第21話 修繕
ルナやユウゴが必要なものの買い出しに行く時、たまにシュウから個人的な買い物を頼まれる時がある。シュウはオルヴァイスに面が割れていない、そして人を嫌うために外に出ない。そんな理由から、ルナとユウゴに任せていた。
「これ、頼む」
「はいはーい」
今日はルナが食料の買いだめのために近くにある街、ルミナへ行くことになっている。ユウゴは他に用があるらしく不在で、一人で荷物を持つことになる。なのでなるべく大きい物を頼まれていないといいが、そう思ってルナはメモに書かれた物を確認した。
「……えっと、なんて書いてあるのこれ」
「漆だ」
「漆と、錆漆、あとは……金粉?! 何するつもりなのよ、あんた……」
シュウは基本的になんでも出来る。ルナの最初の部屋の棚のように、欲しいが市販で気に入るものがない時は自分で作ることもあった。
今いる拠点は、最初共有スペースにテーブルがなかった。だが、シュウが一から木材を調達して作ったので、現在は立派なダイニングテーブルが存在している。このように、何かを作るということが得意である。
多分何か芸を仕込んでもすぐできるだろうし、島から島へ泳いで渡れと言ってもシュウなら可能な気がする。ルナはそんなことを思いながら、部屋に戻ったシュウを見て買い物に出ることにした。
「はぁ……行きますか」
シュウに頼まれたものは案外ホームセンターで揃った。金粉は中々見つからなかったが、どうにか入手することが出来る。色々店を回ったせいで疲れたが、この後に食料を手に入れるための買い物もしないといけない。ルナはもうため息が出そうだった。
「ホント、何に使うのかしら……」
全ての買い物が済むと、ルナはバスを使い拠点に戻る。位置を特定されにくくするためバスから降りたあとも回り道をしたりするのだが、買い物袋を一人で持ってそのルートを辿るのはとてもしんどい。ユウゴがいれば、そう思うが仕方の無いことだ。
拠点に戻ると、シュウは共有スペースでコーヒーを飲んでいた。ルナを待っていたのだろうか、帰ってくるとすぐにこちらへ視線が向く。
「ただいま」
「ああ。頼んでいたものは」
「えっと……はい、これ」
ルナは買い物袋からシュウに頼まれていたものをまとめた袋を取り出した。全てが揃っていると確認すると、シュウは頷いて自室の方へ向かう。礼もないのかと思うが、シュウはいつもこんな態度だし、そう慣れ始めている自分がいるとルナは感じた。
「ユウゴが帰ってきても部屋には入るなと伝えてくれ」
「え? なんで──って、行っちゃった……」
シュウは早々と荷物を持って部屋へ入ってしまった。なんだったんだと思う中、ルナは買ってきたものを片付け始める。そして、つまり伝言を伝えるためにユウゴが帰ってくるまで自分が自室に行くことはできないのではないか。ルナはそれに気づいて、ついにため息を漏らした。
暫くして、ユウゴが帰ってきてルナは伝言を伝えることが出来た。ユウゴはそれを聞いて一度自室の扉に耳を当てて、中の音を確認しているようだった。何をしているのか気になる、それはルナも同様であるが、探っていると気づかれれば機嫌を損なわせるだろう。
「何するか言ってた?」
「ううん。聞く前に部屋に入っちゃったから」
「そうなんだ」
まるで鶴の恩返しのようである。開けないでと言われれば開けたくなるが、シュウが不機嫌になるとそれはそれで面倒だ。しかし気になる、そういった理由でルナとユウゴは共有スペースでシュウが出てくるのを待っていた。
「ルナちゃんって今もシュウに勉強教わってるの?」
「うん。あの人態度はでかいけど、どの教科も大学の教授より説明上手いから復帰しても大丈夫そう。全てが終わったあと、どうするか分からないけど」
「そっか……ルナちゃんは普通の生活に戻って欲しいな」
ユウゴと共犯であるということは、ルナも罪を償わなければいけないだろう。しかし本当に全てが終わったあと、自由になった時どうするか、その道を考えておくことは悪いことでは無いと思う。ルナはそう思って、将来のことを考えていた。
「私は貴方達と共に地獄に落ちる覚悟はできてる」
「君は巻き込まれただけなんだけど……って言っても、納得はしてくれないか」
「ええ」
即答したルナを見て、ユウゴは困ったように笑った。その時、シュウが部屋から出てきた。漆や金箔やらで工作した何かを持ってくるのかと思ったが、彼は何も持っていない。
「シュウ、何してたの?」
「言う必要がないようなくだらん事だ」
「本当にひねくれてるね! まあ別にいいけどさー」
シュウは汚れがついたのか、手を洗っている。ユウゴは部屋の中を覗いたが、特に変わった様子はなかった。何をしていのか、ただただ謎に包まれている。
────
──数日後。
「わっ、なにこれ」
「どうした?」
ルナは部屋で執筆作業をしているシュウに、コーヒーでも差し入れようとカップを探していた。いつかユウゴから貰ったお揃いのカップが気に入ったのか、シュウはいつもそれでコーヒーを飲んでいる。
しかし、夢想に襲撃された際、ルナはシュウがそのカップを落としたのを見ていた。ルナを守るために咄嗟に覆いかぶさったのだろうが、その犠牲がカップという訳である。なので代わりのものを探していたのだが──その時、ソレを見つけた。
「なんか……進化してる?」
「なに、何の話ー?」
「ほら、見て」
ルナは、ユウゴの前にひとつのカップを見せた。それはユウゴが贈った雫の模様のカップで、あの日に割れたシュウの物だ。しかし、それはちゃんとカップの形を保っていて、普通に使えるだろう。割れた繋ぎ目は金色の何かで補強されており、キラキラと輝いていた。
「これは……金継ぎ?」
「金継ぎって?」
「割れたり欠けた陶器とかを漆で接着して、金粉で装飾して修復するんだ。てか、これ割れちゃったんだ」
「ああ! 漆! 金粉!」
あの時シュウに頼まれたものは、これを直すためのものだったのだ。そえ理解して、ルナはユウゴにそれを説明した。すると、彼は嬉しそうに微笑んでいる。
「これにコーヒー入れて渡したらどんな顔するかな」
「えー、俺も見たい」
「じゃあ一緒に私に行きましょう」
案外可愛いところがある。
そう思いながら、ルナとユウゴは二人でコーヒーの差し入れを持っていくのだった。
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