ずっとずっと私を助けてくれたサムライに

 コジロー視点で今あったことをありのまま話すと、トモエを追いかけてエレベーターを使って移動したら、なぜかそこにいたカーリーに襲われた。


「トモエを助けに来たらなんで人間様が襲い掛かってくるんだよ!」

「全く不幸だな。だが泣き言を言えば人生が楽になるわけでもない。ギアをあげていくぞ」

「まだ加速するのかよ!」


 徒手空拳のカーリーの攻撃を必死に防御するコジロー。カーリーからすれば服を失ってビルに入ってきたのに目的のモノは想像以上にしょぼく、恋敵のトモエを時空の狭間に葬ることもできず、最後の抵抗も味気なく、そして気にいったクローンはそのトモエを助けに来たのだ。八つ当たりの一つでもしたくなるというものである。


「レーザーを切って弾いたと聞いたが、成程たいしたものだ。追い詰めればもっと強くなるか?」


 天蓋において、カーリーと『勝負』になるクローンなど数えるほどだ。その一人であるコジローは必死に襲撃に対応していた。


「レーザーより遅いはずなのに、なんで防衛一方なんでしょうね?」

「理論と数値だけ見てる研究気質にはわかんねーっすよ」


 コジローとカーリーの戦いを見ながら疑問に思うイオリに、ナナコは呆れたように答えた。イオリが持っていた簡易医療キットを用いてナナコの弾丸摘出と止血をし、万能血液を使って失血によるショックを緩和する。とりあえずの応急処置でしかないが、今できるのはこの程度だろう。


「あー。酷い目にあった。まったく、何がどうなってるのか」

「本当にひどいですよね。いきなりレーザーネットが発動するなんて」


 一息つくナナコに、しれっと言い放つイオリ。そのレーザーネットが発動したのはイオリのうっかりが原因なのだが、そんなことはおくびにも出さない。出したら死ぬまでいびられるだろう。無表情を装いながら、イオリは焦りまくっていた。


「つーか、なんでアンタがここにいるんすか?」

「企業秘密です。いえガチでムサシ様関係の任務です。

 ムサシ様の任務のために先行侵入し、このビルで行われている悪事を未然に発見! これはムサシ様が出るまでもないとばかりに解決し、ムサシ様にお褒め頂く所存! げへへへ。イオリはどんなお礼でもいいですよぉ!」

「つまり、この騒動はある程度はアンタが関係しているってことっすか」

「あ。」


 やっべ、口がすべった。疑いの目を向けるナナコを見ながら、どうすれば一番ダメージが少なくなるだろうかと考えるイオリ。


「助かったぞッ! ボイルッ! 少し待ってくれッ!」


 電磁ネットから解放されたペッパーXは、体の痺れが抜けたのを確認して起き上がる。その後、トモエに近づき骨折の治療をしていた。ガラス繊維製ギプスをトモエの腕に巻き、水にぬらして硬化する。


「応急処置だッ! 後できちんとした治療を受けるがいいッ!」

「ありがとう……。ペッパーさんお医者さんだったんだ」

「医療資格保有という意味でなら肯定だッ! それに礼など不要ッ! うぉれはお前をッ! ナンパしたッ! エスコートするのは基本だッ!」


 礼を言うトモエに、腕を組んで答えるペッパーX。トモエの視線には不満ゲージがたまっているだろうボイルの姿があった。断熱コートで全身を包み、サングラスにマスクという表情も見えないボイルだが、トモエとペッパーXを凝視しているのはわかる。


(あー。怒ってるわね。でも最初にお礼を言われて、ちょっと嬉しそうだったかな)


 トモエのJK恋愛センサーが、ボイルの機微を察していた。


「うんうん。でももう安全だし。『ジョカ』の人とお話してきて。私、カーリー止めてくるから」

「うむッ! 必要になったらッ 呼んでくれッ!」

「……ふーん、仲いいんだ」


 離れるトモエと入れ替わるようにペッパーXに話しかけるボイル。自分でも嫉妬してると分かるぐらいのセリフとトーンだ。


「当然だッ! 仕事だからなッ!」

「アンタ、そんなにまじめに仕事するタイプじゃなかったでしょ。難しい事は私に聞いてばかりなのに、なんで今回はやる気になってたのよ。そんなにあの子の事をナンパしたかったの?」


 自分でも感情的になっていると分かる台詞とトーン。ボイルはそんな自分に嫌気がさしていた。トモエの性格と自分の陰気さを比べて、更に陰が増す。そりゃ一般的な男性型は明るく答える女性型の方を選ぶわよね。そうよ、当然じゃない。……馬鹿。


「ボイルが超能力部署を早く復帰したいと嘆いていたからなッ!」


 陰気なボイルの気持ちなどどこ吹く風、とばかりにペッパーXは答える。先の『ミルメコレオ』事件以降、『ジョカ』の超能力部署は大きく予算と権限を削減された。経緯はどうあれ、トモエを連れてくる任務に失敗したからだ。ボイルを始め、部署のクローンはそれを嘆いていた。


 そんな折のナンパ部署への出向だ。ご指名ということもあり、かなりのクレジットが動いたという。これを受ければ、超能力部署の損益をかなり埋めることができる。それを知りペッパーXはやる気になったのだ。正確に言えば経済的理由は手段であり目的は、


「うぉれはお前を元気にしたいからなッ! その為ならッ! 何でもするぞッ!」

「……馬鹿。そんな理由だったの?」

「うむッ! うぉれは馬鹿だからなッ! お前がいないと何もできんッ! 今回もッ! 危うい所だったッ!」

「ホント……馬鹿なんだから」


 言ってボイルはペッパーXの胸に顔をうずめた。背中に手を回して、ぎゅっと抱きしめる。


「何も言わないで。超能力もいらない。……今は、そのままじっとしていて」

「うむッ!」


 ペッパーXの体温を感じながら言うボイルに、頷いて何もしないペッパーX。


(この状況で本当に何もしない奴がいるか、馬鹿。

 でも……うん。そうよね、コイツはこういう奴だもんね)


 今はこれでいい。ボイルは自分でも単純だなと思いながら、相方のぬくもりとこの距離間に満足していた。


「ふ、カーリーの勝ちだ」

「コジロー負けてる!?」


 ペッパーXとボイルの様子から目を話したトモエは、地面に伏しているコジローを見て驚きの声をあげた。


「ちょっと何してんのよ! こんな生意気な女ぶっ飛ばしてよ!」

「無茶言うな。この人間様、滅茶苦茶強いんだぞ!」

「よし。これで憂さは晴れた。無駄足だったが、これで気分も張れようものだ」

「天蓋はバーサーカーしかいないの?」


 コジローと戦えてご満足、とばかりのカーリーを半眼で見つめるトモエ。


「何と戦ったかは知らないが、初見よりもよかったぞ。キレが増したというか、踏み込みが鋭かったな。

 古典ラノベ的に言えば、ヒロインを救いに来た主人公補正がかかった感じだ。それをリアルで感じられたのはいい刺激だったぞ」

「本当にそう思うのなら、ヒロインと主人公のシーンの邪魔はしないでほしいんですけど」

「無論だ。カーリーもそこまで無粋ではない」

「思いっきり無粋したくせに! 帰れ帰れ!」


 あと2分もすればコジローが助けに来てくれたのだが、全部カーリーが持って行ったのだ。とはいえカーリーの介入が2秒遅れればトモエの命はなかったのだが。


「人間様相手によくそんな口が利けるな」

「定義で言えば私も人間なんだけど! コジローは尊敬も何もしてくれないけど!」

「すまんな。デリカシーがなくて。敬意はともかく、できる限り守っているつもりだぜ」

「……うん。それはわかる」


 倒れたコジローの近くにかがみこむトモエ。カーリーに負けて立つこともできないのか、コジローは寝転がったまま口を開く。


「『ジョカ』にナンパされてるんだよな。お前はどうしたいんだ?」

「……どうって……」

「お前がどうしたいかはお前が決めろ。その意見を俺は最大限尊重する。

 その上で、俺はお前にどこにも行ってほしくない」


 真剣なコジローの言葉に、トモエは心臓を鷲摑みにされたように呼吸が止まった。


「行ってほしくない、って……その」

「言葉通りだ。お前を守りたい。他の男性型に渡したくない。お前を襲う不条理から守る役割を、他のヤツに渡したくない。

 俺の傍にいてほしい。それが俺の気持ちだ」


 照れることなく真っ直ぐに、コジローは自分の気持ちを打ち明ける。


 これは愛なのかもしれない。恋なのかもしれない。異世界転移した哀れな女子高生に対する同情なのかもしれない。性欲、もしくは承認欲求的にトモエを独占したいのかもしれない。


 ただそれは偽りのない気持ち。一人の男性が、一人の女性に向けた気持ち。


「あ。あの、そ、れは……!」


 口をパクパクさせるトモエ。明確に好きと言われたわけではないが、コジローのストレートな言葉に何も感じないわけがない。


(こ、ここここここ告白されたああああああああ! こ、これってそういう事だよね! ここまで来て勘違いとか解釈違いとかそういうオチはないよね……!)


 バクバクなる心臓。真っ赤になる顔。それを自覚しながら、トモエは呼吸を整える。ラマーズ法ってどうやるんだっけ? ひーふーみー? いーあるさんすー? わんつーわんつー? あわわわわ。ネットに頼ってばかりじゃなく、きちんと勉強しとけばよかったぁ!


「コジロー……私、は」


 答えないと。そう思った瞬間に、自然と覚悟は決まった。ずっとそうして欲しかった。ずっと思っていた。それを言葉にするだけだ。気持ちを言葉にするだけ。漫画みたいに恥ずかしくて言葉にならないなんてことはなかった。


「私は、コジローに守られたい」


 言葉は止まらない。


「コジローに守ってほしい。企業なんかじゃなく、コジローに守られたい。

 ずっとずっと私を助けてくれたサムライに。ずっとずっと想っていたコジローに。これからもずっとずっと守ってほしい」


 自然に手を伸ばすトモエ。その手がコジローに触れ――


「が、ああああああああああああああああ!」


 触れる数センチ前で、悲鳴が上がる。振り向けば、そこには口から泡を吹いて悶絶するドッグがいた。カーリーに壁に吹き飛ばされて動かなくなったドッグ。それが窒息するとばかりにもがいている。


「自殺用のカプセルを口内に入れていた……という割には苦しそうだな。

 おい、大丈夫か?」


 不審に思ったカーリーがドッグに近づく。この苦しみ方は異常だ。だがトモエたちはこの苦しみ方を知っていた。


 クリムゾンが使っていた、ウィルス。


 神経を激しく痛め、強力な疑似超能力スードーを引き起こす現象。


「死にたく、ない……!」


 ドッグは死にたくないという思いで、そのウィルスを使ったのだ。


「死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない!」


 死にたくない。


 しかし、死ぬ。


 自ら死を選び、しかし死にたくないと願う。その矛盾がドッグの中でせめぎ合う。ウィルスで活性化された脳が、神経が、刺激された細胞が、高次元からの干渉を引き起こす。


「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

「これは、時空穿孔!?」

「何っすかこれ! 引っ張られ――」

「離れろトモエ!」

「っ、コジロー!?」


 ドッグを中心に黒い何かが渦を巻く。近くにあるモノを食らい、取り込もうとする貪欲な穴。空間が歪み、そこにいた者達は穴に落ちていく。


 ――――――


 その日、クリムゾンのテロハッキングを解決した『KBケビISHIイシ』たちは新たな騒動に驚愕する。


 レーザーネットに包まれたビルが崩壊し、そこに黒く巨大な何かが生まれた。紅色の瞳を持ち、黒く巨大な体躯を持つ何か。


 その何かは紅色のレーザーを放ち、周囲を破壊しながら天蓋を進んでいく。


 正体不明アンノウンの名称は、『KBケビISHIイシ』の最上位に位置するイザナミ本人が命名した。


『バーゲスト』


 紅色の瞳と黒い体毛を持つ、死を告げる犬型の妖精。


――――――


PhotonSamurai KOZIRO


~紅色の混沌が全てを滅ぼす~ 


THE END……?

No! It’s not over yet!


to be Continued!


World Revolution ……23.6%!




――――――



 作者です。


 近況ノートにも書きましたが、仕事環境の変化に伴い更新頻度を変更します。


 現在:火・木・土曜日の8:00に更新

    ↓

 変更:火・金曜日の8:00に更新


 暫定的な変更のため、再変更する可能性もあります。

 拙作を読んでくださる方には申し訳ありませんが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。


 これからも『フォトンサムライ コジロー』をよろしくお願いいたします。

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