エピローグ

──数年後。


その後、シュウがいなくなってから、ユウゴとルナは暫くその場で立ち尽くしていたが、リクトを研究施設から連れ出すとそのまま拠点に戻った。

リクトはデバイスを失って酷く絶望していたが、ユウゴが長い時間をかけて説得するだろう。ユウゴ本人は右腕をなくし、そしてそれは今までのようには戻らない。


この世界から──オルヴァイスとウィルデバイスの存在が消えた。力の元となっていたヴィーナスが消滅したことによって、全てのデバイスが消え失せたのたま。研究施設はいつしか廃墟となり、そしてデバイスを人生で見ることはなくなった。


ルナは大学に復帰してそのまま卒業、今は就職活動中だ。周りよりスタートは少し遅れてしまったが、今まで通りの生活に戻っていた。復讐したあとの人生に幸せは望んでいなかったが、もう、シュウが先手を打っていた。復帰後の学費やその他の辻褄を合わせるためのシナリオ、全てを用意して拠点の自室に残されていた。

ユウゴも罪を償うと言っていたが、シュウが全ての証拠を消したため、無い罪で裁くことは出来ないと警察に追い返されたらしい。自分が死んだあとのことを、シュウは全て済ませていたようだった。


ユウゴとも暫く連絡を取っていたが、いつしかそれはぱったりと途絶えてしまった。何かあったのかと思ったが、ユウゴなら大丈夫、そんな気がしていたのだ。



────



ルナはカフェに向かっていた。

大好きな恋愛小説を、またゆっくり読み返すのだ。途中で作者が失踪してしまい未完となった作品だが、ルナは作中の魔法使いと姫がどうなったか、結末を知っている。


道中、人と肩がぶつかってしまった。謝ろうと振り返ると──赤い髪が靡くのが見える。思わず声を引き留めようと手を掴もうとしたが、その人物はいつの間にか消えていた。生きていることを知らせに来たのだろうか、そう思って僅かに頬を緩める。なんとも彼女らしい報告の仕方だ。


ユウゴの言う通り、組織を壊滅させてから三人で集まることはなかった。もう出来ないことに胸を痛めたし、思い出して泣いたことも何度もある。しかし、悔やんでいてはシュウに叱られそうだ、そう思って前を向いてきた。


そして、スマホに暫く聞かなかった通知音がなった。

それに驚いて、そして嬉しくて。

その音で設定した人物はただ一人、ユウゴだけだ。


確認すれば、件名はなく、ただ写真に一言言葉が添えられている。


『やあ、元気かな。そろそろこれを渡そうと思ってさ』


添付された、一枚の写真。

そこには楽しそうに笑うユウゴと、満更でもなさそうなルナ、そして暗く闇に紛れるシュウが写っていた。いつか星空を見た日に、ユウゴが記念にと撮っていたものだ。あの日危ないから消すと言っていたが、残していたのだろう。


急に二人の作戦に巻き込まれて、ルナは最初信用していなかった。デバイスの存在を実際に見なければいつまでも疑っていただろうし、何故自分ばかり失うのか、そう思っていただろう。

いつから、ユウゴとシュウの事を大切だと思い始めたのか。気付かぬ間に、ルナの胸には確かに二人の存在があった。シュウに勉強を教えてもらったり、ユウゴと共有スペースでくだらない事を話して、そして三人で食卓を囲んだりして。


思い出が、蘇ってきて。

ルナは涙を流していた。


「──お嬢さん、なんで泣いてるの?」


その時、肩を叩かれた。こんないい思い出に浸っている時にナンパか、そう思って苛立ちながら振り返る。場合によっては拳を叩き込んでやるぞとルナが相手を睨むと──その人物は久しい笑顔で笑っていた。


「もしかして俺に会えて感動したかな」

「……馬鹿ね、そんなわけないでしょ」


ルナは誤魔化すように涙を拭うと、相手に向かって笑みを向ける。


復讐を終えた人生で、ルナは笑っていた。

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