第4話 始まりの衝撃
闘技場は観客で埋め尽くされ、歓声が鳴り響く。主に碓氷にたいするものだが。
俺には入学式と同じブーイングが鳴り響く。碓氷は学園内で人気らしく、どうやら俺はそのファンを敵に回したようだ。
ここまでくると逆に気持ちいい。俺にはマゾの素質があるのかもしれない。
観客の中には他クラスや、他学年の先輩たちも少なからずいるようだ。どこから嗅ぎつけて来たのかわからないが、物好きな人たちだ。
「逃げずにここまで来たようね。謝るなら今のうちよ」
「俺がこの闘技場を予約したから、逃げるわけねぇだろ。むしろお前こそ逃げなくて大丈夫なのか?」と煽り返すと、碓氷の眉はピクピク動いていた。煽り耐性はないようだ。
「あとで謝っても許さないわよ。早く準備しなさい。始めるわよ」
碓氷は杖を構える。俺もそれに合わせてステッキを持つ。
――――ん?
おそらく読者が疑問に思ったように、観客たちも頭に?を浮かべただろう。
騎士と呼ばれる人たちは魔法を詠唱するときに道具を使うことが多い。それを証拠に、現在俺の反対側に位置する碓氷は杖を構えている。杖といっても種類は多く木の枝から流木のようなものまで存在する。碓氷が構えているのは枝状のものだ。
他にも剣や槍などの近接格闘に有利なものもある。
そして、俺はなぜステッキなのか。答えはかんたん、かっこいいから。
ドラマで英国の紳士がステッキを持って戦っているのを見て一目惚れしたのだ。
この場にいる観客は笑っているが、このステッキには秘密があることを彼らは知らない。
碓氷は俺を警戒しながら、詠唱を始めた。俺はそれが終わるまで待っていた。
「氷の矢、敵を射抜け! アイスアローー‼」
どうやら氷属性下級魔法を詠唱したようだ。
俺はステッキの棒先で地面を数回叩く。すると、地面が俺を包み込むようにして敵の攻撃を防ぐ。土属性下級魔法のアースウォールだ。氷の矢は土の壁に突き刺さり、悠には届かない。
会場は一瞬静まり返った。
才能のある人は魔法の詠唱簡略化をすることができるが、無詠唱はできない。
無詠唱、それは魔法というものを完全に理解をした限られた者にしかできない至高の技術。それを15歳の少年が体現して見せた。
「あなた、一体何者なの?ただの外部生ができるはずないわ」
「一条悠です。以後お見知りおきを」と軽く流す。
「そんなことわかっているわよ」と碓氷は激昂した。観客も静まり返ったなか、聞き覚えのある声が会場に響き渡る。
「おにいちゃーん、あと何分で終わるの?さくら、家に早く帰りたいよ」
俺の可愛い妹だった。やはり、さくらはどこにいても目立つなぁと感心していた。兄バカである。
「あとちょっとで終わるよ」と返事をすると、わかったと妹も返事をした。それにしても、妹は可愛い。もう一度言う、兄バカである。
「そんなすぐに終わるなんて思わないで」
「いや、すぐ終わるよ」
そう言った俺は、無詠唱で雷属性中級魔法ライトニングランスを放つ。
魔法を完全に理解した者にしか許されない特権。それは魔法の改変である。
ただ高速で直線状に飛んでいく雷の槍、それに自動追尾機能を書き加えた俺の魔法を、碓氷は間一髪で避けるも時すでに遅し。
碓氷が視線をずらした隙に背後に回り込み、首筋に剣先を当てる。
それを確認した審判が終了を告げた。そしてサイレンが無情にも会場に響き渡るのを、背にして俺は会場を出ていった。
俺が持っていたステッキはシャフトを取り外すことが可能で内側は剣になっている。俺の基本的な戦闘スタイルは剣を用いた近接格闘である。魔法は二の次である。
そんな俺は無詠唱、魔法改変、飛び道具の衝撃を残して、愛する妹と一緒に学園のそとに出た。
あとあと知ったのだが、妹のさくらは学園内でもかなりの知名度を持ち、俺がその兄だと知って観客はさらに驚いたとか。
これにて一件落着。
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