なんていうか異世界知識チートみたいで

「これ!? すごいにゃああああああああ!」

「ふにゅあああああああ! 初めての感覚ウサ―!」

「味ってこういう感覚だったカゲ!?」


 仮想現実の感覚に感激するバイオノイド達。あまりの感激ぶりに、トモエは少しドン引きさえしていた。


「あの、そこまで叫ぶことじゃないと思うけど……?」

「そんなことないにゃ! トモエは分かってないにゃ!」

「今まで生きてきて、こんな感覚はなじめてウサ!」

「キューブ以外で味覚が刺激を受けるのは初めてカゲ!」


 トモエが謙遜するように言うと、一斉に否定の言葉が飛んでくる。あー、ファンタジーで現代知識を披露するとこうなるんだ。時代は逆行してるけど。トモエは優越感よりも戸惑いの方が大きかった。


「バイオノイドにもこの感覚を味わってほしいから、ライブセンスを数台買ってほしいの」


 トモエがニコサンに頼んだのは、『NNチップ』がない状態でもVR感覚を味わえる機械の購入だった。しかも複数台。


 クローンは『NNチップ』を通して脳内に味データを展開して味覚を味わえる。だがバイオノイドには『NNチップ』はない。なので味データを味わえないのだ。


 それは可哀そうだと思い、ニコサンに『NNチップ』なしでVR感覚を体感できる機械を買ってほしいとお願いしたのである。それがあればバイオノイドも味を楽しむことができると思って。


 ――トモエは知らないことだが、『NNチップ』が全クローンに導入されたことでその手の外部VR接続装置の開発はほぼなくなっていた。趣味でバイオノイドに体感させる以外の用途はなく、生産数は少ない。


「あら。数台でいいの? トモエちゃんの所には50体もいるんでしょ?」


 なのにニコサンはそう言ってセンサーライトを二度瞬かせる。ウィンクのつもりなのだろう。そのままドラム缶ボディを踊るようにくるくる回転して止まり、トモエのスマホをアームで指さした。そのタイミングでスマホから音が鳴る。


<ライブセンス50台が配達されました。受理をお願いします>


 トモエの画面に浮かぶ受理の確認ボタン。内容はバイオノイドに使用するライブセンス50台を受け取りますか? というモノだ。言うまでもなく、ニコサンがこのことを予想して送ったのだろう。


経 済 戦 略マーケティング――Demand Forecastingほしいのはこれだよね】!


「えええええ!? ウソ、アタシが言いたいことが分かってたの!?」

「ふふふふ。トモエちゃんなら絶対にバイオノイドにも、っていうのはわかってたもの。相手の需要を予想して先回りするのは、トレーダーの基本よ」


 何事もなかったかのように言い放つニコサン。もしトモエが言いださなかったら、何も言わずにスルーした。そして何事もなかったかのように、50台のライブセンスを別の人に売っていたのだろう。


「商売するんだから数は多いに越したことはないんじゃない?」

「うああああああ。でも、結構お金かかったんじゃないの!? また借金上乗せ!?」

「期待してるわよ」

「ひゃああああああ……」


 そんなプレッシャーもあったが、まさかまさかのバイオノイド全員での味データ試食会である。トモエの元に集まったバイオノイド全員が一斉に味データを脳内で展開し、その感覚に震えていた。


「みゃあみゃあ! 舌が蕩けそうだみゃあ!」

「美味しいってこういう感覚だったの!? あり得ないクイ!」

「苦くないって素晴らしいサイ!」


 バイオノイドの反応は様々だが、共通しているのは味データそのものに対する感動だ。


 それも仕方のない事である。天蓋における栄養補給は必要な栄養素を圧縮したキューブ状のモノ。『NNチップ』がないバイオノイドはその苦くてまずい食事しか知らないのである。

 

 キューブ以外の食事をとれるのは基本的に市民ランク2以上のクローンのみ。ほとんどのクローンは味覚は味データで知る者であり、バイオノイドにとっては未知の感覚なのだ。


 つまりバイオノイドからすれば、生まれて初めてキューブ以外の味覚を味わったのだ。


「やったなトモエ! みんな喜んでるぞ! アタイも嬉しい!」


 バイオノイドの反応に喜ぶネネネ。ネネネ自身もトモエからの味データに感激していた。不安に思うトモエに『大丈夫、アタイが保証する!』と元気づけたのもネネネだ。


「……うん。ありがとう」


 50体のバイオノイドを始めとした肯定の意見に不安が和らぐトモエ。まだ始まっていないけど、これはいけるんじゃないかという気持ちが大きくなる。最初は想像が先走って不安が大きかったけど、実際に喜びの声を聞けばその不安は消えていく。


「でも卑怯じゃないかな。これ? なんていうか異世界知識チートみたいで」

「いせかいちしきちーと?」

「ああ、ごめん。わかんない話で。ようするに、他の人には知らない知識でお金を稼いでいいのかなぁ、ってカンジ?」


 現代知識の物品をファンタジー世界で売る漫画を思い出すトモエ。あれはそういう物語でその爽快感を楽しむのだからいいけど、実際に自分がそれをやろうとすると罪悪感が出てくる。なんて言うか、ズルしているみたいで気が引ける。


「なんでだ? みんなが知らないことを独占する方がダメなんじゃないのか?」


 そんなトモエの言葉に首をかしげるネネネ。


「じっちゃんも言ってたぞ! 知識はみんなで共有するのが正しいって! 皆が知識を得ることでまた新たなステージに進めるんだって!」


 ネネネの言葉にそういうものかな、と納得するトモエ。確かに知識は広く知れ渡る方がいい。それを下地にまた新たな知識が生まれる。文化は誰かが突出し、そしてそれに追いつこうとして発展していくのだ。


「なんでじっちゃんは企業が秘密にしている情報を探り当ててたんだ! なのに企業追われてしまって悲しいって言ってたぞ!」

「何事もほどほどがいいわよね、うん」


 誇らしげに言うネネネに苦笑するトモエ。知識の独占はよろしくないが、かといって強引に秘密を暴くのもよろしくない。


「でも、うん。今更後には引けないもんね」


 気合を入れるトモエ。後に引けないのは事実だ。ここで足を止めたら50名のバイオノイドは路頭に迷う――こともなく主不在で処分されるのだ。そんなことをさせないためにトモエは立ち上がったのである。


「さあ、開店の為にいろいろやらなきゃ! 内装もあるし、メニューもいるわ。どうせなら可愛い制服でお出迎えするのもいいかも!」


 やる気が出れば様々なアイデアも浮かんでくる。今日は休もうと思ったけど、机に向かってアイデアを紙――天蓋では筆記用具も含めて受注販売品――に書き留めていくトモエ。


「裁縫が得意な子にこの服を作ってもらって、テーブルはこんな感じで配置して……。待って、ネコカフェもいいかも! ケモナー向けにバイオノイドとふれあえるスペースを作る? うああああああ。悩むなぁ……」


 西暦の知識を知らないバイオノイドとネネネは何を言っているのかわからないが、トモエがいろいろ考えているのはわかる。


「こういうのって風営法? 企業規約でいいんだっけ? それに反しないかとかも調べないといけないのか。そもそも開店前に宣伝も必要だよね。ビラ……はないからネットで宣伝なのかな? 掲示板とかあるのかな?」


 思ったことを書き留めたり、スマホで検索したり、大忙しである。そんなトモエを心配そうに見るネネネとバイオノイド達。


「なあトモエ、アタイ何か手伝うことはないか?」

「アタシ達、命令されたらいろいろやるにゃ」

「ん。じゃあ――」


 休日の予定だった日はいつの間にか店の開店準備に変わっていく。トモエの脳内でもあやふやなアイデアを形にすべく話し合い、そこからさらに明確にするために悩んで。そしてまた話し合う。


 休日返上。昨日までドタバタした疲れを癒す間もなく、トモエ達は動き出す。元より体力のあるバイオノイドはともかく、ただの学生だったトモエは終わった後は疲労でぐったりする。だけど、心地のいい疲れだった。


「ごめん、ちょっと仮眠してくる」


 睡魔で朦朧とする頭。ネネネとバイオノイド達にそう告げて、寝室に移動するトモエ。一時間ぐらい寝れば頭もすっきりするだろう。欠伸と共にスマホのアラームを設定し、着替えずに横になる。


 ……………………。

 …………。

 ……。


 トモエたちのビルから少し離れたところに、機械の会話が響く。


<あのビルか?>

<間違いない。監視カメラの記録もIZー00210634の痕跡を残している>

<ようやくあの女性型のアジトを見つけたか。なかなか足を出さないから苦労したぞ>

<我々『デウスエクスマキナ』の電子監視網とドローン追跡を振り切ったつもりだろうが、つめが甘かったな>

<ビルの情報、確認。オーナーはPe-00402530。購入して一か月も経っていない。現在バイオノイドにビルメンテナンスさせている状態だ。開業許可なども申請されている。表向きは新たな店舗を開くことになっている>

<ビル購入と同時に数日前に栄養キューブや寝具などを購入している。用途はバイオノイドの世話用だが、ダミーとみるべきだ>

<だろうな。IZー00210634がこの区域で長期活動するための貯蔵だろう>

<しかしバイオノイド数は52名もいる。あの規模のビルメンテナンスにしては多すぎる。どういうことだ?>

<分からん。そもそもIZー00210634の行動は常に予想外だ。それなのにこちらの行動は完璧に阻止された>

<67108864回の試算を行った血液強奪計画。その試算の穴を突かれて計画は破綻した。まさか搬送用ドローンの積み荷内に紛れていたとはな。クローンの有給により発生したチェック項目の抜け道ができるなどありえない>

<だがそれも終わりだ。IZー00210634のアジトを抑え、そこから追い詰める>

<中にいるのは機械化できないバイオノイドがほとんどだ。肉体を捨て、完全に機械となった我々に勝てる道理はない。1分で制圧し、その後でバイオノイドの脳から全ての情報を吸い上げろ>

<了解>


 トモエたちの住むビルに、機械化した暴徒の悪意が迫る。


 そして、機械化至上主義メカ・スプレマシーの過激派集団『デウスエクスマキナ』の手により、ビル内は1分で制圧される――


――――――


PhotonSamurai KOZIRO


~ JK店主奮闘記、あと酔っ払い~ 


THE END!


to be Continued!


World Revolution ……2.0%!

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