無意識とかよくわからん!
(作者注:リンク先は正常です)
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「お前のような出来損ないはうちの課に必要ない! 荷物をまとめて出ていけ!」
事務378課に大きく鋭い声が響き渡った。
「な、何を言っているんです課長! ワタシが何をしたというのですか!」
ワタシは課長に抗議する。そうだワタシが出来損ないと言われるいわれはない。仕事をしっかりこなし、課に貢献している。体を機械化して課のために貢献し、睡眠時間もショートスリープアプリを用いて2時間まで削減できた。
「ミスもなく業績を出し続けたこのワタシに何の不満があるというのですか!?」
「黙れ黙れ! これは上からの命令だ! 上司の命令に逆らうつもりか!」
理由は何一つ教えてくれない。だがワタシは知っている。課長は部下に性的接触を行っている部下がいて、その部下の心が離れて言っていることを。そして仕事ができるワタシに向いていることを。
「わかりました。
これは最後の忠告です。ワタシがいなくなればこの課の業績は287%下がるでしょう。計算上、100日後には課長は降格されるかと思われます」
「うるさい! 貴様がいなくとも問題ない! その為に他から人員を安く買いたたいたからな!
貴様の方こそさんざん手を回して『ネメシス』では仕事ができなくしておいたぞ! そのまま誰にも相手されずにスクラップに行くがいい!」
こうしてワタシは事務378課を追放された。
課長の言うようにワタシは『ネメシス』内のどこの課でも受け入れてもらえなかった。ならば仕方ない。他企業に行くしかないようだ。とりあえず『カーリー』に行くとしよう。
――その後、ワタシは『カーリー』のSPD(院内物流管理)を担うKL-00011110こと『イイ人』(眼鏡巨乳白衣の指揮官系キャラ)とその部下であるKL-00089314こと『ヤクザイシ』(ガラは悪いけど根はいい医者)、そして課長にセクハラされていたけど実はワタシのことを行為に思っていたNe-00100018こと『
そして課長はワタシの予測より早く没落していくのだが、もう遅いのであった。
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…………。
「なんでありますかこの展開は!? あまりにもつまらないでありますぞ!」
20面サイコロはキレた。あまりの展開にキレるしかなかった。
「課長が主人公を追放する理由はただの嫉妬で横暴すぎるし、その後に都合よくイイ人に拾われるのもご都合主義すぎますぞ! ちょっと優しくされた後に胸を揉まれた程度で好意を抱くとかさすがにありえないであります!
ヤクザイシのエピソードも非現実的であります! あれだけ悪どく他人を下に見ていたのに、ちょっと誠実に接しただけで『お前はいいヤツだな』とかなるのはどーなのでありますか! そういうヤツを騙す悪キャラ設定は何処に行ったでありますか!
あとシェヘラザードは唐突過ぎるであります! 非現実的非現実的非現実的! ありえないにもほどがありますよこんなご都合主義な展開アリエナイ!」
出てくる女性キャラが次々と主人公に好意を抱くという展開に顔を赤くして反論する20面サイコロ。
「そりゃ現実の記録じゃなくて創作だからな。多少の理不尽を気にせず楽しむのが創作の楽しみ方なんだぜ」
キレる20面サイコロにそう告げるコジロー。創作と現実をごっちゃにすると面白くない。だがそれができない者はどの時代にも一定数はいる。ましてや20面サイコロはもとより創作を楽しむということに慣れていないのだ。已む無き事である。
『課長に追放された
コジローがもっている
「追放&ハーレム系はダメかぁ。古き良き
「だいたい今どきテキスト系とか趣味としては劣悪すぎるであります! やはりアイドル! 現実のアイドルではなく電脳アイドルこそ至高! 無限の可能性を秘めた最高のキャラが生まれる電脳世界! 人造の娯楽など唾棄すべきものですぞ、ペッペッペ!」
コジローが20面サイコロに
『ストレスの原因解消とはいかずとも、いい感じの趣味で折り合いをつけられたらどうにかなると思うであります』
20面サイコロとケルベロスの融合。この解除には無意識化にある20面サイコロのストレス緩和が必要となる。さすがにストレスの原因である『ネメシス』の消滅はできないので、ストレス緩和のために『いい感じの趣味』が必要となるのだ。
『20面サイコロ氏の趣味であるVRアイドル。これに期待するキャラが現れればどうにかなるであります!』
『とはいえ、そんなキャラがいるはずもなく。
ちょっとオリジナリティがあって笑顔が素晴らしく、声も若くどちらかというと幼く、当然歌唱能力も高くてダンス技術もA+級。世間の汚さに塗れない透明感ある性格で見ているだけで癒される程度でいいのでありますが』
あまりの注文の多さというのもあるが、アイドルに全く興味のないコジローやネネネにはどうにもできない領域だ。なので別の趣味を紹介するという手法を取ったのだが……。
「『彷徨うドローンが探す、消え去った時の謎と未来への鍵! 過去の影が描く永遠の輝き!』……訳が分からないから読まないであります!
『1000万回殺されたオレ:VRゲームの序盤ボスが語る初心者たちへの言葉』……序盤ボスとか魅力ねーであります!
『アイドル奮闘記! 男の娘だけど高音出せたのでリアルアイドルやってます!』……リアルアイドルは全部クソ!」
コジローが感銘を受けた
「わかったわかった。アンタが文章を楽しむのは無理だ」
匙を投げました、とばかりに額に眉をひそめて手を振るコジロー。
「なら次はアタイの番だな!」
コジローが諦めたタイミングで胸を張るネネネ。
「ああ、俺にはコイツの趣味を変えるのは無理だ。ネネ姉さんは何か策があるのか?」
「当然だ! コジローは難しく考えすぎだ! アタイからすればこんなの簡単すぎて欠伸が出るぞ!」
ふん、と鼻息を鳴らすネネネ。その後で20面サイコロに向きなおった。
「さあ、走るぞ!」
「は、走るでありますか? いやその、拙者サイバーレッグの類は持っていなくて。正確に言えば20面サイコロはその手のサイバー機器は有していないわけでして」
「安心しろ! アタイの四肢はバイオ……バイオ……とにかくそう言う四肢だ! 問題ない!」
バイオレッグ、という単語が出なくて首をひねるネネネ。何が問題ないのかわからず、追従する言葉が出ない20面サイコロ。
「思いっきり走って思いっきり疲れたらストレスとか感じなくなる! アタイがそうだからな!」
「まさかの体育会系ランナーズハイ!? いやいやいやいや! それって単に考えるだけのカロリーがなくなるって事でありますよね! ストレスの緩和というか、酸素不足で脳が死ぬだけなのでは!?」
「? よくわからないけど、問題はない!
ここから『トモエ』ビルまで走って戻ってくるだけだ! 1時間あればいける!」
目をキラキラさせて拳を握って言うネネネ。距離にすれば20キロほど。往復40キロを1時間で可能とする速度は約秒速11キロ。短距離走並の速度を一時間維持することになる。
「無理無理無理! 問題だらけでありますよ! コジロー氏! ヘルプ! ヘルプであります!」
特に鍛えておらず、サイバーレッグを持っていない20面サイコロは泣きながらコジローに縋る。ネネネにはどれだけ無理だと言っても聞いてくれない。マラソン強行軍は『攻撃禁止』の禁忌に含まれるかどうかは微妙なラインだ。
「正直、オレとしてはこれまでの恨みもあるし一回ひどい目に遭ってもいいかなって気分なんだがな」
「ひぃぃぃぃぃ! トモエ氏が助けたいから助けるとか言っていたのにクルリと掌返し! ちょっと調子に乗りすぎてましたごめんなさい!
拙者が悪いんじゃなくて20面サイコロのストレスがそうさせるのです! 調子に乗るようなことはしませんからお許しを! 何なら靴舐めます! 靴がイヤならどこでも舐めます! だから運動は勘弁であります!」
「なんだかなぁ……。ネネ姉さん、その方法は最後の手段だ。切り札は取っておこうぜ」
コジローの無慈悲な言葉に本気を感じたのか、20面サイコロは必死に謝罪の言葉を続ける。その態度にどちらかというと呆れたコジローはため息をつき、ネネネを制止する。
「む。コジローが言うならそうするぞ! アタイは秘密兵器だからな!」
「ふぃぃぃぃぃ。ネネネ氏がお馬鹿でコジロー氏に対してチョロくて助かったでありますぞ。将を射んとする者はまず馬を射よ作戦成功であります」
「お前、余計な事を言って自滅するタイプだな」
20面サイコロの余計な一言を聞かなかったことにするコジロー。寛容なのではなく超能力が解除されたらきっちり返そうという事である。
「そもそもなんでアイドルなんだよ。しかも電脳限定。知り合いにもアイドルにハマってる奴はいるけど、そこまで視野は狭くなかったぞ」
ゴッドの事を思い出して言うコジロー。ゴッドはアイドルだけではなく異性クローンにモテたいチヤホヤされたいというのが主体だ。現実でもいいし電脳世界でもいい。相手の性格も特に問わない。
「ケルベロスである拙者本体がAIで電脳世界にしか生きられないという性質もあったのでありますが……。
20面サイコロ氏の仕事と性格にも問題があったのであります。生活のほとんどが仕事と研究で他人と関わり合いのない生活。その上で、ゲーム理論という社会におけるキャラクターを俯瞰して見るからなおのこと他人から距離を取ってしまいまして」
電脳世界でしか生きられないAIのケルベロス。現実世界では『他人』を数字とデータとして見てしまう20面サイコロ。
その環境故に、双方共にに現実世界のクローンに壁を作ってしまったのだ。その結果、電脳世界に癒しを求めてしまうのである。
「成程、そう言う理由があるってことか」
「はいであります。拙者と20面サイコロ氏が融合できたのは、こうした無意識で形成された共通点があったからかもしれません。それこそ意識できない事なのでありますがな。はっはっは!」
「無意識とかよくわからん!」
脳医学などかじったことのないネネネは怒ったように腕を組んだ。
「いえいえいえ。大事ですぞ無意識。理解はできないかもしれませんが、むしろネネネ氏こそ無意識部分が鍛えられていると思います。
無意識とはいわば習慣。日々行っていることが『意識せずに』行動できるという事であります。ネネネ氏の空間跳躍などは脳内で計算して行っているのではなく、日々行っている習慣の賜物かと」
そんなネネネに20面サイコロは説明する。
ネネネの跳躍戦闘は刹那の行動の集合だ。コンマ1秒ごとに『あの壁をこの角度でこの程度の強さで蹴って跳ぼう』などと考えて行動はしない。それらは無意識化という名の経験則で行われる。
「お二人は毎日激しい殺し合い……戦闘訓練? とにかくそれを行っている模様。
そうして培ったモノが習慣であり、そして無意識。お二人を構成する人格や自我はそうやって形成されているのであります。何かあったら暴力で解決したりする粗暴な性格は――」
「ネネ姉さん、コイツ全力で走りたいらしいぞ」
「おう! 任せろ!」
「にぎゃあああああああああ! お許しを! 平に謝りますからお許しをぉぉぉぉ!」
この『余計な事を言ってしまう』のも、現実のクローンから距離を置いてしまう環境から生まれた性格なのだ。
環境や習慣で無意識化に形成される性格。自我を構成する部分の根幹。
自我の証明を担うキーワードの一つを得たことに、コジローとネネネはまだ気づいていない。
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