男も部屋から立ち去った様子だ。そして外が騒がしい。間々田と警官が到着したのだろうか。

「レオを止めないと!」

 ミリアが焦りを口にする。ノルンは目を凝らして部屋の中を見渡した。

「レオの魔力の痕跡がある。こっち」

 ノルンが駆けだす。ミリアは慌てて後を追うが、その途中でモググが肩に飛び乗ってきた。

「ミリア、どこに行ってたモグか? 魔力がさらに高まってるのを感じるモグ」

 疑問を口にするモググに、ミリアは軽い口調で答える。

「秘密の間に言ってたのよ。それよりレオを何とかしないと・・・」

「でもモンスターに変わった後だとどうしようもないモグよ」

「銃を貸して! とりあえずあの面倒な結界装置を破壊しないと」

 ミリアの言葉を聞いて、空間からあの魔銃を取り出すモググ。

「この銃とミリアの力を合わせれば結界装置は破壊できるけど、それだけじゃレオを助けられないモグよ」

 モググは不安を口にする。助ける方法が思い浮かばず焦るのはミリアも同じだった。

「結界がある限り、レオの魔力は削られていくわ。まずは結界を破壊しないと」

 決意を新たにするミリアに、ノルンがつらそうな声を話しかけた。

「レオはこっちにいる。警官隊と戦ってるよ」

 ミリアはノルンの差す方向へ駆け出した。


 博物館のロビーでは、警官隊とモンスターが死闘を繰り広げていた。警官隊は銃撃を浴びせるが、銃弾は結界に阻まれて届かない。反対に怪物と化したレオの一撃は確実に警官たちを倒していく。

「ミリア! 撃つモグよ!」

 モググの言葉を聞くまでもなく、魔銃を構えるミリア。そしてためらうことなくレオに銃を撃つ。

 銃弾は外れることなくレオに向かっていく。そして着弾すると、ガラスが割れる音がする。腰にあった結界装置が砕け、結界が破壊されたことが分かった。

「これが、ミリアの魔法・・・・」

 ノルンが驚きを隠せない。対象にダメージを与えず、結界のみを破壊する。人を傷つけずに救うための魔法に、ノルンは羨望を覚えた。

「相手はひるんだぞ、撃てー!!」

 警官隊はここぞとばかりに銃撃を浴びせる。結界をなくしたレオは苦悶の声を上げる。

「レオ! やめて、あれはレオなの!」

 ミリアは警官隊とレオの間に駆け寄ろうとする。しかしその行く手はノルンによって止められる。

「ミリア、危ないよ!」

「でもレオが!」

 警官隊は容赦なく銃弾をレオに放つ。レオはダメージを食らいながら警官隊に突撃すると、腕を振り回し、警官隊を吹き飛ばした。

「結界は消えたけど、レオはモンスターになったまま・・・、どうすればいいの!?」

 ミリアは苦悶する。

 そんななか、警官隊の後ろから一人の男が歩いてきた。瀬良ヒョーゴだ。

 ヒョーゴはペンダントのロケットから一発の銃弾を取り出すと、リボルバーにセットし、レオの顔に標準を付けた。

「ヒョーゴ、やめて! あれはレオなのよ!」

 ヒョーゴはミリアの顔を見てニヤリと笑うと、レオに向かってためらいなく銃弾を浴びせた。

「レオ!!!」

 銃弾がレオの頭に当たると、モンスター全体が光に包まれた。レオはうめき声をあげると、まるで映画の巻き戻しをしたかのように、モンスターから人間の姿に戻っていった。首筋からは薬品がこぼれている。

「これは時の魔女の力? でもなんで瀬良ヒョーゴが?」

 ノルンが疑問を口にする。その時、人影がミリア目掛けて直進し、ミリアを吹き飛ばした。思わずしりもちをつくミリアの肩に、いつの間にかモググはいない。ミリアを襲った人影――ゴウトに奪われたのだ。

「モググ!」

 叫ぶミリアにゴウトは嘲笑を返す。ゴウトはぬいぐるみを一瞥すると、ニヤリと笑う。

「なるほど。こいつが7番目の魔女の遺産か。素晴らしい魔力だ。こいつがいれば計画は問題なく進められるな」

 暴れるモググを握って止めると、ゴウトは背を翻して逃走する。

「モググを返しなさい!」

 追おうとしたミリアを止めたのは、傷だらけのタクトだった。

「行かせないよ」

 タクトは力を集中させ、ミリアとゴウトの間に大きな竜巻を発生させる。

「やめなさい! あなたにはもう魔力が残っていませんわ」

 そう叫んだのは、タクトと交戦していたモニカだった。その言葉に逆らうかのように、タクトは竜巻に自身の魔力を籠める。風の力は強まる。しかしそれに反比例するかのように、タクトの顔色は悪くなっていく。

「やめなさい! このままじゃ、アナタ・・・」

 モニカは悲痛な声で留めるが、入口を塞ぐ竜巻はますます強くなる。ミリアやモニカ、そして警官隊のだれもが逃げるゴウトを追うことができない。

「ナンバー1は鍵を手に入れた。あれさえあれば組織の悲願が達成されるんだ」

 タクトは魔力を放出し続ける。表情は満足げだが、その体は時間とともに透けていくのが分かった。やがて、タクトは跡形もなく消えていった。

「何が起こったの?」

 竜巻が発生した跡を見ながら、ミリアは疑問を口にする。

「あの男は自分の存在を魔力に変えたんですわ。通常なら魔力切れで倒れるだけですが、ここは地脈と現世が交わる霊地。霊地で魔力を使いすぎると消えてしまうことがあるの。こうやって消えた人は、ひどいときは過去ごと消えてしまう。過去が消えてしまうと、誰もその人のことを思い出せなくなってしまう。ミリアも気を付けて。魔法は便利だけど、際限なく使うことはできない。限界を超えて使ってしまうと、こうなってしまう可能性があるのよ」

 ミリアはナンバー3が消えた場所を見つめていた。ゼミで聞いたことがあった。過去を消された人間は人々の記憶はおろか、写真などに写った姿も消えてしまうという。

「あいつら、モググをどうしようっていうの?」

 その時、ミリアのもとに瀬良ヒョーゴが駆け寄ってきた。

「モググ・・・・、いや7番目の魔女の、皆藤ツグミの魔力をいけにえにして、赤堤市全体を洗脳する気なんだ。くそっ、こうならないように立ちまわってたはずなのに・・・」

 瀬良ヒョーゴが吐き捨てる。

「皆藤、ツグミ…。わからない。その子のこと、よく知っているはずなのに」

 ミリアはそうつぶやくと、目を閉じる。次の瞬間、地面から光があふれ、ミリアに降り注いだ。

「・・・・ツグミ? あの子はツグミなの!? なんで私、あの子のこと忘れてたんだろう!」

 ミリアは茫然としてゴウトが去っていった方向を見つめていた。

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