私の……能力(できること)
「しかし問題はバーゲストにどうやって触れるか、だよ。
よくわからない超能力で困惑しているみたいだけど、それもどこまで続くか」
「治安維持部隊も攻撃を再開ししつつあるぜ。あの中を突っ切るのは大変だぞ」
目標であるバーゲストの方を見ながら、ゴクウとギュウマオウは口を開く。
アーテーの超能力でホームシックを誘発されたとはいえ、バーゲストが巨大で脅威な事には変わりはない。積極的な破壊行動にこそ出なくなったが、腕を振り回しているだけで破壊を生む。邪魔者を払うように攻撃するだけでも、市街部にレーザーが降り注ぐのだ。
「というか、お二人は作戦に参加しなくていいのかな?」
<命令が『バーゲストの停止及び破壊』だからな。ならばトモエ殿の案に乗ったほうが成功確率が高いと判断した>
「カシハラトモエの経緯と戦歴を考えれば、不利を一気に覆す可能性は大いにある。企業の事を思えば、成功率の高い方にリソースを注ぐのは当然の判断だ」
ゴクウの質問にカメハメハと『働きバチ』が答える。そこにはトモエへの信頼があった。同行した事件数は多くはないが、彼女が係わる事件とその結果を考えれば今回もどうにかすると信頼できるのだろう。
「うぇえええ……。私そこまですごくないよ? 誘拐されそうになったり、『国』では捕まったり、変な思想のサイボーグに捕まって拷問されたり、電磁シャトル? その暴走でも大したことしてないし」
謙遜でもなく、トモエはそう言い放つ。実際に戦ってくれたのはコジローで、自分は何もしていない。流されるままに流されて、皆に救ってもらった記憶しかない。何のチート能力を持たないJKなのだ。
「つまりこちらはすごくない存在を誘拐できなかった無能という事か」
「え? そんなわけじゃないけど。コジローがほとんど解決したっていうか――」
トモエの言葉にそんな言葉を返す『働きバチ』。トモエ誘拐は任務成功率の高い
「それは失敗要因の一つだ。あの瞬間にカシハラトモエが演技をしなければこちらが勝利していた。タイミング的に口裏を合わせていたとしか思えない」
『働きバチ』とコジローの戦いは、コジローが一瞬のスキを突いたことで有利な状況を覆された。その隙を作ったのは間違いなくトモエだ。
「『国』での件も話には聞いている。あの状況下で生存できたことは驚きに値する」
「へ……? あそこって監視カメラとかもないんじゃなかったっけ?」
「IZ-00404775からの情報だ。口裏を合わせたり事件の痕跡を消すために取引という形で『NNチップ』の映像を提供してもらった」
「そのIDは……ナナコか!? いや、裏でいろいろ手を回してくれたことは嬉しいけど!」
勝手に色々話をした親友に怒りの声を上げるトモエ。自分を守るために情報操作してくれたんだろうけど。いろいろ恥ずかしい目にあったからその事は伝えてないでしょうね、あのやろー!
<『デウスエクスマキナ』のXXXの脳波に直接干渉する拷問にも耐え、電磁シャトルでの戦いでは皆を救うアイデアを出したと聞く。トモエ殿がいなければ『
「や、でも実際にそれを止めたのはコジローとペッパーさんとボイルさんで」
<だがトモエ殿がアイデアを出さなければ皆は動かなかっただろう。
確かにトモエ殿はコジロー殿のような剣術も『ジョカ』の二人のような超能力も持たないが、それ以外の……いや、それ以上の能力を持っていると吾輩は思っている>
そしてカメハメハもトモエを分析し、賞賛する。ただそこにいただけの力のない人間。それを否定し、事件解決に一役買った存在として認めていた。
「私の……
口にして、そんなものはないと断ずるトモエ。
コジローやムサシやネネネのような戦闘力はない。ニコサンのようなお金もない。ナナコのような変装能力も潜入能力もない。全身を機械にすることもできないし、企業のコネもない。
できることなんていつだって一つ。
皆に救ってもらうしかない。
「――っ!」
トモエは弾かれるようにスマホを起動し、フリックしてメッセージを送る。あて先は、知り合った人達全員に。
『お願い助けて』
『これからコジローを助けるためにバーゲストに触れないといけないの』
『でも一人じゃ無理』
『だから、助けて』
『お礼なら何でもするから』
何もできない自分にできることなんて、お願いする事だけだ。他の人から見たら頼ってばかりで情けないかもしれない。無力を晒して恥ずかしいかもしれない。でも、これしかできないのだ。
『お礼なんていらないわ! コジローちゃんとトモエちゃんがピンチなら、いつだって助けてあげるから!』
最初に返事が返ってきたのは、ニコサンだ。
『ビルの権利と販売ルートを担保にしてドローンをダース単位で買い占めたわ! あとそこに『金属融解』がいるのなら、新たな鉄柱もあったほうがいいわね! 輸送用のドローンも含めて大盤振る舞いよ!』
メッセージから5秒も経たずに兵站をそろえるニコサン。その買い物に思わず乾いた笑いを浮かべるトモエ。やりすぎニコサン。
『おっしゃー! アタイがすぐに助けに行くぞ!』
重なるタイミングでネネネからのメッセージが返ってきた。
『なんかずっと寝てたんでアタイ元気! すぐにそこに行ってやるからな! ところでばーげすとってなんだ? BARのGUEST?』
ネネネは事情もまだ分かっていないけど、コジローとトモエがピンチだというのなら助けに行く。何が相手でもネネネの心は変わらないだろう。メッセージからその元気のいい声が聞こえるようだった。
『あっしは動けそうにないんでパス。行っても役に立てねーっすからね』
ナナコからは辞退のメッセージだ。ダメージの大きさを考えれば仕方のない事である。
『現場にいる『
それでもできることをしてくれる。そんなナナコに泣きそうになるトモエ。その方法はちょっと怖いけど。
『おおっと、トモエちゃんの参戦か。コイツはお姉さんも気合が入ってきたよ』
現在バーゲストと交戦中のムサシから、戦いの間を縫ってメッセージが来た。
『旦那を救うためっていうのがイイねぇ。こういう形で旦那を助けることになるなんて、やっぱり未来は変わって正解だよ。好きな人のために一肌二肌脱いじゃおうか? あ、お姉さんのおっぱいに見惚れちゃ駄目だからね』
すでに酩酊状態なのか、メッセージも酔ったようなものだ。その言葉に安心感が生まれる。
『いえす! いつでもおっぱいに見惚れてますぅぅぅ!』
『あ、送り先間違えた』
ムサシのメッセージに反応して送られたのは、イオリのメッセージだ。ムサシの言葉を拾ったか。脳内に思ったことが直接メッセージになる『NNチップ』の弊害である。クリック前に深呼吸。トモエはネットリテラシーの重要さを遠い未来で学ぶ。
『カシハラトモエ。イオリは貴方の恋を応援します! 私的な損得勘定はありますけど、好きな人を助けたいという気持ちは純粋にきゅんきゅんしますから! 恋はいつでもフルアクセルです!』
ムサシ大好きなイオリは、コジローとトモエがくっついてムサシが失恋することを望んでいる。だけど恋するトモエを応援したいというのも本音なのだろう。形はどうあれ、トモエもイオリも原動力は恋なのだから。
『ふん、非常識な作戦にもほどがあるわ。あれに触れるなんて無謀にもほどがある』
ボイルからのメッセージは、そんな罵倒めいたものだった。
『でもどうにかできるんでしょ。それは信じられるわ。あのブシドーもあなたも非常識の塊だもの。勝手にすればいいわ。巻き込まない程度にサポートはしてあげるから。
死なない程度に頑張りなさい。死にそうになったらすぐに逃げて。バカみたいなことはしないで』
非常識をなじっているのか、それとも心配してくれているのか。トモエは判断に困ったが、ボイルの性格なら後者だろう。そう思うと、笑みすら浮かぶ。
『当然ッ! 助けるぞッ!』
熱く、そして短くメッセージを返すのはペッパーXだ。
『うぉれはッ! お前をナンパしたからなッ! 安全を守るのはッ! 当然だッ!』
その理由に関してはボイルには見せられないかな。トモエは苦笑する。緊張ができ度にほぐれる。
助けを求めるなんて恥ずかしいなんて思っていたけど、今はむしろ誇らしい。自分を助けてくれる人がこんなにいるなんて、なんてすごい事なんだろう。
【
「……うん、私のできる事はやったよ」
何もできず頼るしかできないけど、誇らしく。トモエは準備と覚悟を決めたとばかりにスマホから顔を上げる。
明確な成功のビジョンは見えない。だけど失敗するなんて思えない。
だってみんな信用できるから。何があっても絶対にどうにかなる。
トモエの目に不安はない。ただ真っ直ぐに、バーゲストを見ていた。
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