秘密の間

 ミリアとノルンが飛ばされた部屋には床に魔法陣が描かれていた。そしてミリアたちの周りを取り囲むかのように7つの台座がある。それぞれの台座の上には 石碑があった。

「ここは?」

 茫然とした表情のまま、ミリアがつぶやく。ノルンは驚きを隠さずに答える。

「ここが秘密の間? 前に来たときはたどり着けなかったのに。この部屋、すごい魔力が漂ってるよ」

 ミリアたちは混乱した頭のまま、周りを見渡す。よく見ると、それぞれの石碑に文字が刻まれているのが分かった。

「豊穣、結界、予言、静寂、夢、そして破壊・・・・最後は時? 、魔女の力を表しているの? でも破壊の力は分かるけど、時って? それに結界の台座の前には水晶と、これは短杖、かな? これはあとで置いたものみたいだけど・・・」

 ノルンはぶつぶつとつぶやく。水晶は不気味な光をたたえている。

「あの水晶、まがまがしい色をしている。あれを作るために、何人も犠牲になっているのかもしれない」

 ノルンはつぶやく。この場所で結界の力を集め、装置や水晶を作っていることは間違いないようだ。本来魔女にしか使えないはずの力を、水晶によって使えるようにしているということだろう。

 そして台座の数も気になる。赤堤市に現れた魔女はミリアを含めると7人で、数は合っている。だが、7つの石碑がそれぞれの魔女の力を表すとしたら、言葉が違っている。

「治癒がない。彼女は魔女の中で一番世界に貢献したはずなのに、なんでないの? 破壊と時の石碑は光ってないのも気になる。時って? 私たちの知らない魔女がいるということ?」

 ノルンは混乱する。ミリアは時の石碑を見ていた。時間を少し戻すことができるなら、怪物に変化したレオを助けることができるかもしれない。

 ミリアは『時』と刻まれた石碑の前に立つ。しかし、石碑も台座もなんの変化も現れなかった。

「何も起こんない。時の魔法が使えるんじゃないの!?」

 ミリアは苛立つが、石碑はうんともすんともいわない。

「時は条件を満たしてないということかな? 他の石碑の前に私が立っても何にも反応しないし」

 いつの間にか夢の石碑の前に立つノルンだが、何の反応も見られなかった。

「やっぱり魔女か、特殊な道具がないと力を利用できないのかな」

 ノルンはがっかりしたような声を上げる。ミリアは自分の力を示す『破壊』の石碑の前に立ってみた。すると、ミリアから石碑に向かって魔力が流れ込んでいった。

「ミリア! 大丈夫? すぐに石碑から離れて!」

「そんなこと言われても・・・・動けないのよ!」

 ノルンはミリアを引っ張って動かそうとするが、ミリアは動かない。

「痛い、痛いって! ノルン、どこ触ってるのよ!」

「ミリア、危ないよ」

 泣きそうな顔でミリアを引っ張るノルン。その表情に毒気を抜かれたのか、穏やかな表情でノルンをなだめる。

「大丈夫、魔力は吸われてるみたいだけど、体調には問題ないみたい。ほら、もう止まるみたいだし」

 ミリアの言葉通り、ミリアから石碑に流れる魔力の流れは次第に弱くなっていった。そして破壊の石碑は外の5つと同じように輝き始めた。

「ミリア、大丈夫? 痛いところはない?」

 心配そうに話しかけるノルンを安心させるため、ミリアは努めて明るく言った。

「大丈夫、ちょっと疲れたけど問題ないよ。それよりも、この部屋はなんなんだろうね。魔力が高い人は入れるみたいだけど。結界の台座の前の水晶も気になる。あれって、白衣の男がもっていたものよね? それにあの短杖は、結界装置だよね。私なら、光ってる石碑の前に断てば、歴代魔女の力を借りられるのかな? ねえノルン、レオを助けるにはどうしたらいいと思う?」

 ノルンはまだ不安そうな表情をしていたが、ミリアの問いに考えを巡らせる。

「治癒があればピッタリなんだけど、選べないみたいだね。夢の力を使って洗脳されてるかもしれないから、この中で言うと静寂かな。でもモンスターに変化した後だと・・・・」

 ミリアは唇をかむ。度の魔女の力を使っても、レオを助けることはできなそうだ。

「とりあえず、ミリアは破壊の力で結界装置を壊すのが大事だと思う。結界装置は使用者の命を削っちゃうから…」

「わかった。あれ、モググはこっちに来てないのよね? 確か魔力の強さが条件だったはず・・・」

 使い魔はこの場所に来られないのだろうか。謎は深まるばかりだった。ミリアは疑問を感じながらも『静寂』の台座の前に立った。ミリアが前に立つと、台座の上の水晶は輝きを増し、ミリアとノルンはまぶしさに顔を背けた。そしてあたりは真っ白な光に包まれた――。

 石碑から女性の影が現れた。ミリアと同じ年頃に見えるその少女は、ミリアの左手を自分の胸の位置まで上げ、手を握りながらそっと話しかけてきた。

「私の力――、『静寂』の力は他の魔女の力さえも消し去ることができる。大切に使ってね」

 ミリアの左手に自分の力を渡すと、そっと微笑んで消えていった。

「ゆ…、幽霊!? 幽霊なんていないはず」

 ノルンは恐怖で顔が真っ青になる。ミリアもその現象には驚くが、少女の顔は優しく、恐怖を感じることはなかった。

 そして、2人は再び光に包まれた。

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