〈幕間〉狂気の呪い
最初に人を
前脚に力を込めれば、爪の下で獲物はわずかに身
「おとなしい子は可愛いですが……いつまで我慢する気なんですかね?」
柔らかな羽毛に包まれた耳に吐息を吹き込めば、小さな
「僕としては、理性がぷっつんする前に、君に鳴いてほしいのですが」
酔った時のように意識が浮きたっていた。世界は極彩色で、甘い香りに満ちていて、小鳥たちは可愛らしい。だからもっと
無心にかぶりつきたくなる衝動を抑えるため、
囚われの青い鳥が苦痛に表情を歪ませ、喘ぐ。多くの獲物を味見してきたけれど、彼の声は
「ねぇ、いったいどこに隠したんですか。早く出してくれないと、僕、勢い余って君を
無言を貫く
† † †
鳥たちが寝静まる深夜、狩猟用の弓を携えた少女はじっと静かに時を待つ。心は急いても、
(悪い狼め、絶対にやっつけてやる)
狩りで遭遇した、金髪青目の
兄の話によると、呪いには狂気がともない、狂気は心と思考を歪め、その歪みは彼らの目に表れる。目を見ればわかる――常々言われていたことを本気で信じていたわけではなかったが、あの日あの
あの時、おのれを過信せずに逃げていればよかったと、彼女は今でも後悔している。彼が過去に同胞を
(ぼくが、みんなを死なせてしまったから)
飛び出すべきではなかったと、今なら思えるけれど。狙いを外したことがなく、十分な距離もあり、向こうがこちらに気づいている様子はなかった――と思ったのに。放った矢が狙いを外し、彼がこちらを見て口角を引きあげ、巨大な金狼に姿を変える。その全てが信じ難く、脚がすくんで動けなくなるなんて。
逃げろ、と上がった声に身体が弾かれた。脚と翼を必死に動かし逃れようとした目の前で血飛沫と青い羽毛が散ったのを、一生涯忘れはしない。彼女を庇おうと前に出た友人を一撃で噛み裂き、迫りくる金色の獣が放った言葉も。
「おまえ、可愛い奴だな。気に入ったぜ」
大きな獣の青い眼を染めていた、言葉では言い表せない色。あれがきっと兄の言っていた狂気の呪いなのだ。恐怖と悔しさに腰が砕けそうになったのを、同胞が腕を掴んで引きずり上げる。逃げろ、と繰り返される。
金狼が迫り、自分は突き飛ばされ、彼が地面に引きずり倒された。あっという間の絶命は悲鳴も残さず静かなもので。
二人の命を奪われたというのに、逃げる以外を選べなかった自分が嫌いだ。実力を顧みずに相手を挑発した
(兄さんは逃げろって言うけど、できるわけないじゃないか)
彼女を庇って兄は囚われた。もうこれ以上、自分のために誰かが犠牲になるのは嫌だった。しかし大人しく投降したところで、兄や囚われた同胞たちが解放される見込みなどない。
であれば、機を待つのだ。
朝を待ち、集中力を
(今度こそ、あいつの心臓を射抜いてやる)
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