派手にイベント起さないとね!

 ここは仮想現実世界。Ne-00000042こと若旦那のVRルーム


「てなわけで、酔っ払いクローンは『ネメシス』支配圏から出て言ったぜ」


 コジローはそう言って報告を終えた。ムサシとの戦いの後にカメハメハと電子酒を飲み、目が覚めるともういなくなっていたのだ。


<楽しかったよ。また会おうね>


『NNチップ』のメッセージにそう残して。


「こちらのカメラでも確認したよ。思ったよりも被害が出なくて助かった」


 若旦那も虚空に展開したウィンドウを見ながら頷いた。ムサシが起こしたとされる被害は破壊行為十数件。天蓋の事件簿からすればささやかなものだ。クローンの損害数がゼロというだけでも、気にする数字ではない。


「結局、超能力の内容はわからずじまいでしたけどね。本当に超能力者だったんですかね、あの酔っ払い?」


 もっとも、コジローは全てを報告したわけではない。出会った場所や『デウスエクスマキナ』との戦い、そして一騎打ちしたことまでは告げたが、ムサシの未来視に関しては喋っていない。特段ムサシに止められたわけではないが、


(完全に理解したわけじゃねぇが。泣くほどの傷だからな。べらべら喋るわけにはいかねぇえぜ)


 とのことだ。ツバメには<上位市民ランク者への報告義務を怠れば、発覚時に罰金が――>などと言われたが、それを踏まえて秘密にすることにした。


「それは仕方ないよ。超能力の内容は市民ランク1でしか知り得ない内容だ。知られれば『ネメシス』から抹殺されかねない」


 さらりと怖い事を言う若旦那。おいおい、そんな秘密さらっと言うなよ。心の中でムサシを責めるコジロー。


「もしかしたらこちらの目を欺くダミーだったのかもしれないね。ともあれ御苦労様。報酬だけど、必要経費込みで――」

「待った。その報酬を使って頼みたいことがある」


 入金操作をしようとする若旦那に制止をかけるコジロー。


「頼み? コジロー君の方から頼みだなんて珍しいね。言ってくれればいつだってタワーの入室許可ぐらいは出すよ。電子ではない酒をいつでも飲めるからね」

「それはそれで魅力的ですが、今はパスで。頼みたいことはその報酬を使って『重装機械兵ホプリテス』内にいる『デウスエクスマキナ』の内通者を攻撃して欲しいんですよ」


『残念だけど、『重装機械兵ホプリテス』の上司にも『デウスエクスマキナ』に通じているクローンがいてね』

『機体を回収してそこから脳を横流し。頭脳を別ボディに換装してあいつらは事実上無罪で釈放されるって寸法さ』


 そんなムサシのセリフを思い出すコジロー。このまま何もなかったかのようにされるのは納得いかない。


 ムサシの超能力を考えればここで横流しするクローンを止めても無意味なのだが、ムサシが見た未来はトモエが生存しているのでもう存在しない。なら意味はあるのではないだろうか? そう思っての提案だ。……コジローのクレジット残高を考えれば、あまり賢い選択ではないのは理解しているが。


「……ふむ。『デウスエクスマキナ』の内通者がいることは把握しているよ。回収したボディと脳をデータを弄って流している証拠もあるね」


重装機械兵ホプリテス』内のデータなら思うだけで脳内に展開できる。そんな若旦那だから、内通者はすぐに見つけられる。更迭する理由もあり、制裁を加えることは可能だ。


「しかしNe-00003567はかなり有能なクローンでね。過剰な機械化至上主義者メカ・スプレマシーの傾向こそあるが、機械化しているだけあって処理能力も高い。失うのはかなりの痛手なんだ」


 しかし、組織にとっては有能だ。たとえ悪事に手を染めていようとも、『重装機械兵ホプリテス』に貢献しているのは事実なのだ。今回のようにクローンが死なない事件であるなら、お目こぼしをするのも組織として正しい在り方だ。


「そこを何とかなりませんかね」

「ああ、もう終わったよ」

「は?」

「もう辞令は出した。Ne-00003567は職務を悪用したという事で更迭。市民ランクも減じさせてもらった。流そうとした『デウスエクスマキナ』のパーツもほとんどを押さえたよ」


 わずか1秒で全てを済ます若旦那。権力者がその気になれば、その下にいる者の立場などすぐに吹き飛ぶ。電子を通じれば1秒も要らない。


「……本当ですか?」

「まさか疑うのかい?」

「いや、『重装機械兵ホプリテス』にとって有能で失うのは痛手とか言っていたんで。それをあっさり更迭するなんて」

「ああ、痛手だよ。でもコジロー君のお願いだ。なら仕方ないよね」


 言って微笑む若旦那。組織にとっての痛手よりも、コジローが頼ってきたことが嬉しいとばかりに。


「さて、これでこの件はおしまいだね。また何かあったら頼ることになるよ」

「若旦那に頼まれて、断れるわけないじゃないですか」

「市民ランクを盾に取る気はないよ。でもまあ、たまにはつまらない雑談をするのもいいかもね」


 接続が途絶え、仮想現実から意識が離れていくコジロー。その意識が完全に途切れるより前に、若旦那の言葉が脳に届いた。


「例えばとか」


 異世界から来た女性。柏原友恵。


 若旦那の興味は、尽きない――



 ※       ※       ※



<以上が報告になります>


 カメハメハは『ペレ』の治安組織『カプ・クイアルア』の敬礼ポーズを取り、報告を終える。報告と言っても『NNチップ』に記録された五感記録の転送だ。


 ここは現実世界にある五大企業『ペレ』の本社ビル。その最上階。広い絨毯と様々なオブジェ。そしてカメハメハの視界の先には、一人の。黄色を基調とした布製の衣服を着た褐色の女性だ。紫外線を遮るメガネを頭部に引っ掛け、椅子の背もたれに体重を預けて、行儀悪く足を組んでいた。


 トモエが見たら『アロハな黒ギャル?』と言いそうな格好だ。そのギャル……もとい、人間はカメハメハの報告にうんうんと頷いて、一言告げた。


「任務乙! カメちゃんのデータはわかりやすくて良き良き!」

<感謝の言葉、痛み入ります。ペレ様>


 ペレ。


 五大企業の創始者のひとり。この天蓋におけるクローンの上に立つ支配者。『ネメシス』では仮想現実内でしか姿を確認できず、『イザナミ』では簾の裏に隠れている存在と同格の存在。


「いいって、様は。気楽にいこうぜー」


 その存在は敬称をつけられて笑って手を振る。天蓋において人間は崇める存在。ペレも人間であり、企業『ペレ』を運営するトップ。敬われて当然の存在なのに、それを拒否するようにふるまう。


<では失礼を。『カプ・クイアルア』と吾輩の戦闘技術ゥ! 熟練された技師が生み出したサイバーッ、アァァァァム! そして『ペレ』のエネルギー工学ゥゥゥゥゥ! これらの前に敵など、なぁい!>

「あははははははは。カメちゃんサイコー! やっぱオモロくなくちゃね! ネメっちはソロン使って規則正しくしてるけど、やりたいことやらないと生きてる意味ないっての!」


 カメハメハのポーズを見て、お腹を抱えて笑うペレ。ネメっちというのはネメシスの事だろうか? ソロンは『ネメシス』の保有するドラゴンだ。間違いはないだろう。


「にしてもいろいろあったのね。トツカ型の超能力者に、それを斬ったサムライ? 捕まった『デウスエクスマキナ』もなんか逃げ切れなかったみたいだし。これいいの? 『重装機械兵ホプリテス』結構弱体化してるけど」


 虚空に浮かぶウィンドウを弄るペレ。カメハメハから受け取ったデータを見て、他のデータも合わせていろいろ吟味していた。目の前にある数字はこの天蓋の組織を数値化したものだ。それをゲームをするように弄っている。


「ま、弱ってんなら付け入るのが基本よね。ほい、部隊投入。開発ガチャして、訓練所周回して、素材ゲットして……うあー、スタミナ足んねー。ぴえんだわ」


 事実、ペレからすればゲームなのだ。この天蓋をゲームのように見て運営する。西暦にあったソシャゲのように動かしていく。


「あ、カメちゃんのイベントは面白かったよ。でもできれば完全勝利してほしかったかな。あーしのキャラだもんね」


 市民ランク4のカメハメハを招集したのも、その感覚。自分が保有するユニットに面白いイベントが起きたマークがあったから、企業トップの部屋に召喚したのだ。企業トップと市民ランク4の邂逅。天蓋の常識を考えればありえない召喚。しかし『ペレ』ではよくある話だ。


<勝利できなかったのは吾輩も残念の極み! しかし次こそは勝利して見せましょう! そう、カメハメハの名にかけて!>

「うん、頑張ってね。オモロな報告待ってるから。

 オモロと言えば、トモエだっけ? この子、オモロそうだよね」


 カメハメハの報告にあった『トモエ』をみて唇を舌で滑らせるペレ。同じ人間だからわかる、トモエの素性。


「異世界召喚プログラムの残滓かぁ……。失敗してようやくその欠片が出てきたってことは知ってたけど、まさかしちゃうなんてね!

 ジョカっちが聞いたら激おこだ! 想像すると笑っちゃう! アイツ、天蓋の為だってイキってたもんね。失敗して落ち込んでたけど、こんな形で成功したってわかったらすごい顔で確保しそう!」


 ひそめた眉を顔を笑みに変えるペレ。友人がみっともなくヒステリーを起こす姿を想像し、そのヒステリーが起こす騒動がどんなものかを想像する。


「ドッカンバッタンやるかも。いいじゃんいいじゃん! 退屈してたんだし、派手にイベント起さないとね!」


 ソシャゲのイベントを楽しむように、ペレは天蓋の騒動を楽しむ。数字の向こうに命があると理解し、その上で笑う。だって面白いもん。その方がキャラのレベルが上がるもん。楽しい楽しい。


 ペレの指が虚空を動く。トモエの情報が、送られた。


 わずか数センチの指の動きが、大きく天蓋を揺るがす。感情のままに、享楽の元に死と破壊を生む。それが、ペレだ。



 ※       ※       ※



『ジョカ』が形成する電脳空間内で――


<確かな情報か?>

<複数の確認が取れている。時間をかければ確実性は増すがどうする?>

<だめだ。これ以上時間をかければ他の奴らに気づかれる。……むしろ最初に気づいたのがペレで助かったぐらいだ>

<報告にあったのとは異なるぞ。まさかこんなことになっているとはな! 想像以上の成果ではないか!>

<よく今まで生きてこれたな。『NNチップ』もないのに>

<こちらにはない『ドラゴン』を保有しているとみるべきか>

<間違いない。それがこちらのプログラムを弾くだけの技術を持ち、余のプログラムを逆算してこちらに先兵を送ってきたのだろう>

<目的はこの天蓋への侵略か>

<こちらがやろうとしたことをやり返すとはな。まこと無礼の極みよ>

<許せぬ!>

<許せぬ!!>

<許さぬ!!!>

<この天蓋を侵略し、平和を乱そうとする悪魔め!>

<天蓋は我らが楽園。そこに迫る者は全てシンに飲まれるがいい!>

<そして異なる世界を天蓋に繋げ、余の計画は失敗ではないことを証明するのだ!>


 トモエの存在はペレの想像を超えて誤解されていたという。


――――――


PhotonSamurai KOZIRO


~Unlocking the Future ~ 


THE END!


Go to NEXT TROUBLE!


World Revolution ……5.9%!




※更新頻度について。


 作者です。『フォトンサムライ』を読んでいただき、ありがとうございます。


 カクヨムコン8読者選考期間中は毎日更新をしていましたが、選考期間も終わったことと話数ストックもなくなったという事で更新ペースを落とさせてもらいます。


 ストックを貯める意味も含めて、1週間後の14日から更新を再開して、そこから火、木、土の更新とさせていただきます。


 これからも拙作『フォトンサムライ』をよろしくお願いします。


 

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