成人式3

 銃弾は確かに着弾したはずだった。

 だがモンスターは気にした様子もなくミリアを睨みつけた。

「あ、あれ? 当たったよね? 全然効いてないじゃない!」

「え、そそそんなはずは・・」

 モンスターはミリアに向かって腕を振るう。その一撃をしゃがんで回避するが、わずかに髪をかすめる。追撃しようとするモンスターをミリアが思い切り睨みつける。すると、モンスターの動きが目に見えて遅くなる。そして、怪物の皮膚が、少しずつはがれていった。ミリアの魔力が、モンスターにダメージを与えているのだ。

 怯えながらも銃を向けるミリア。次弾を撃つと、モンスターは大きくのけぞったものの、鋭い目でミリアをねめつけながら唸り声をあげる。

 今にも飛び掛かろうとするモンスターだが、その時、横からパンッパンッパンッパンッと4発の銃声が響いた。

「そこまでだぜ、犬野郎が!」

 現れたのは、幼馴染の瀬良ヒョーゴだった。髪をオールバックにした瘦身の姿を見て、ミリアは安堵する。

「ヒョーゴ!」

「遅くなったな。こいつを調達するのに手間取った」

 と、倒れた警備員から調達した銃を見せる。

「もう、遅いよ。」

 泣きそうな声で声をかけるが、

「グゥオフッ」と息を吹き返したモンスターの声に硬直する。

「やっぱり銃は効かないの・・?」

 不安に包まれるミリア。しかし銃創からは血が流れだしており、ヒョーゴの銃弾がダメージアを与えたのは間違いないように思えた。

 しかし、モンスターは最後の抵抗とばかりにミリアに飛び掛かろうとする。

「いやっ」

 身構えるミリアだが、レオが横からモンスターに飛び蹴りを放つ。そして正拳から回し蹴りのコンビネーションを次々とヒットさせた。

「ミリアから離れろ!」

 レオが気を吐き出すとともにモンスターの顔面に回し蹴りを放つ。そして一歩、2歩と下がったモンスターに、ヒョーゴがとどめとばかりに銃弾を撃つ。そうしてやっと、モンスターは動きを止めた。

「大丈夫か、ミリア」

 思わずへたり込むミリアに、レオが声をかける。

「レ、レオ・・・・」

 仲間たちに目を向けると、みんな怪我はないようだった。

 会場の様子に目を向ける。刀を持ったあの男は入り口をふさいでいたモンスターを切り飛ばしていた。入口への道が開くと、新成人たちはそのドアに殺到する。

 あと2箇所の所の入り口はどうなったか。モンスターの1体が炎上しており、もう1体に刀の男が向かっている。収束の時間は近づいていた。

「し、死ぬかと思った・・・」

 新成人たちの無事が分かると、力が抜けていく。仲間たちの無事な様子に安心したのと同時に、ミリアの意識は遠ざかっていった――。



「怪我人はでましたが、死者は出なかったようです」

 警官が長髪の男に報告する。

「私が倒したモンスターはどうなりました?」

 長髪の男が警官に聞くと、警官は頭を振ってこたえた。

「モンスターは死亡が確認されました。結界を破壊したダメージが本体にフィードバックしたみたいですね」

「今までの結界持ちモンスターと同じ末路です」と、警官は言葉を続ける。

 モンスターが持たされた結界装置は、あらゆる攻撃をはじく障壁を張る代わりに、所有者から強制的に魔力を吸い上げる。魔力を吸い尽くすと所有者の命は燃え尽きてしまう。2番目の魔女の遺産とされるこの装置は、入手方法・制作方法ともに不明で、組織のテロに使われる凶悪な兵器だった。

 そして人をモンスターに変えたあの薬は、“治癒”の力を持つ5番目の魔女の遺産とされ、多くのテロ事件を引き起こしてきた。この薬は一定以上の魔力を持つ人間に薬を投与すると、人をモンスターへと変化させる。

 モンスタートレイン事件では、薬と結界装置がセットで使われ、結界で守られたモンスターを相手に多くの警官が命を落としてきた。結界の展開中は銃は一切聞かない。そして結界を破壊するとモンスターも命を落とすため、情報の秘匿につながっている。現在得られた情報は、モンスターの死体を調べて得られたものだ。

「やはり、あの薬を使うと、被験者は命を落とすんですね」

「しかしあなたが止めなければ警察に死者がでたのは間違いありません。あなたは警察としてすべきことをやったのだと思います」

 警官が慰めるように言うと、長髪の男は苦笑いを浮かべる。

「しかし、妙なんです。最後に変化したモンスターは、結界装置を起動したにもかかわらず、まだ生きているんです」

 警官の言葉に長髪の男は表情が変わらないながらも、驚いた様子だった。

「最後の一体はたしか警官の銃撃で倒されたんですよね?」

「はい、今年の新成人が抵抗して銃を撃ったようなんですが、なんでも撃ったと同時にガラスの割れるような音がしたとか。状況を見ると、最初の銃撃のときに結界が壊れたようなんですよね。そのあとに警官が撃った銃弾は怪物の体から検出されたみたいですし。なんかの魔法ですかね?」

「あの結界のみを破壊できる魔法は、今のところ見つかっていません。魔法は発動する前や炎に変化したあとに打ち消すことは可能なんです。しかし、結界に関しては、一度発現したら衝撃で破壊するしかないはずだし、結界を壊せば使用者はただでは済まないはずだ。まあ、魔女の力は例外ですけどね。その結界を破壊した新成人はどうなったんです?」

 長髪の男は興味を引かれたらしく、警官に尋ねた。

「なんでも銃撃の後、気を失って警察病院に運ばれたらしいです。でもおかしいんですよね。その女性の周りを調べたんですが、怪物を攻撃した銃がどこにもなかったんです。その新成人の友人の持ち物もチェックしたのですが、武器らしきものはどこにもなくて」

「何らかの魔法が発現したのかもしれませんね。こちらでも調べてみます」

 長髪の男がそう答えると、警官はどこかほっとした様子で言葉を返した。

「お願いします。しかし、モンスタートレインまで起こるとは、組織との戦いもいよいよ激しくなってきましたね。組織は魔法使いを数多く揃えているといいますし」

 長髪の男――スクワーレは、さやに収めた刀を少し持ち上げると、疲れたような顔で答えた。

「こいつの出番はまだまだありそうですね。報告、ありがとうございます。一刻も早く事態が落ち着くよう、力を尽くします」。

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