一日は終わらない

「まあ奇襲ですわね。最初の一撃で私を昏倒させて、その隙にミリアを誘拐しようというのが今回の手口ですわ」

 セーフハウスに戻ると、モニカが今回の襲撃について説明する。どうやらサラリーマン風の男が中心となって今回の襲撃が行われたらしい。女のほうは後詰というやつだ。

 しかし、思い出すと恐ろしくなる。モニカが事前に襲撃犯を特定できなければ、あっさりとつかまっていたかもしれない。今更ながら震えてしまうミリアだった。

「護衛に着く私とアイラには魔力を読み取る力がありますわ。不意打ちは通じないことが組織にも伝わったはず。さて、相手はどう出てくるのか・・・」

 げんなりしながらリビングでくつろいでいると、間々田さんが話しかけてきた。

「先ほど中央から尋問の専門家が到着したらしいね。何日か後には捕らえた男から詳しい話がききだせるんじゃないかな」

 そう言うと、リビングでくつろいでいるミリアとモニカにコーヒーを出す。ちなみにリビングには先客がいて、ノルンが宿題のドリルを解いていた。そんな魔術対策7課の面々を眺めながら、ミリアはこれからのことを考える。

「私・・・・、今回は何にもできなかった。これから大丈夫かな」

「とりあえず明日尋問班が仕事をすれば、連中が魔女を狙う理由がわかるだろう。そこから反撃に出るしかないな。大丈夫、中央から来た専門家は有能だ。明日には組織の事情もはっきりするはずさ」

 間々田は安心させるかのように話す。そんな様子を見て不機嫌になったのはノルンだった。

「普段は勇ましいことを言って、いざとなればおびえるのね」

 カチンとくるミリア。

「なんですって!?」

 噛みついてくる少女を、やさしく窘めたのはモニカだった。

「ノルン、そんなことを言ってはいけないわ。ミリアは今まで普通の生活をしてきたの。組織との抗争におびえるのは当たり前のことなのよ」

 慰めてくれるモニカの言葉を聞いて頭が冷える。しかしノルンは止まらない。

「あなたには助けてくれる人がたくさんいるじゃない。おびえている暇があるなら、襲われないよう魔術の腕を磨いたらどうなの?」

「ノルン!」

 モニカが叱ると、ノルンはミリアを一睨みして2階に走る。

「ごめんなさいね。あの子ちょっと不機嫌みたいだから」

「いえ、私、だめですね。あんな小さな子に叱られるなんて」

 その後、モニカが慰めるも、気分は落ちたままだった。レオの声が聴きたくなってきた。

「間々田さん、コーヒーありがとう。ちょっと部屋で休んでくる」

 そう言って、ミリアは自分の部屋に戻った。


 レオの携帯に「少し話がしたい」とメッセージを送る。すると、30分ほどしてレオから電話がかかってきた。

「ミリア、大丈夫か」

「レオ…、電話ありがとう。今話せる?」

「ああ、襲撃があったそうじゃないか。怪我はないか?」

 電話の向こうのレオは心配そうだった。当たり前だ。古くからの友人が組織に狙われて安心できるわけがない。

「レオ・・・・、今日襲撃があったんだけどね、私何にもできなかった。私が魔女かもしれないって言われて魔力の使い方勉強して、少しは戦えるかもって思ってたけど、今日は護衛の人が気づかなかったらあっさりつかまってたと思う」 

 ついつい弱音を吐くミリア。この襲撃がいつどうやって終わるかはわからない。先の見えない状況に、不安は大きくなるばかりだった。

「ミリアはまだ魔法の使い方を学んだばかりじゃないか。すまんな、俺がもう少し強かったら支えてやれるのに。お前を護衛している魔法対策7課は中央でも1、2を争うほど優秀な魔法使いらしい。彼らに任せておけばお前の安全は保障されると思う」

 気を使い、励ましてくれるが、ミリアの気持ちは下がったままだ。

「わかってるよ。でも何もできないのがつらい。私は弱くて、ほかの人の足を引っ張ることしかできないの」

「それは当たり前だ。ミリアは普通の女子大生なんだから。専門家たちに守られるのは仕方ないさ」

 言われなくてもアイラたちに守られるしかないことは分かっている。だがミリアは先の見えない状況に疲弊していた。そんな彼女を一生懸命励ましてくれるレオ。その言葉を聞いていると、ミリアの気持ちも少しずつ落ち着いてきた。

「レオ、今日は愚痴を聞いてくれてありがとう。そっちも忙しいのにごめんね」

「いや、こっちこそ話を聞くことしかできなくてすまん。月並みなことしか言えないけど、頑張れよ」

 不器用に励ます言葉を聞いて少し気力を取り戻す。

「ありがとね。また電話するね」

 そう言って電話を切る。そして、窓の傍に立つあのぬいぐるみに話しかけた。

「ねえ、そろそろ事情を教えてくれてもいいんじゃない?」

 動き出したハリネズミのぬいぐるみは、困ったような表情でミリアを見つめた。

「残念ながら、話をしている暇はないみたいモグよ」

 そう言って渡したのは、セレモニーホールにあったあの和紙だった。思わず受け取って中身を見る。そこには、

「7人目の魔女様。あなたの身内が襲われている。急ぎなさい。家族を守ることがあなたの心を守るのよ」

 驚いた表情でモグを見つめる。

「これは!?」

「急いだほうがよさそうモグ」

 そのとき、入り口のドアが勢いよく開けられた。

「ミリア! 魔法の気配がしましたわ! 無事ですの!?」

 部屋に飛び込んできたモニカに、ミリアはぬいぐるみからもらった和紙を見せるのだった。

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