第2話 刀

―よぉ。見ねぇ顔だな。


まぁ聞いてくれよ…。


そう驚くなって。


口が悪ぃのは生まれつきだ。


気にすんな。


誰もお前さんを叩っ斬ろうなんざ、思ってねぇ。




俺は名も銘も知れねぇ刀さ。


なんだ最近じゃ、俺ら「刀の付喪神」が若い女たちに人気だって言うじゃねぇか。


前に来た【近代美術品】の野郎が言ってたぜ。




でもな、そんなのは名の知れた名刀だけの話だ。


俺らのような無銘の刀には、なぁんの光もあたらねぇのさ。


ここみたくよ…。


暗い蔵の中で埃をかぶってる方がお似合いってなわけだ。




虚しいよなぁ…。


俺だって……


「付喪神」なんだがなぁ………。


同じ「付喪神」でも…とんだ違いさ。




俺の主人かい?


この蔵の持ち主で、この辺じゃ一応名の知れた名士だったらしいぜ。



無銘の俺を「これは日本一の名刀だ!」って、馬鹿みてぇに大事にしてたっけな。


大事にしすぎてよ。


死ぬ間際には、こんな暗ぇ蔵に押し込みやがってな…。



「未来永劫、我が家で家宝として引き継げ!」だとよ。



本当、馬鹿なヤツだよ。


俺みたいな無銘をだぞ?


生涯大事にしてたんだぜ?


付喪神になるまで…愛情注いで家族に継がせるなんて…。




本当………馬鹿なヤツだよ。





…つか、俺は聞こえねぇ相手に何言ってんだか。


アイツの馬鹿が移ったか…?


まぁ、気にすんな【独り言】みてぇなモンだ。



つか、アンタはいつまで俺の事見てんだよ…。






……っと、手に取るのは構わねぇが、大切に扱ってくれよ?


こちとら体を動かすのは半世紀ぶりくらいだ…って、おい。


どこ行くんだよ。


そんな大事そうに胸に抱いて…。



期待すんなよ?


名刀じゃねぇんだぞ、俺は…。




外へ連れて行く気か…?


おいおい…本気か?


アンタ、もの好きだな…。




前の主人に似て……アンタも……相当な馬鹿だろ。



似てるのはアイツの顔だけにしてくれよ……。



本当…馬鹿だよ、アンタ。





だから、俺は「お宝」じゃねぇっての……。




耳元で騒いでんじゃねぇって、笑えるくらい賑やかなヤツだなアンタ…。




……ありがとうな……悪い気分じゃねぇよ。




―――あぁ、眩しいな…。



久々の………陽の光だ。


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