派手過ぎる……!

 バーゲスト総攻撃の命令が企業から下り、各企業の全治安維持部隊は総攻撃を開始する。


 そんな中、『KBケビISHIイシ』の部隊長IZ-00361510こと『361寒い510ゴッド』は突然の通信に目を丸くした。


「はああああああ!? 何言ってんのナナコちゃあああああん! 攻撃停止して記録もカットしてってそんなことしたら他の治安維持部隊に手柄取られちゃうよ!」

<かもしんないっすね。まあ兵站確保とか通信トラブルとかそういう感じで誤魔化してほしいんすよ! やってくれたらイロイロサービスするっすよ♡>

「おまっ、そう言って誤魔化されるゴッド様とおもうなよっ! その、たしかにナナコちゃんのサービスは上から下まで気持ちよかったけどっ、だからって仕事は――」

<あン……! うっ……ッん……、んッ、んふッ、あ、ゴッドさまぁ、あぁッン!>

「みゃあああああああん! 脳内に直接響くナナコちゃんの嬌声! 脳みそ溶けちゃう! おいお前ら! 大攻勢の前にいったんチェックのやり直しだ! 20秒で終わらせろー! 記録系も全部リセットだ!」


 突然の寒いゴッドの命令に『ああ、またか……』とうんざりする部下達。何かあったら諜報部のエージェントに色仕掛けされているのは公然の秘密であった。もっともナナコも有益な情報提供などをしてくれるので、持ちつ持たれつの関係なのだが。


潜 入 工 作 員インフィルトレーション――蜜 事 甘 妖ハニーネゴシエーション】!


 20秒ほど『KBケビISHIイシ』の包囲網が緩くなる。その隙間を縫うように、一台の飛行バイクと数人のクローンが飛行していく。


 飛行バイク『バショウセン』を操るギュウマオウと、その後ろにタンデムするトモエ。少し遅れて円盤型飛行ドローン『キントウン』に乗るゴクウだ。カメハメハと『働きバチ』は自らの企業に戻っている。


「うはぁ、本当に警戒網が緩まってるぜ。発見されたエマージェンシーサインも来ない。コイツはラッキーだぜ」

「ナナコが上手くやったみたいね。……方法はあまり考えたくないけど!」

「とはいえ、本命はここからだ。既に戦闘は始まっているよ」


 ゴクウの指摘通り、五大企業の治安維持部隊による攻撃が開始されている。アーテーの超能力で委縮気味ではあるが、それでも訓練通りの動きをしていた。『NNチップ』によるアドレナリン投与でストレスを緩和しているようだ。


 対し、バーゲストはアーテーの精神攻撃をまともに受けて今なお回復できていない。ホームシックのストレスに苛むように自分の世界に戻る空間の孔を探すように手を伸ばし、近寄る者を振り払うように大雑把に攻撃をする。前に見せたサムライの剣技の鋭さはそこにはない。


「なんとかっていう超能力者エスパーの超能力がここまで効くとはな」

「話を聞く限りは肉体よりも精神寄りの幽霊みたいなモノみたいだしね。多分それを見てのアーテーに攻撃させたんだと思うわ」

「精神とか幽霊とかは分からないけど、ともあれ今がチャンスという事か」

「そういうこと! とにかく近づいて触れさえすればアレの精神とそこにいるコジローに会えるのよ!」


 やるべきことはただ一つ。トモエがバーゲストに触れること。その瞬間にアーテーが超能力を使い、両者の精神をより深く同調させる。


「成程ね。じゃあ出し惜しみはなしだ! ハイスピードフルパワーで突っ走るぜ!」


飛 行 牛 王フライトキング――神 風 走 行カミカゼドライビング】!


 ギュウマオウが飛行バイクのスロットを回し、同時に赤いボタンを押す。エンジンが全力で回転し、一気に最高速度を叩きだした。バーゲストまでの距離を一気に詰めていく。


 だがそれは戦場に近くなることと同意。バーゲストのレーザーや各治安維持部隊の兵装が飛び交う場所だ。一歩間違えれば――否、普通の選択では巻き込まれて死んでしまう。事実、射線に入ったバショウセンは複数の銃撃に晒された。


子猫キティに触れるのはやめてもらおうか。少しばかり遠くに行ってもらえないかな」


斉 天 大 聖てんにひとしき――如 意 金 箍 棒わが意のままに動け棒よ】!


 ゴクウが展開している2つのドローンが展開し、ドローンとドローンの間を雷光が走る。ドローンはゴクウの脳波を受けて意のままに動き、無限に伸びる稲妻の直線を形成した。


回転ターン防壁ウォール目くらましフラッシュ!」


 ゴクウの言葉と共にドローンは動く。トモエを守るために回転して銃弾を弾き、射線を遮るように広範囲に稲妻を放ち壁となる。そして閃光を放って目をくらまし、同時に自分への注目を集めた。


「ゴクウさん!」

「やれやれ。コイツは対Ne-00339546の為の秘密戦法だったのにね。フォトンブレードを超える高出力電圧と無限の距離を斬れる稲妻の剣。初見なら圧倒できるはずだったのに」

「ふん。コジローだったらどうにかするわよ!」

「だろうね。子猫キティとの戦いも実戦も、勝ち目がなさそうだ」


 並走しながらそんな会話を交わすゴクウとトモエ。


 しかしゴクウが庇える範囲は空中という広い空間のごく一部。360度からくる脅威の中で最も恐ろしいバーゲストのレーザーが迫る。文字通り光速で迫る弾丸。認知した瞬間には貫かれている光の死神。


 だがそれは、


<天蓋の民を守るのが、『カプ・クイアルア』の、完全機械化フルボーグの、吾輩の使命!>


機 械 格 闘 術マシンアーツ――光 線 白 羽 取 りキャッチ・ザ・レーザー】!


 割って入った一人の完全機械化フルボーグが掴み、防がれる。


「カメハメハさん!」

<たとえIDがなかろうとも、そこにいるモノを助けるのが吾輩であり『カプ・クイアルア』! 我が機械の腕は、体は、回路の全ては、その為にあるのだ!>


機 械 格 闘 術マシンアーツ――光 線 白 羽 返 しシュート・ザ・レーザー】!


<そして見るがいい! これがカメハメハの、最大の一撃だ!>


 カメハメハは掴んだレーザーを相手に返すようにし、同時に胸部を開いて『ペレ』のバッテリー全てを使って熱戦を放つ。


機 械 格 闘 術マシンアーツ――波 動 砲 ・全 力 放 出フルバーストストライク】!


 派手な熱戦と激しい振動。戦場で戦う者の目を引き、トモエたちの行動から目を逸らす。精神が揺らいでいるバーゲストもそれに誘導されてただ進むだけの存在から注意を逸らす。


 だがそれも一瞬。無限に続く攻撃はない。そんな甘い攻撃ならだれにも注目はされない。攻撃を終えたカメハメハはゆっくりと地面に滑空していく。そうなれば単独飛行するトモエたちに目が行く者もいるだろう。


『はーい注目! 五大企業すべての戦闘ドローンの見本市よー!』


 その一瞬を逃さぬとばかりに声が響く。どこか女性めいた男の声。無数のクレジットを導入し、『ネメシス』『ペレ』『イザナミ』『ジョカ』『カーリー』の戦闘用ドローンをそれぞれ12体ずつ購入し、更にそれを大型輸送ドローンで運んだ実行力者エグゼク


経 済 戦 略マーケティング――五 大 企 業 見 本 市ファイブ・トレード・ショウ】!


「ニコサン……!」

『これを見ているクローン達ぃ! 兵器ドローンのどれが強いか知るいいチャンス! 映像の切り取りは自由よ! 宣伝にするなり動画利用するなり、好きになさい! でも提供のPe-00402530のマークは外さないでよ!

 レディ、ゴー!』


 全方位からバーゲストに放たれる兵装ドローンの一斉射撃。遠距離からの狙撃が、ミサイルの嵐が、弾幕が、散弾が、火炎放射が、四方八方からの攻撃が辺り一帯から放たれる。


「企業の見せ場とあっては企業戦士ビジネスとして黙ってはいられないな」


 ニコサンの発言に挑発されるように――その企業戦士ビジネスの性格からすれば挑発に乗るなどありえないというのに――『イザナミ』の企業戦士ビジネスが同僚たちに合図する。合図とともに、未発表の兵器が起動した。


「どういうことだ、『働きバチ』! このタイミングで新製品の公開だと!」


 近くにいた『ネメシス』の企業戦士ビジネスに詰め寄られる。『働きバチ』とは別企業ながらもシェアを競い合うライバルだ。この動きに納得できないとばかりに声をあらわにする。


「どういうこと? 『イザナミ』の兵装チームを駆り立て、新製品を披露するだけだ。作戦書は電子ファイルで提出済み。上長からの承認ハンコももらっている。そちらはなにか売り込まないのか?」

「ふざけるな! なんだその速さはと聞いている! まるで

 さては――」


 言うまでもなく、『働きバチ』はこの流れを予測していた。ニコサンの資産も性格も知っている。トモエが一声かけてニコサンが返事をした瞬間に動いていたのだ。


「さてどうだろうな。推測で疑いをかける時間があるなら、そちらもこの流行に乗ったほうがいいんじゃないか?」


 しれっと言い放ち、『ネメシス』の企業戦士ビジネスを黙らせる。そちらに一瞥をくれることもなく、攻撃開始の号令をかけた。巨大なコオロギの羽根が広がり、音波による攻撃が戦場を支配する。


仕 事 開 始ビジネス――蟋 蟀 闘 争 歌ファイティンブビブラード】!


 空気の振動が兵器を震わせる。細かな振動が監視カメラなどの記録器にノイズを生む。記録する機器は軒並み再起動を強要され、トモエ達を撮ることはなかった。


「派手過ぎる……!」


 突如増えた弾幕。そして大音響。だがそれがトモエへの注意を大きく削ぐ。そのおかげもあって、バーゲストへの距離もあともう少しに迫る。そしてそれは、バーゲストからも腕が届くという事だ。


 近づいたものを振り払う。もはや本能に近い体の動き。バショウセンを振り払おうと迫るバーゲストの腕。その腕を回避するにはタイミングが遅い。トモエは迫る腕を凝視し、


「アタイが、来たあああああああああ!」


 そして落下しながらその腕を切り刻むネネネの姿を見た。四肢に生えた炭素刃がバーゲストに無数の傷を耐え、痛みでその動きを止める。


三 次 元 戦 闘とびまわるアタイ――垂 直 連 続 斬 りおちながら こうげき】!


「ネネネちゃん!」

「こっちだトモエ!」

「あっ!? ネコ娘を持っていくな!」


 ネネネはトモエとバイクを固定する金具を切り裂き、トモエを抱えて跳躍した。ギュウマオウは怒りながらバイクを操作し、軌道を立て直す。


「ちょおおおおおおお!? ネネネちゃん流石にこれは無理! 飛ぶ足場がないじゃないの!」


 ネネネの移動方法はバイオレッグ『デンコウセッカ』による三次元の跳躍だ。ビルの間のような足場がある場所ならいくらでも飛び回れるが、何もない空中では蹴る足場がない。重力に引かれて地面に落ちるのは目に見えている。


「大丈夫! あのすこびるとかってやつと話はついてる!」

「へ? すこびるって、ペッパーさん?」

「殴り合ってトモダチになったからな! 感覚ナントカでいうちょーのーりょく? そんなのでアタイの五感と繋がっている!」


感 覚 共 有ガンジュエ ゴンシャン――同 步 五 感トンブー ・ウーガン】!


「そうだッ! 拳を交わせばッ! すなわち戦友ともッ! うぉれはッ! 戦友ともをッ! 助けるッ!」


 ビルの上で叫ぶペッパーX。二度とネネネと戦い、そこで何かしらの友愛が生まれたのだろう。連絡先も交換していたのである。


「だ、だからってペッパーさんの超能力だとこのまま落ちるだけで――!」


 叫ぶトモエ。ペッパーXの感覚共有はあくまで五感を共有するだけだ。物理的には何の効果ももたらさない。痛みを共有してダメージを与えることもできるが、あくまで脳にその刺激を与えるだけ。物理的には傷一つつけることのできない超能力である。


 だがトモエは忘れている。正確にはそこまで頭が回らなかった。冷静になればペッパーXがいるのなら、その存在を忘れるはずがないのに。


 ペッパーXの傍にいる超能力者エスパーのことを。


「まったく、非常識にもほどがある! カシハラトモエと関わるとこんな事ばっかりね!

 金属の位置補足。射出の角度補正完了。一斉に打ち上げるわ!」


 金属の端を爆発させ、宙に飛ばせるほどの火力を産み出せる者の名を。


金 属 沸 騰ジンシュウ・フェイトン――無 限 金 属 射 出ウーシュ・ジンシュ・シェチュ】!


 金属片の一部が瞬間で熱され、爆ぜる。計算された爆発は推進力となり、一気に宙に打ち上げられた。ネネネの目を通してペッパーXに伝わり、同時にペッパーXからボイルに伝わる情報。その情報を元に計算された位置に正確に金属が射出され――


「とう! そりゃ! もうひとーつ!」


三 次 元 戦 闘とびまわるアタイ――空 中 八 艘 飛 びえあじゃんぴんぐ】!


 ネネネはそれを蹴って宙を飛ぶ。8つの金属を蹴って飛び、最後の跳躍のエネルギーを使ってトモエをバーゲストに向けて投げつけた。


「無茶しすぎだよ子ネズミミニー


 宙を舞う金属を避けるよう迫ったゴクウが落ちるネネネを受け止める。トモエはそれを見て安堵した。そのまま前を見てバーゲストに手を伸ばす。


「このまま――!」


 このまま飛べばバーゲストに触れられる。それまで1秒もかからない。


 ポッ――


 トモエとバーゲストの間に光が生まれる。全てを貫くレーザーの射出。光速の攻撃は、言葉通り秒もかからない速度でトモエの命を奪うだろう。


 だが、トモエに恐怖はない。


 光よりも早く斬れる超能力者エスパーを知っているから。


『恋する乙女は無敵なんです! 緊急システム発動!』


機 々 械 々キキカイカイ――疾 風 飛 行 機カラステング ・ 高 速 モ ー ドクラマヤマシステム】!


「ざーんねん。お姉さんには見え見えの攻撃なのさ。見え過ぎて困るのはお姉さんの体だけにしてほしいね」


二 天 一 流いまとみらいの剣――機 先 を 制 す る 一 閃インタラプトスラッシュ】!


 ムサシを乗せた飛行ドローンが急速加速し、トモエと光の間に割り込む。見て動いていたのでは間に合わない。先にこうなることが分かっていたからできる攻撃。イオリにタイミングを支持し、それにあわせてフォトンブレードを振るうムサシ。


 未来を見ることができるムサシにとって、時間など意味をなさない。見た瞬間には、全てが終わっているのだ。


「ムサシさん……!」

「旦那は任せたよ!」


 同じ人を愛する者同士言葉を交わす。なにも邪魔されることなくトモエはバーゲストの体に触れた。


「アーテー、トモエの役に立つよ」


精 神 同 調シンパシー――こ こ ろ に も ぐ ろ う】!


 その瞬間、アーテーの超能力が発動する。バーゲストの心に中にトモエの精神が潜り込む。暗く深い場所に、沈んでいく――

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