第6話 魔族

大部屋で異世界四日目を迎える。

部屋には何人かの冒険者がそれぞれのベッドで眠っていた。

女性もいるが、筋骨隆々としていて、さすが冒険者といった風情だ。


早く寝たためか、早く目覚めた。


体感的には朝の5時くらいであろうか。

食事は1階で取るか、外で取るかしなくてはいけないが

まださすがにやっていないだろう。

しばらくはベッドの中でぐずぐずとしていよう。

さすがにこれだけ周囲に人がいると、

緊張して二度寝、ということはできない。


盗難されないように持ち物は手元に抱え込んで眠ったくらいだ。

もちろん、盗難にあいそうになれば、潔く手放すつもりだった。

そのあたりの抵抗はするつもりがない。

とても揉め事を起こして解決できる自信がなかった。


「さて、と。今日は」


昨日、ベッドの上でだらだらとしながらも作成した、

異世界四日目のメモに視線を落とした。


・ここがどこか確認

・手軽なゲーム的要素確認手段

・大蟻とは?

・安定的に住む場所の確保

・安定的なお金の確保

・ギルドの情報整理

・職業とは?

・職業に就く方法は?

・研ぐ

・残金確認

・お金(ピンチ)

・ステータス

・旅に出る方法を考える

・ゴブリンの角

・ゴブリン討伐報酬

・日雇い労働


まずは残金確認だが、手元には1700マグラ、

銀貨1枚と銅貨7枚がある。

つまり大部屋であれば何もしなければ宿泊できる。

お湯を使っても200マグラ余る。ただ食事が心許ない。

昨日も夕食は串3本だった。成人男性としては

十分なカロリーを摂取できてはいないだろう。


「今日も働かないといけないのか」


がっかりとしながらも、残金確認、の項目に斜線を引いた。

次に、手軽なゲーム的要素確認手段、に目を向ける。


ううん、と頭を悩ませた。


魔法を口に出してつぶやいてみる、ということは一昨日やった。

調べる、というのもやってみた。


どちらも駄目だったから、別の手段を講じないといけない。

だが、あまり発想力というものを有しない僕は、早々に煮詰まった。

煮詰まって、視界に何かヒントになるようなものがないだろうかと

見回した。

だが、そんなものがあるわけもない。


周囲の冒険者の人の中でも魔法使いっぽい人に、魔法の使い方を

聞いてみるのが早そうだな、ということを思う。


だが、人見知りをする僕にはそんなことをするつもりはなかった。

そんな苦行を行わなければならないのであれば、僕はもとの世界

に帰るための方法を模索するであろう。


巡らした視線が最後に行き着いたのは、結局メモ帳の上であった。

もちろん、そこには僕の書き出した本日の課題が列挙されているだけだ。

しかし、図らずもそれら項目の中の、ゴブリン、という文字に

視線を奪われた。


ゴブリンが直接どうこう、というわけではなかった。

芋づる式に薬草のことを思い出したのだ。


昨日、戦闘によって草臥れ、心が若干折れていた僕は、

人ごみを嫌ってギルドに薬草の換金をしに行かなかった。


そのため手元には薬草が10枚、そのまま残っているのだ。


「そうか、ゲームといえば、薬草か」


この薬草を自分に使ってみる、というのはどうだろう。

宿屋に泊まったところであるから、体力は回復しているのだろうが、

薬草を使用すればそれらしい挙動が起こるのではないか。


ともかく、これ以上頭を動かすのが面倒になっていた僕は、

躊躇わずに薬草を使おうとする。


1枚を手に持って、まずは、むむむむ、と集中しながら、

使う、使う、と念じてみた。だが、何も起こらない。

どうやら、薬草の使い方は、使う、と念じる訳ではないらしい。


ならば体にこすりつけてみはどうか。


僕は昨日切りつけられた左腕の瘡蓋の部分に、薬草を押し付けてみた。

だが、何も起こらない。

ざらりとした葉の感触が肌を刺激するだけであった。


「ううん、違うのか」


僕は首を傾げて、この作業を終了する。

特に残念とも思わない。とりあえず課題に取り組み、

一つずつ消して行ければ課題としては達成なのである。

成功させる必要はない、というのが醍醐味だ。


そんなわけで、手軽なゲーム的要素確認手段、を削除して、

異世界五日目と書かれた次のページに書き写した。


異世界五日目には、労働の種類と報酬、という項目が

既に書かれていたのでその下に記載する。


「ああ、そういえばこんなのも最初の方で書いてたな」


そう呟きながら四日目のページへと戻った。

改めて項目を視線でなぞる。


「そうか、こいつら、今は消しといてもいいかもしれんな」


ペンで紙面をつつきながら、若干ながら迷ってから、

僕は、大蟻とは?、安定的に住む場所の確保、

安定的なお金の確保、ギルドの情報整理、

の四つの項目について斜線を引いた。


なぜかといっても、けして明快な理由ではない。

別に課題として取り組まなくても、大きな支障はなさそうだな、

と思ったからである。


大蟻の情報は、ギルドに出入りしていくうちに

自然に入手できるかもしれないし、

自分が依頼を受ける際にでも改めて確認すればいい。

安定的に住む場所や、お金の確保については、

今すぐに達成することは難しそうだ。

ずっと先の将来、これらを達成するチャンスも

巡ってくるかもしれないが、今は課題として

頭を悩ましても無駄のように思われた。

それから、ギルドの情報整理は、考えるのが面倒に

なったからだ。必要になったら、思い出すだろう。

あまり真面目に取り組むのは、性分ではない。

そのことはつまり、僕には取り組むことが不可能ということなのだ。


本当に自分には呆れかえるしかない、が、怠惰な僕である以上、

致し方ないのであった。


それから、研ぐ、についても斜線を引いて五日目へと写す。


何せ昨日のゴブリンには、興奮して素手で挑んだのだ。

ナイフは使用しなかった。従って研ぐ必要がないのであった。


「お金(ピンチ)もいらない。これは今日日雇い労働を

 するから問題ない」


ただただ斜線を引いた。残りは、


・ここがどこか確認

・職業とは?

・職業に就く方法は?

・ステータス

・旅に出る方法を考える

・ゴブリンの角

・ゴブリン討伐報酬

・日雇い労働


「ここがどこか確認、については、昨日ナンナちゃんから

 借りたこの冊子を読めばある程度わかるかな」


昨日、看板娘のナンナちゃんをつかまえて、この国について

紹介している冊子を借り受けたのである。

時間が余っていたから昨日のうちに読んでも良かったのだが、

面倒になってしまい今日に回したのだ。


冊子は数ページの簡易なパンフレットようになっていて、

この国の主要な情報が掲載されている。


その内容によれば、まず、この国の名前は、「エトラ」。

首都は「マクシカ」。

冒険者ギルドの紹介冊子の中でも名前が出て来た、

「太陽皇帝」が創ったそうだ。太陽皇帝の名前はアルベルト。

その子孫が今でも皇帝をしているとのことだ。

太陽皇帝が魔人を倒し、興した国で、300年の歴史を持つ。

300年、という歴史はここ「ソフィテ」大陸でそれほど長いわけではない。

もっとも長いのが、ここ「エトラ」の東にある「グレナイ」。

1000年程度続いているそうだ。


「エトラ」の気候は、一年を通して温暖であるとのこと。

地理的には、四方を山脈に囲まれていて、東にはエルフの森、

南は砂漠地帯等が広がっている。そうした天然の要害に囲まれて、

何度も他国からの侵略に晒されながらも守りとおしてきた。

山脈をおよそ国境としており、四方に他国が控えていて、

現在は友好的関係を築いている。


民族としては、人間が最も多いが、エルフやドワーフといった

種族の他、ライカンや魔族など様々なマイノリティーも

相当数暮らしている。これは太陽皇帝が魔人討伐を行った際、

ほとんどの人種が協力したという経緯があるためで、

この経緯については、帝国法の前文でも触れられているとのこと。

どの種族がどういった役割を果たしたのかすら、明記されていて、

文末には「帝国をともに協力して発展させる」、とあるらしい。

このことから「エトラ」は人種について寛容な精神を持つ国として

歴史を刻んできた。


「魔族がいるのか。すごいな」


また、ここミトの町は、「エトラ」の中でも南東の位置にあり、

エルフ大森林やビズ砂漠の手前の町として、行商や冒険者に

重宝される町であるという。


「だいたい、こんなところか」


ざっと読んでからページを閉じた。


どうやら殺伐とした国ではなさそうなので安心した。


メンタル面に弱さを抱える僕としては、あまりシビアな世界だったら

すぐに参ってしまっていただろう。卑屈になって生きることに

ぜんぜん抵抗はないが、のびのびと出来るならそれに越したことはない。


さて、とつぶやいて、ここがどこか確認、の項目に線を引っ張った。

異世界四日目にしてやっと自分のいる場所が分かった、

というのは、いかにも怠惰な自分らしいペースだな、と思う。

その一方で、こうしてスローペースながらも、

着々と必要な情報の確認が進んでいるのが、いかにも自分らしい。

決して迅速ではないが、いちおう、何もやっていない訳ではない、

ということに満足を覚える。


一遍にやろうとすれば、僕の気力はすぐに尽き、飽きてしまう。

うまくペースを配分し、やる気の底を尽かすことなく、

コントロールしていかなくてはならない。


できる人と比べてはいけない。


自分は自分である。僕は僕という駄目人間なりのペースで

うまくやっていかなくてはならない。そしてそれは現時点で

このうえなく、うまくいっていると思うのだ。


自画自賛しつつ、残った項目に視線を這わす。


だがいい加減、ベッドに寝転んだままでのデスクワークにも

飽きて来る。沢山あった項目も、かなり達成することができた。

それに、ゴブリンの角、という項目を見ていて一つ思いついた

ことがあるのだ。


「早朝なら、モンスターもあまり出ないかもしれないな」


短絡的な発想であるが、どうなのだろう。

モンスターと言われると、やはり昼や夜の方が活発といった印象がある。

深夜は休憩するとすれば、反対に早朝は、まだモンスターも

動きだしてはいないのではなかろうか。


つまり、今のうちに昨日回収し損ねたゴブリンの角を

回収しに行ってはどうか、と考えたのだ。


ゴブリンの角が20マグラで、討伐報酬が500マグラ。

合計520マグラである。

低所得者の僕としては、なかなか魅力的な金額だ。

何よりも、初めて倒したモンスターのドロップアイテムの回収、

それに換金。依頼達成にもなる。


僕は怠け者の駄目な男だが、何かを達成するということ自体は

愛おしいと思う。この世界でそうした実績を積むことは、

課題を一つ、達成したということに他ならない。

課題の達成は、丸で自分がちゃんと前に進んでいるような錯覚を

覚えさせてくれる。それは僕のような飽き性の人間にとっては

必要な刺激だ。


無論、他人にとってはなんでもないことなのだろう。


モンスターを一匹倒したことや、

そのドロップアイテムを換金することなどは。

だが、僕という人間は、たとえなんでもないことでも、

自分が一歩ずつ進んでいるように認識せねば、

早晩やる気を失い引きこもってしまう。


うまく自分の精神をコントロールしてやらなくてはならなかった。


そういった精神の健康という面から見ても、

僕は早朝からゴブリンの角の回収に向かうことが必要というか、

かなり合理的な行動だと判断するに至る。


さて、既に時間は1時間くらいたったように思う。

今は6時くらいだろうか。


そろそろ他の冒険者たちも起きる時間かもしれない。

何せギルドはかなり早い時間から混み合っていた。

ならば、今のうちにチェックアウトするようにしよう。

できるだけ他人と言葉や視線を交わしたくない。

人見知りの僕にはそういうこと自体が大きなストレスになるのだ。


荷物は少ししかない。

僕は音を立てないように、部屋から出て行った。


・・・

・・


ゴブリンの角は難なく回収することができた。

場所が分からなくなっていやしないかと懸念していたが、

杞憂であったようだ。


「これをギルドで換金すれば、討伐依頼の達成とあわせて

 520マグラになるのか」


今の僕にとっては馬鹿にできない収入だ。

ポケットの奥に角をねじ込むと、早々に退散しようと踵を返し、

早足でもと来た道を歩き始めた。


モンスターの気配はないが、油断はしない。

昨日は油断をしたために死にかけたのだ。二度はない。


できるだけ町の外壁に沿う形で門を目指した。


すると、はるか前方に何人かの人影がうっすらと見えた。


何てことだ。またゴブリンなのか。今度はしかも複数だ。

その上、壁の付近を歩いて来るから、回避するためには

大きく壁を離れて迂回するか、反対方向に逃げ出さなければならない。


だが、迷っている時間はなかった。


この時間でもモンスターは出るということだ。

早朝だから出ないだろう、というのはあくまで僕の勝手な印象に過ぎない。

こういういい加減な予測が外れたことは今までの人生、

一度ではすまない。もうそろそろ反省してくれないだろうか、

と自分に呆れながらも、遠くの人影を迂回しようと

大きく壁から離れた。


反対方向に逃げるのも候補だったが、反対に向かったからと言って、

別のモンスターに逢わない保障はない。

ならば、今見えている人影を確実に遣り過ごす方が良いだろう。

そう思ったのである。


今度はちゃんとナイフも使おうと、鞘から刀身を抜き、

屈む様にしながら走った。


人影はこちらにはまだ気づいていない。

僕は相当警戒しながら進んでいたから、

先に気付くことができたのだろう。

このアドバンテージを活かし、なんとか遣り過ごすこととしよう。


壁から離れ、大きめの岩の裏へと身を隠した。

こうして相手が通り過ぎるのを待つのだ。

1分、2分とゆっくりと時間が過ぎてゆく。


まったくこんなに良い天気だというのに、

なぜ僕はこんな岩の影で怯えていなくてはならないというのか。

そうやって人生の理不尽を、諦観をもって迎えていると、

ついに遠くの影の正体が判然としてきた。


「あれ、ゴブリンじゃないみたいだな」


どうやら影の正体は5人の人間であったようで、

モンスターではなかったようだ。


だが、どう見ても堅気では無かった。


社会人なぞをやっていると、どうしてもそういった人種と

少なからず出会うものだが、そういった人種と

同じ雰囲気を感じるのだ。身なりは悪くないのだが、

どうにも人を傷つけることに慣れたような、

人を不安にさせる雰囲気なのである。


特に僕の場合は人を恐怖するあまり、

人物鑑定はかなりのレベルにある。

その相手がどういった手合いなのか、

一目である程度見当がつくのだ。


その僕の危険察知センサーがビービーとうるさく非常音を鳴らしていた。

あまりおつきあいしてはいけない人たちのようだと。


当然ながら、異世界に来たからと言って、この理屈に変更はない。


いついかなる場所においても、人間こそが一番の厄介である。

君子危うきに近寄らず。

この危うきとは、危うき人物のことである、

ということに僕は疑念を持たない。


そのようなわけで岩場に身を隠して、

その5人組をおとなしく遣り過ごすことにする。

岩場から彼らとは、それなりの距離がある。

こうしておけば見付かる心配はまずなかった。


僕はきっちりと身を隠しながら、相手の気配が去るのを念入りに

待つことにした。こちらの呼吸の音もできるだけ抑えるようにして

微動だにしない。


そうして静かにしていると反対に、5人組の話し声が僕の耳に届いてきた。


「それにしてもうまくいきましたね。大蟻の誘導がああも

 うまくいくとは思いませんでした。このキマアカ香さえ焚けば、

 匂いにつられて直ぐにその場所に大蟻を誘導できます。

 あの騒ぎの隙に手薄になった侯爵家の宝物庫にまんまと忍びこめました」


一人がずる賢そうに嘯く。

少し首を伸ばして覗くと、真っ赤な壺を抱えた男が見えた。

別の男が嗜めるように口を開く。


「あまり大きな声で喚くんじゃない。俺ら盗賊団がうまく町に

 忍びこめたのも、入念な準備と警戒心があったからこそだ。

 首尾は上々。もう用は済んださ。後は連れて来られた猫の様に

 おとなしくしておいて、明日明朝にはこの町からおさらばしよう。

 今日のうちに外のアジトに盗品を集めておけ。

 特にあれの扱いは慎重にな」


どうやらリーダー格のようで、その言葉に他の4名から

同意する声が聞こえた。


「分かっています。ですが何をどうしても、一向に起動しません。

 本当にあれは商品になるんですかい」


「さあな。どうやら俺たちには知らされていないことが

 あるようだ。だが、高く買ってくれると言っている旦那が

 いることには違いねえ。なら、やることは毛皮を鞣すように

 シンプルだ。こっちは物を揃えて、適正な価格で売り払うだけさ」


その会話を最後に男たちの声が遠くなり、聞こえなくなった。


僕はメモを取り出して、さてどうしよう、と殴り書きすると

一瞬だけ目をつむって瞑想した。


あれは盗賊だ。一日目の大蟻が現れた事件も、あの盗賊団の

仕業であることは会話から明らかだ。場合によっては死人も

出るような悪質な所業だ。


ただ、もちろんながら、僕はそのことに義憤を感じて、

今の盗賊たちに制裁を加えよう、なぞと考えた訳では無い。

そのような正義感はまったく持ち合わせていなかった。

もう少し言えば、僕自身が盗賊よりも上等な人間であるとも

思ってはいなかった。自分で、自分がどうしようもない駄目で

底辺の人間である、という自覚は十分に持っていた。


ならば何を迷っていたのか。


実に駄目人間らしい発想をしていたのだ。

つまり、盗賊団のアジトから、盗品らを掠め取ることは

できないだろうかと思っていたのである。


無論盗難は犯罪だ。けして許されることはない。

僕はかなり倫理観と順法意識の高い人間で、

違法行為は絶対にしないタイプだ。


だが、相手が盗賊となれば話は別だと、自分の良心は解釈した。

盗賊相手ならば違法にはならないのではないか。

そう思った瞬間、倫理や法の箍は簡単に外れたのだ。

自分がいかに建前だけの倫理観で生きていたのか、

よくよく理解できた瞬間でもあった。


盗賊相手ならば、別に何をしたって良いだろう。そう結論を出す。


だが、見付かれば、盗賊というだけあって、きっと命を取られるだろう。

もしやるとすれば相当危険だ。リスクを0にすることはできない。

普段であれば絶対に近づかない「危うさ」であろう。


しかし、僕はここ数日痛感していたことがあった。


僕は自由にこの世界を旅してみたいのだ。

しかし、それを叶えることは実に難しそうだ、ということである。


行商のように、護衛を雇ったり、熟練の冒険者の様に腕が立てば、

自由に旅することも可能だろう。


だが、僕にはどちらもない。

先日のゴブリンとの戦いで、自分の実力はよくわかったつもりだ。

また、お金についてもよく理解している。

僕の残金は1700マグラだ。

一泊すれば素寒貧になるようなお寒い状況。


僕の冒険者としての腕前が今後上がるかどうかの保証はない。

そしてお金についても大金を手にすることは難しいと思っていた。

だから、しばらく旅に出ることは難しいかと思っていたのだ。


だが、今の盗賊のアジトから金品を盗むことができれば、

少なくともある程度まとまったお金を得ることができるだろう。

そうすれば護衛を雇って旅に出ることもできる。


そこまで考えると、僕はメモ帳の、さてどうしよう、という、

書いたばかりの項目に斜線を引く。


それから、その一つ上の項目、日雇い労働、についても斜線を

引くと、隠れていた岩場から身を起こした。


僕は遠ざかる人影を追って、身をできるだけ低くして移動を始めた。

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