第3話 その女は次席、俺は主席。

――――信じられない。

 なんであんな奴が主席で、私が次席なの?あんなふざけた奴が新入生の代表なんて認められない。

「私が彼の化けの皮をはがしてやるわ。試験も不正を働いたに違いないわ」

 あることないことを想像しながら、彼女の目は激情に燃えていた。

 彼女の名は碓氷うすい奈央、中等部の時から学年一位を維持してきた才女。高等部になっても一位だと思っていたのに外部生にいきなり主席を奪われた。プライドの高い彼女がそんなことを許すわけがなかった。



 先程、校舎前で渡された学生証には様々な機能が備わっている。教室に入室するとき、闘技場を予約するときに必要である。他にも電子マネーとしての役割も果たす。月一で学園からポイントを支給される。Aクラスは五万円相当のポイントを貰える。

 なのでAクラスの生徒は残留するため、他クラスの生徒は少しでもポイントを貰えるように奮起する。俺も残留するために頑張らなきゃいけないなと思った。


――ウィーン

 学生証を扉にかざしてAクラスに入室すると、クラスの全生徒が俺を見る。

 そんな目で見つめないで……さすがに俺でも照れちゃう、なんてふざけてると教室の奥から女の子が俺に近づいてきた。

 正門前で出会いさっそく嫌われて、入学式では睨んでいた女の子だ。さっきは失敗したが、今ならいける気がする。

「また出会ったね。これこそ運め――「あなたが主席なんて私は認めないから。試験だって不正にきまってるわ」

 失敗した。そして、また遮られた。この子とは相性が悪いのかもしれない。

 それにしても、ひどい言われようだ。周りの生徒もそうだそうだと言って、彼女の発言に同調してる。俺もさすがにムカついてきた。

「そんなに俺のことが気に食わないなら、あとで勝負してやるよ。どうせこのあとは何もないんだから」

 さらに俺はあえて相手を煽るように言った。

「さっきから主席がどうのこうのって、お前ら実力がないからって他人を恨むな。実力のない自分を恨めよ」

 クラスの生徒から怒号が飛び交う。目の前の女の子も明らかに怒っている。

「いいですわ、その挑発に私、碓氷奈央は乗ってあげますわ」

 挑発じゃない事実だと言うと、クラスの怒号がさっきより大きくなった。


 自分名義で予約した第五闘技場に向かう途中、後ろから声をかけられる。

「さっきの碓氷とのレスバトルおもしろかったぞ。闘技場まで一緒にいこうぜ」

 俺と身長があまり変わらないこの男、距離感バグっている。初対面の男に後ろから抱きつくとは、もしやホモか?と疑っていると俺並みにイケメンな彼は笑いながら言った。

「残念ながら俺にはそんな趣味はないよ。俺は佐藤水樹、一条と同じAクラスだ。よかったら友達になろうぜ」

 俺は気づいたら水樹の手をつかんで、首を縦に振った。

「俺は一条悠、よろしく。これから仲良くしようぜ」

 初めて友達ができた。ここまで嫌なことしかなかったが、学園生活も悪くないかもしれない。

「悠は知ってるか?これから行われる模擬戦では賭けが行われるらしいぞ」

「それは知らなかった。俺も賭けられるのか?」

「さすがに当事者は無理だな」

 どうやら無理だったらしい。

「友達になってくれたお礼に、水樹に良いことに教えてやろう。俺に全ポイントを賭けてみろ、倍以上増えるぞ」

 水樹は「マジ?」と笑いながら、俺に賭けていた。

 友達のために俺も頑張ろう。油断さえしなければ勝てるだろう。


 俺の足取りは軽く、いい緊張感のまま碓氷との模擬戦に臨むのであった。

 

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