魔力について
「ミリア君は魔法についてどの程度知ってるかな」
尾藤教授は尋ねる。ミリアは思案顔で答えた。
「ええと・・・・、魔力を使っていろいろできるってことですかね。火をおこしたり、凍らせたり。あ、あと遠くの物を触れずに動かしたりかな。あ、身体能力を強化したりもできるんでしたっけ?」
尾藤教授は満足気だ。
「さすが僕の生徒だ。よく勉強してるね。まず挙げられるのが火・水・風・土の魔法だ。こう聞くと属性のように聞こえるが、それぞれに強弱関係はない。魔力を火に変える術式、水を生み出すための術式、といった具合にそれぞれの発現方法が判明して、魔力を持つものなら訓練すれば誰でも使えるようになるのさ。といっても長時間の厳しい訓練が必要だし、一般的な魔術師が習得できるのは1種類がせいぜい。それ以上は訓練しても習得できる人は少ない。まあ、中には2種類使える強者も存在するけどね」
魔力でどんなことができるか、具体的に聞くのは初めてだった。聞くミリアも真剣な表情である。
「あとは君も言っていた通り、念動力や幻惑といった能力さ。魔力を使って遠くの物を動かしたり、バリアをはったりするのもこれに該当する。これは体系化されていない能力が多く、魔術師個人が自分で考えて魔力を使っているケースが多い」
尾藤教授が言うと、それまで暇そうにしていたアイラが口をはさむ。
「多分すぐ見せることになると思うから言うけど、私はもう一つの腕を作り出す魔法を習得している。魔力で腕を具現化させて自由に動かすのは、簡単に見えるかもだけど、思った通りに動かすのは結構難しいんだぜ。私以外に同じくらいの精度でこの魔法を使える奴は見たことないね」
セリフを取られた尾藤教授だが、気にせずに続ける。
「彼女のようなケースもあるから、魔力は量が重要というわけでもない。鍛えれば、自分の思う通りの力を実現できるのが魔法さ。魔力も多ければ多いほどいいというものではない。魔力過多になると、感情がぶれると自分が意図しないタイミングで勝手に魔法が発現してしまう。この現象が起こる人間を過重魔力保持者といい、嘆かわしいことに遠巻きにされてしまうケースが多い。まあ、火の魔法が勝手に発生する子もいて、危ないからね」
魔力が多ければいいという問題でもないのか、ミリアは驚く。アイラは少しうつむきがちになっている。そしてミリアは気づいた。
「アレ、でも魔女はすんごく魔力が多いんですよね? 私、今のところ暴走とかしてないみたいだけど、これからはやばいの?」
ミリアは疑問に思う。成人式の日、銃にかなりの魔力を込めたはずだけど、銃が壊れたり暴走することはなかった。
「そこが過剰魔力保持者と魔女の違いだね。なぜか、魔女は魔力の使い方を知っている。そして、魔法についても一度見ればすぐに再現できたりするそうだ。使える種類にも制限がない。普通の魔術師はある程度魔法を習得すると頭打ちになるんだけどね。魔女っていうのは今で言うと魔法に対しては反則的に優れているんだ」
ミリアは自分の手を見つめた。まだ試していないけど、アイラの魔法も再現できるということか。
「まあ、再現できることと使いこなせることは違うけどな。例えばアンタは私の真似をして魔力の腕を作ることは可能だと思う。でも思うように動かせるかは別さ。手で物を投げたり浮かせたりするのは練習が必要だと思うぜ」
魔法は再現できるが、技術までは再現できないということか。
「そして魔法使いの体質、というものがあってこれも再現できない。魔法使いの中には魔力を体で吸収したり、特定の魔法が聞かなかったりというように、体質的に魔法が聞かない人も存在する。これについてはいかに魔女とはいえ再現できないから注意が必要かもしれないね」
尾藤教授の言葉を聞いて、ミリアは顔をしかめる。
「やばい、こんがらがってきた」
ミリアの言葉に、尾藤教授は笑う。
「あとは魔法陣とかがあるけど、まあ、座学はこれくらいにしておこうか。ミリア君が魔力をしっかり使えるように、訓練しておこうね」
尾藤教授がさわやかな笑みを浮かべる。ミリアは汗を垂らしながら引きつった表情で答えた。
「お、お手柔らかに」
訓練は夕方まで続いた。最初は座学と魔力を感じることで、新たな知識に戸惑いながらミリアは教授の話に耳を傾けた。横から茶々を入れるアイラをうっとおしく感じながらも、魔法について知識を深めていく。
「いやさすが魔女候補生だね。基本的な知識は授業で身についているとはいえ、初日で魔法の基礎を習得できるとは」
尾藤教授は驚きを隠せない。ミリアは魔力の確認、循環をわずかな時間で習得していた。
「身体強化は魔力を巡回さえさせれば誰でも程度できるようになるんですよね? 」
「いやいや、魔力の循環がなかなか制御できない子は大勢いるんだよ? 君がお世話になる魔力対策7課にも、魔力の扱いに苦労している子はいる。これだけきれいに循環できるなら、身体能力はかなりのものになってるんじゃないかな?」
ミリアは魔力を循環させながら教授の話を聞く。確かに体が軽い。今なら重いバーベルも簡単に持ち上げられそうだ。この万能感はちょっと癖になるかもしれない。
「これだけの魔力があるのに暴走の恐れがないのはすごいな」
アイラも驚いた様子だ。
「アイラも身体能力はすごいよね?」
思い出すのは、十六夜で4人を相手に大立ち回りをした彼女の姿だ。大の男を簡単にのしていったアイラ。あれは身体能力強化を使っていたのだろう。
「あんなのは基本だよ。大事なのは体をどう使うかさ。そういう意味ではうちには身体能力のプロがいるからなぁ」
「まあそのうち会うことになるさ」と答えるアイラ。口ぶりからすると、アイラよりも強いいる人が同じチームにいるらしい。まだ見ぬ魔法対策7課のメンバーに不安を感じるミリアだった。
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