Mission1〈ルエル村奪還戦線〉
[1-1]護衛隊
シャイルとしては今すぐにでも出発したかったが、身体は正直である。朝食を食べ損ねたことに気づいた途端、脚と腹から力が抜けてベッドの上にへたり込んだ。
同じく食べ損ねていたフェリアと部屋で慎ましく食事をしている間に、リーファスが出発の準備を整えてくれた。丈夫な服と革鎧、靴にベルトに長剣。全部がぴったりではないが、動くには支障ない。
集団移動は目立つため、二人か三人の組で現地であるルエル村の付近、拠点にしている隠れ家へと向かい合流することになった。シャイルが組む相手は当然ヴェルク。互いの技量、剣筋、どれも未知だが手合わせを試す余裕はない。ヴェルクとしては、シャイルを補助役として考えているのだろう。
顔合わせの時、ヴェルクは仲間たちにシャイルを紹介した。先の件もあり身構えるも、シャイルを詰る者はいなかった。むしろ同情的な目を向けられて逆に居心地悪かった。
† † †
噂によればノーザン国の王も
ヴェルクたちが名目の通り革命――世界の改革を目指しているのなら、彼らに協力したいと思う。これでもそれなりに腕は立つのだから。
「隠れ家って、洞窟のことだったんだ」
「大昔は竜の巣だったらしいぜ。奥まで探索したが空っぽだから隠れ家に使ってたとか」
案内された洞窟は人工的に掘り抜かれたものと似ており、足元は硬く滑らかで、壁面も建築石材のようにすべすべしていた。天然洞窟のように水が染み出すこともなく、一定間隔で壁に掛けられたランタンが長い通路をぼんやり照らし出している。
進んでゆく途中で時々きらりと光るのは、壁や通路の隅に貼りついた
基本的には太い一本道が最奥まで続き、所々に横穴が掘られていて、入ると大きめの部屋や横道があるのだという。護衛隊はここに必要物資を運び込み、寝泊まりしつつ移住の支援をしていたのだった。
ヴェルクの説明によると、こういう空き洞窟は大陸各地にあり、国家が所有している場合もあればこんなふうに放置されていることもあるらしい。奥には魔力を蓄えた竜石があるので立ち入り禁止だそうだ。
「それとここは竜の力か何かで、魔法による侵入ができないんだ。俺たちには関係ないが、おまえは
「魔法力だって有限なんだから、日常の移動に魔法使ったりはしないって」
使い慣れた身からすれば少しの不便はあるが、実力の高い
「しかしまさか、あんた自らやって来るとはなァ。最前線へ飛び込んで大丈夫なのかい、旗印の王子サマ」
「王子様はやめろよ。どうせなら、一番腕が立つ奴が来たほういいじゃねえか」
拠点の隊長だという
シャイルからすればヴェルクは大柄、ガフティという名の彼も同程度に体格が良いので、威圧感は倍増しだ。髪色は不明だが、鋭い
「ヴェルクって王族なんだ?」
ガフティが放った言葉が気になってこそりと聞き返せば、ヴェルクは眉間に深い
「産まれも育ちも監獄島だけどな。一応、血筋だけは」
「監獄島!?」
「無駄話は後だ。村側とは連絡取れてねえんだろ? 情報少ない中、どうやって探る?」
さらに驚くべき情報が飛び出したが、ヴェルクが言うように身の上話をしている状況ではない。疑問と好奇心は胸に収め、シャイルもガフティ隊長の話に耳を傾ける。
「村といっても広いからなァ。残ってる連中も逃げ隠れてるだろうし、襲撃した奴らが村焼きしてねーってことはまだ手間取ってンな。家と持ち物は諦めるって話もついてる。
「……てことは、ある程度の目星が付いてるんだな」
ダグラ森の砦へ要請を送り救援を待つ間も、ガフティと隊員たちは住人らの安否確認をしつつ村の様子を探っていたらしい。今の所、占拠された村で大きな混乱や破壊活動は起きていないようだ。
目に見える
ヴェルクの相槌にガフティはつりあがった目をますます鋭くし、重い声で答えた。
「襲撃を受けた時、うちの隊員どもが何人も金色の狼を見てンだ。アイツらおそらくノーザン国王の私兵だぜ」
「まじか。……わかった」
ヴェルクの褐色肌は大陸であまり見ない特徴なので、付き合いの浅いシャイルはまだ彼の表情を見わけられない。それでも、
考え込むヴェルクを瞳孔を細めて
「あんた
「僕? うーん、身体のほうはもう全然痛くないから大丈夫だと思うよ」
「あァ? そっちじゃねーよ」
死ぬ一歩手前までいったというのに、身体はすっかり回復していた。魔法の効果だとしても、普通はこんなに早く全快するなどあり得ない。だから心配されたのだろうと理解したのに、違っていたらしい。
シャイルが答えに
「こいつは覚えてない系らしい。様子がおかしくなったらポケットに突っ込んで連れ帰るから、大丈夫だ」
「……そうか。そこはあんたの判断に任せるぜ。じゃ、役割分けるか――」
二人の間で完結した話にシャイルは首を傾げる。確かに十歳より前の記憶はないが、ヴェルクにその話をしただろうか。
幼少期を過ごしたのは
「ほら、ぼうっとするんじゃねえシャイル。おまえの移動魔法も作戦の内なんだ。奴らが陣取ってる
「――え、ああわかった!」
何かが記憶に引っかかった、ということもなく。任されたのが思ったより重大な任務で、胸に湧き立つ興奮がわずかな違和感など意識外へと押し流したのだった。
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