魔女の館2
映像室に向かったミリアとノルンを見送りながら、モニカはカルナと対峙する。高校時代の全国大会決勝以来、因縁の相手だ。
「三枝ぁ! 大会の時は魔力を使ってズルしてきたお前がアタシに勝てると思ってんのか!?」
「弱い犬ほどよく吠える、とはよく言ったものですわ。床にたたきつけてあげますからさっさとかかってきなさい!」
カルナの挑発を軽く受け流すと、モニカは構えを取る。とはいえ、カルナの身体強化の魔法による膂力とスピードは脅威だ。決して侮れない相手だとモニカは気を引き締める。だが、しかし・・・。
「床に這いつくばるのはどちらだろうなぁ!」
カルナは手を挙げると、彼女の周辺から無数の石が浮上し、宙に止まる。そしてモニカを指さすと、石礫は勢いよくモニカに向かった。モニカは右に、スクワーレとアイラは左に飛んで避ける。そして左に避けた2人はナンバー1、ナンバー3と対峙する。
一方、右に飛んだモニカに、カルナは一瞬で距離を縮めると襟と袖を掴む。そのまま投げ飛ばそうとするが、モニカはあっさりと重心を下に落とすことで防ぐ。
「ぐっ、てめぇ!」
「ねえカルナ、あなたは一つ勘違いをしていますわ」
モニカは冷たく微笑みながらカルナに告げる。頭に血が上ったカルナはモニカを床に叩きつけようと足を仕掛けるが、モニカは重心を落としてその技を防ぐ。そして両腕を回してカルナの両手を振りほどく。
カルナはモニカの腕を取ろうとするが、あっさりとモニカに避けられる。二人は一騎打ちの様相を呈するが、表情は対照的だ。モニカからは余裕が感じられ、カルナは怒りを隠さない。
「なんでだ!? なんで投げ飛ばせない!」
カルナの猛攻を防ぎながら、モニカは告げる。
「だってアナタ、柔道はそこまでうまくないじゃない?」
「なんだと!?」
カルナが再びモニカに近づくが、モニカは涼しい表情で攻撃をしのいでく。
「確かに私は今魔力を使っています。アナタが投げるタイミングで殴ろうとする拳を防いだり、あなたの蹴りを無効化したりね」
だがそれでもモニカが膝をつくことはなかった。
「なんなんだ、おまえはなんなんだよぉ!」
カルナは叫び、地面の石を操ろうとするが、モニカが近づくとあっさりと霧散する。
「な、なんで・・・」
モニカの静かな強さを感じカルナはおびえを隠せない。モニカは素早くカルナの襟と袖を掴むと、あっさりと投げ飛ばす。カルナは床に叩きつけられた痛みで一瞬動けなくなるが、すぐに立ち上がろうとする。しかし、体に力がまるで入らないことに気づいた。
「お、お前、私に何をした!」
憎悪のこもった目でモニカを睨むが、彼女は涼しい表情を崩さない。
「投げたと同時に魔法で気道を断っただけですわ。魔力を持つものならだれでもできる基本スキルですわよ」
カルナは顔を赤くしながらも戸惑いを隠せない。
「お前の力は身体強化じゃないのかよ」
カルナは悔し気に息を吐く。高校時代の試合でモニカが身体強化をしたのが原因でカルナは敗れた――そうカルナは思い込んでいたが、そもそもモニカはカルナとの試合まで魔力を使ったことはほとんどなかった。彼女の魔法は“吸魔”。相手の魔力を吸収し、それを利用するというカウンターに特化した能力だった。以前の決勝戦においても、カルナの魔力に反応して魔法を放ったに過ぎなかった。
「あなたの敗因は単純なスキル不足よ。柔道の技も、魔力においても基本が足りない。だから簡単に魔力を私に利用されるのよ」
モニカがカルナの魔法を防げたのは、それまでにカルナの魔力を吸収していればこそだ。柔道家としても魔術師としてもはるかな高みに立つモニカに、悔しさがこみあげてくる。
モニカはカルナの胸に掌底を加える。その鋭い攻撃により、カルナは苦悶の表情を浮かべる。そして腕と襟首をつかむと、再び投げ飛ばした。カルナは悔しそうな顔をしながら、意識をなくしてしていった。
「さて、アイラを援護しないと。今日は大仕事になりますわね」
モニカのつぶやく声が聞こえる。他の4名はそれぞれの相手にこの場を離れたようだ。スクワーレはナンバー1とともに階段方向に、アイラはナンバー3と奥の倉庫に向かったようだった。意識を失いながら、カルナは高校時代から今に至るまで、モニカの足元にも及ばなかったことに気づかされた。
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