第7話 心の中
「じゃあ、瀬野くん、ここでの生活のことは亜季に聞いて」
「え…私が?松ちゃんが教えたらいいじゃん」
「僕は、いろいろやらなくちゃいけないことがあるから!ね!亜季。これ、部屋の鍵ね!頼んだよ〜」
「…え〜…」
最初の掴みを失敗した私に案内させるなんて…。松ちゃん、出来もしないウインクなんかしてるし、どういうつもりなのだろう…。他の子たちがニヤニヤしながら私を見ているのを尻目に、拓磨を部屋に案内するため、食堂を出る。
「え〜っと、うちの施設には、幼稚園から高校生までの子たちが入居してて人数もそこそこいるから、棟で分かれてる。食堂挟んで、右が女子棟で左が男子棟」
「…学生寮みたいだな」
「確かに、そうかもね。幼児と小学生の子たちは、1部屋4人。中高生は、ひとり部屋になってる。で、2階のここが、拓磨の部屋。これ、鍵、無くさないで」
「…ああ」
拓磨に鍵を手渡し、説明を続ける。
「起床時間とご飯時間と寝る時間を守れば、基本的に自由だから。あ、洗濯と部屋の掃除は、自分で。あと、トイレとかお風呂場とかの共有スペースは、当番制で掃除することになってるから」
「…わかった」
「そういえば、瀬…いや、拓磨は、何かバイトしてる?」
「…コーヒーショップで」
「へえ〜。コーヒーショップ…どこの?」
「坂の上の駅横にある…」
「あ〜!生クリームたっぷりプリンの!」
何も言わず、怪訝な顔で拓磨が私の方を見た。
「いや、ほら、バイトしてるなら、スマホ持つのOKだから。ちょっと確認で」
「……」
「まぁ…自分でやりくりしなきゃだけどね。じゃあ、この後ご飯だから。落ち着いたら降りてきて」
「…わかった」
ゆっくりと拓磨の部屋のドアが閉まる。部屋に入る拓磨の後ろ姿を見つめながら思う。表情は、無に近いけど、会話のラリーはあった。…返しの感じからして、悪い奴ではなさそうだ。
階段を降りて、食堂に戻ると、松ちゃんがニコニコしながら、私を手招きする。
「どう?瀬野くん」
「どうって…普通」
「…そっか。亜季がそういうなら、大丈夫そうだね」
「何それ…」
小5の時にこの施設にきて、もうすぐ6年。入所した当時、この施設には私より年上が数人いたけど、18歳になると卒業という決まりがあって、今は、私が年長者になっている。だからか、新しい子が入ってくると、松ちゃんはよく私に施設を案内をさせる。“年長者”という理由からなのか、信頼されているということなのか…嬉しい反面、大人は何を考えているのか気になるから、いやだ。
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