魔女の館3
モニカがカルナと戦っているころ、アイラも組織の魔術師と対峙していた。相手は組織のナンバー3、タクト・・・、モニカが戦っている相手より格上だった。
「なんであたしが姐さんの相手より格上と戦ってるんだよ!?」
そう吐き捨てるアイラ。事実、アイラは相手の攻撃を避けるので精いっぱいだった。敵が右腕をかざすと、アイラは素早く回避する。アイラがそれまでたっていた場所に、風の刃が通り過ぎた。間髪入れずに左腕を前に突き出すと、今度は水の玉が飛んできた。相手は、風と水を操る魔術師だった。アイラは展示物の陰に身を隠すと、ナンバー3の姿を覗き込んだ。
「いやヤバイって。確実に私より強い相手じゃん」
アイラも何度か魔術で腕を作り上げ、タクトを攻撃したものの、水の盾によって阻まれ、風に切り裂かれた。魔力の腕は破壊されてもダメージはないが、一度に1本しか発現できず、破壊されたらその分の魔力を消耗する。魔力が決して多いとは言えないアイラにとって魔力の腕が破壊されるのは厳しいと言わざるを得なかった。
「ふふふ、レイディ、そろそろ諦めたらどうだい。今なら一撃で楽に殺してあげるよ」
タクトは余裕の表情だ。
「うるせーよ!!」
アイラは忍ばせていた銃を放つ。だが銃弾はタクトの魔力の盾にあっさりと阻まれる。人を容易く傷つける銃は、優秀な魔術師にはほとんど通じなかった。
「フフッ、苦し紛れの銃が通用するわけないだろう。君もあと何回も腕を作れるわけじゃないんだろう? 構築できるのは1本だけみたいだし、君、あんまり魔術の才能ないんだね」
そんなことは言われなくても分かっている。アイラには、モニカのような吸魔体質やノルンのような膨大な魔力があるわけではない。構築した腕は他の魔術師よりも細かい動きができるが、それだけだった。本物の腕と同じように動ける腕と、身体強化と体術。それがアイラのすべてだった。
「くそが!」
アイラは毒づく。一般人と違って、魔術師は魔力の腕を簡単に壊すことができる。先に道路でやったように、腕で首を絞めても簡単に対処されるのは明らかだった。
「銃も効かない。腕もダメ。こりゃ積んだかな」
あきらめそうになるアイラだが、そのときスクワーレやモニカ、ノルンの顔が頭に浮かぶ。彼らに恥ずかしい行いはできなかった。
「まあ、できるだけやるかね」
そうつぶやくと、物陰に隠れながら、地下倉庫のドアを開ける。タクトはニヤリと笑いながら、アイラを見つめた。
「おや、そこは行き止まりだよ?」
「んなこたぁ分かってる! ここで勝負をつけてやるよ!」
アイラは不敵な表情を見せて中に入る。倉庫には6列の棚が置かれ、3段の棚には物が敷き詰められている。タクトは気づく。彼女の魔法の“腕”が隠れるスペースが無数にあることを・・・。自分がこの博物館の倉庫まで誘い込まれたことを。タクトの隣には段ボールが高く積み上げられていた。
「さあ、私の腕はどこかな?」
そう言うと、棚から工具箱を取り、スパナをタクトに投げつけた。左手に風をまとわせ、あっさりと防ぐタクト。周りに注意しながら、そのままアイラに近づいていく。そしてアイラは2本目の工具を手に取る。投げた先はスプリンクラーだ。魔力で強化された投擲はやすやすとスプリンクラーを破壊し、水をあふれ出させる。水がタクトに降り注ぎ、びしょぬれになった。
「こんなことで仕留められると思ってるのか」
雨のように降り注ぐ水を浴びながら、怒りの表情を見せる。そんなタクトに3本目の工具を投擲するアイラ。タクトはそれも左手の風で防ぐ。
その時、銃声がナンバ―3を襲う。彼の左側には銃を持った腕が浮いていた。銃声は3発続けて響いた。
タクトの右手は氷を操る。濡れた体で冷気を放つとどうなるか――。タクトは氷の盾を手の30センチほど先に生み出すことで、自分を凍らせることなく銃弾をあっさりと防いだ。
タクトはアイラを嘲笑しようと正面を見ると、アイラが突撃してきたのが見えた。
「返り討ちにしてやるよ!」
風の刃で斬ろうとするが、アイラはタクトを飛び越え、そのままドアから倉庫を出ていく。
「何がしたいんだお前は?」
イラついたような顔でアイラの背中を見る。その時、彼女の前から一人の女が歩いてくるのが見えた。魔法対策7課のエース、モニカだ。
「何をしたいかって?」
アイラはニヤリと笑いながら言う。
「そりゃ決まってるだろ。時間稼ぎさ」
戦闘が始まってすぐにアイラは自分がタクトに及ばないことに気づいた。だから戦闘は逃げに徹し、モニカの援護を待ったのだ。
モニカがカルナを降したことを察し、タクトは顔を引きつらせる。
「うちの隊員をいたぶってくれたみたいですわね」
モニカが静かに殺気をぶつける。
「姐さん悪い! 私にゃ荷が重い。あとは任せたよ!」
軽い口調で言うアイラ。モニカはどこかあきれたようにアイラを見る。
「カルナはどうした! 戦闘力だけならうちで一二を争う女だぞ!」
焦りを見せるタクトだが、モニカは余裕の表情だ。
「戦闘に時間をかけすぎですわよ。ここからはワタクシが相手して差し上げますわ」
そういうと、モニカは構えを取る。新たな敵から膨大な魔力を感じ取り、タクトは余裕のない表情でモニカを睨んだ。
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