魔女の館4
スクワーレは思わぬ苦戦を強いられていた。
「はっはぁ! 燃えちまいな!」
ナンバー1、ゴウトが突き出した手の平の先が爆発する。魔法の正体は爆発。それだけなら、スクワーレにとって対処は難しくない。問題は爆発の使い方だ。
「うあああああああ!」
階段の上には多数の組織の構成員がいた。その一人がスクワーレに抱き着こうとする。スクワーレは素早く下がって回避するが、次の瞬間、構成員の胸が爆発する。
「くっ!」
スクワーレが爆風に吹き飛ばされそうになる。ゴウトは構成員自体を爆弾として使っているのだ。
「どうした! 早く俺を倒さないと、うちの兵隊が死ぬぞぉ! お前は強いんだろ? スクワーレ! それとも嗅ぎまわるしか能がないのか!?」
スクワーレは警察である。犯人と対峙しても殺すのではなく逮捕することを考える。そして、自分の仲間を使い捨ての武器のように使うゴウトに強い怒りを感じていた。
「お前の仲間だろう! 罪悪感はないのか!?」
「ないね! こいつらは魔力を持たないゴミだ! 俺に使われることを光栄に思っているはずさ! こいつらの命が惜しいのなら、さっさと俺に殺されろぉ!」
スクワーレは刀を構える。
「お前のミスは最初の一撃で私を殺せなかったことさ」
戦いの最初に構成員が近づいてきたとき、無防備に近づいてくる様子を見て違和感があった。スクワーレは最初の構成員を突き飛ばすと、次の瞬間には構成員の胸の前の空間が爆発した。その時に彼の魔法を理解したのだ。その行動が隙になるとスクワーレは感じている。
だがゴウトは仲間の消耗など気にしない。そしてゴウトに武器にされた構成員たちは血を流しながら立ち上がり、再びスクワーレに近づいていく。そこに表情はなく、目は虚ろだった。
「仲間の構成員を洗脳しているのか?」
「ヒヒヒ、こいつらには爆発を防ぐ耐衝撃スーツをつけているから1一撃で死ぬことはないさ。この中の誰かにつかまった時がお前の最後だ!」
狙うはゴウト本体だ。スクワーレはゴウトを直接攻撃しようとするが、ゴウトは巧みに構成員を盾に使い、攻撃の的を絞らせない。
それならばと、スクワーレは目の前の構成員に狙いを定め、左袖からペンデュラムを発射する。ペンデュラムが構成員に当たると紫色の電撃が走り、構成員の意識を飛ばした。そのままペンデュラムを振り回し、ゴウトの盾になっていた構成員2人を吹き飛ばす。
スクワーレはその勢いのままゴウトに襲い掛かるが、ゴウトは全身に魔力を展開し、素早い動きでスクワーレから距離を取った。
「ひひひ、俺を簡単に倒せると思うなよ」
電撃を浴びせて倒れたはずの構成員は、まるでゾンビのように立ち上がる。ゴウトは構成員の操作と爆発の魔法の両方を扱っているのだ。
「厄介な・・・。伊達に組織のトップというわけではないようだな」
「兵隊どもにどんどん魔法を使うがいい。魔力が切れた時がお前の最後だ」
スクワーレは覚悟を決めた表情でゴウトを睨んだ。
「映像ルーム」に入ったミリアとノルンは、奥の椅子にレオが縛られているのを見つける。
「レオ!」
傍に駆け寄ろうとするミリアをノルンが止める。
「待って。レオの近くに誰かいる」
その言葉を聞き、レオの傍らから白衣の男が歩み寄っていることに気づく。眼鏡をかけ、白衣を着たひょろりとした30代くらいの男で、左手には水晶を持っていた。
「あの水晶からものすごく強い魔力の渦が見える。気を付けて」
ノルンが忠告すると、男は嬉しそうに顔を歪めた。
「うれしいねぇ。姉さんの水晶の価値が分かる人間が現れるとは。みんながこの水晶の価値を知るのは、力が発現した後さ」
そういってポケットから取り出したのは、見覚えのある注射器だった。
「あんた! それをどうするつもり!!」
成人式のあの日、あの男は注射器を自分の首に刺し、薬品を注入することでモンスターへと変化した。スクワーレの話だと、魔力保持者に薬を注入すると、モンスターに変化するらしい。そしてレオは魔力保有者だ。
「一足遅かったね。新たに生まれ変わった姿を、彼女に見てもらえ!」
そう言って男はレオの首筋に注射器を打ち込んだ。
「う、うぅ」
レオは苦悶の表情を浮かべて気を失う。がっくりと頭を垂れたかと思うと、震えだし、体がみるみる膨張する。
レオはみるみるうちに犬の顔を持つモンスターに変化していく。
「うがああああああ!」
モンスターと化したレオが叫ぶ。眼鏡の男は水晶をレオに向けると、レオに光が降り注ぐ。その光が途切れると、レオはまるで親の仇でも見るかのように、ミリアたちを睨んだ。
レオは拘束を引きちぎる。眼鏡の男は嬉しそうな顔で、ミリアたちに牙をむくレオを見つめていた。
「くっ、くらえ!」
ノルンが火球を作り出し、眼鏡の男に放つ。しかしレオが素早い動作で男を庇う。炎は、レオの周囲に現れた結界にかき消される。レオの腰に結界装置が輝いているのが見える。そして、レオの周りには結界が現れていた。
「この薬を投与したら被験者が死ぬまで止まらない。一足遅かったね」
ミリアの顔が絶望に染まる。
「いやああああああああ!」
ミリアは叫び、無意識に魔力を放出する。ノルンの視界が白一色に染まる。そして次の瞬間、ミリアとノルンは見知らぬ部屋に佇んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます