サムライの技を見せてやるよ

 コジローとカメハメハの戦いは続いていた。


 続いているのだが正確に言えば、


<ふはははははは! 逃がさぬぞ超能力者エスパーァ!>

「キリねぇな、これ!」


 隙を見て逃げようとするコジローと、その隙をついてコジローを倒そうとするカメハメハの攻防だ。


「あの酔っ払いに関るとろくでもない事ばかりだな」

<Ne-00339546は女性型と電子酒に関して距離を置くことをお勧めします>

「それあまり関係なくない!?」


 脳内で展開されるツバメとの会話に理不尽を叫ぶコジロー。確かに女性型クローンや電子酒関係でいろいろトラブルは起きているけど、今回は別カテゴリーにしてほしい。


<『NNチップ』と相談か? 構わぬ構わぬ構わぬぅ! 持ちうるすべてを使ってかかってこい! 鬼謀策謀上等上等ゥ! 吾輩はその全てを殴って壊す! それが『ペレ』の魂ィィィィィ!>

「『ペレ』のクローンが聞いたら猛反発されそうだな」


 特にニコサンあたりに聞かせたら特に激怒しそうだ。


「あのデカい腕のロケット噴射? その移動が厄介すぎる。逃げようにもあれで一気に距離を詰められるからな」

<『ホエ・レイオマノ』をベースにしたサイバー義肢です。拳部分より衝撃を放つなどの改造が為されています。肥大化しているのはバッテリーなどが考えられますが、確認できる以外の改造の可能性が高いです>

「フォトンシールドだけじゃなくギミック詰込みアームとはね。腕以外もいろいろありそうだぜ」


 少なくともカメハメハはその想定で戦いに挑んでいる。改造サイバーアーム。それにかかるクレジットはかなりのモノだ。コジローの稼ぎでは買えそうにない。


<さあ、見せて見よその超能力! 吾輩のパワーとテクニック、そして『ペレ』のエネルギー工学がそれを乗り越える! それこそが吾輩の悲願! 見せよ見せよ見せよぉ!>


機 械 格 闘 術マシンアーツ――百 裂 乱 打ハンドレッドブロウ】!


 拳が届く距離まで迫っての乱打乱打乱打。フォトンブレードに斬られないようにこぶしの先にフォトンシールドを小さく展開しての攻撃だ。コジローはそれを避け、フォトンブレードで斬り払う。光と光がぶつかり、閃光が走る。


<ぐぬぬぅ! まだ見せぬか! ならば攻め続けるのみィ!>


 半歩距離を放ち、改造義肢の両手首を合わせる。傘のように両手を広げ、コジローに向かって突き出した。何かが収縮する音が路地に響き、両手の中心から衝撃波が放出された。


機 械 格 闘 術マシンアーツ――怒 涛 海 王 波キ・ショックウェーブ】!


 カメハメハの重量を飛行させるほどの衝撃波を一直線に束ね、瞬間に放出する技。両足から地面にアンカーを打ち出して自らを固定しなければ反動で自らが倒れかねないほどの放出。ただのクローンが耐えられるものではない。


「危ねぇぜ。古典ラノベの知識がなければやられてたな」


 コジローはその衝撃波を横転して回避する。動作から技の内容を推測できなければ、衝撃波に巻き込まれていただろう。


<初見でこれを避けるとは見事見事ォ! 反射神経か瞬間移動か。ともあれそれが貴様の超能力だな。だがこれはどうだァ!>


 回避したコジローを目視しながらカメハメハは自慢の機械腕を向ける。手のひらを広げてコジローに突き出し――掌を射出した。ワイヤーで繋がった掌はコジローに向かって伸び、コジローの腕をつかむ。


「伸びたぁ!?」

<これは予測できなかったか。然もありなん! パワー! 遠心力! そしてパワー! 天蓋の建物と地面もまた我が味方と知れぇ!>


 コジローを掴んだカメハメハはもう片方の腕から衝撃波を放って跳躍する。そのままコジローを掴んだ腕を回転させ、引っ張るようにコジローを宙に浮かせた。相手を掴んだまま数度腕を回転させて掴んでいる者の三半規管を狂わせ、遠心力をつけて手を放し、コジローを地面に叩き付ける!


機 械 格 闘 術マシンアーツ――空 中 大 回 転 投 げスピニングスロウフォール】!


「ぐ、お……!」


 三半規管の乱れを『NNチップ』を用いて直し、地面に叩き付けられる瞬間に体を丸めるコジロー。衝撃を逸らすように地面を何度も転がった。痛覚を遮断した状態で何とか立ち上がる。


<改造を重ねた美しき機械腕のパワー! 『カプ・クイアルア』に伝わる素晴らしい格闘テクニック! そして語るまでもなく素晴らしい『ペレ』のエネルギー工学! それが戦いを制するのだぁぁぁぁ!

 超能力などと言う偶発的なものに負けることは、ぬぁい!>


 カメハメハの強さはまさにそこに集約される。相手を圧倒するパワー。効率よくクローンやドローンを無力化する格闘技術。そしてそれを支えるエネルギー。


<カメハメハ!>


 機械腕を突き上げ、ポーズを決めて叫ぶカメハメハ。


<イィィィィィィィィィィィィズ!>


 叫びながら足を円のように動かし、角度を決める。


<ビュゥゥゥゥゥゥゥゥティホォォォォォォォ!>


 感極まったとばかりに叫ぶカメハメハ。これまで多くの暴徒などを打ち負かしたことを示す自信がそこにある。傲慢に見えるがその裏に秘められた努力と研鑚は馬鹿にはできないだろう。


「パワーと技術とエネルギーか」

<肯定。改造サイバー義肢は従来の製品に比べて出力が13.3%増しています。PL-00116642の経歴からも多くの違反者を捕えていることから高い技術を有しているのは確かです。

 そして五大企業において『ペレ』のエネルギー工学は抜きんでています。PL-00116642の腕が放つ衝撃波やフォトンシールドを維持できるのは『ペレ』のバッテリーのおかげでしょう。推測であと20分は戦闘可能>

「それはこのまま逃げ回ってたらってことだろ?」


 ツバメのコメントに笑みを浮かべるコジロー。フォトンブレードを構え、息を吐く。


「フォトンシールドを使えば使うほどバッテリー量は減っていくんだ。だったら尽きるまで使わせればいいってことよ」

<非推奨。『ペレ』のバッテリーは他企業のモノと比べてない容量も使用効率も高いです。労力が多すぎます>

「全くな。でもそれが最善手だ!」


 カメハメハから逃げる隙を窺っていたコジローだが、ここからはその分の精神を戦う方に向ける。地面にたたきつけられたダメージを確認するように痛覚遮断を1秒だけだけ解除した。痛む、けど動く分には支障ない。


<ほほう、ようやく戦う気になったか。超能力とやら、見せてみるがいい! 吾輩はその全てを乗り越えるぅ! そう、この美しい機械腕と卓越した格闘術! そしてそして『ペレ』のエネルギー工学で!>

「あいにくと超能力は披露できないぜ。その代わり――」


 言葉と共に精神と肉体のアプリ機能をONにする。脳内にそう言ったアプリがあるわけではない。イメージしやすい切り替えだ。読んだ古典ラノベでは古い機械に因んでスイッチと書いてあったが。


「サムライの技を見せてやるよ」


 すり足。重心を一定の位置に留めた状態で相手に迫る動き。重心が揺れれば剣劇も揺れる。体幹が曲がれば斬撃も曲がる。正しい姿勢。正しい構え。正しい斬撃。剣術の基本にして、肝要な部分。すり足はそれを保つための技術。


<ぬぅ!>


 迫るコジローが振るうフォトンブレードの一撃を、フォトンシールドを展開して止めるカメハメハ。これまではカメラアイとカメハメハの経験値で斬撃の予測ができた。予測位置にフォトンシールドを展開して止める。これまでも、そして今もそうしてきた。


<これは――>


 だが、それが追い付かなくなる。これまでは相手の攻撃の後に攻める隙があった。攻撃は防御の隙を作る。相手が攻撃し、こちらが攻撃する。その繰り返しだ。


<攻められない……! 攻撃後の隙が無いだとォ!?>


 故に相手の攻撃を耐えきり、相手の防御を超えるパワーがあれば勝利するのは当然だ。機械腕のパワーで圧倒し、『カプ・クイアルア』の格闘技術で攻防の手段を増やし、『ペレ』のエネルギー工学による兵站がそれを支える。

 

<隙が無い――いや違う!? こ奴の攻撃が、止まらぬ!>


 だが、コジローの攻撃は止まらない。フォトンブレードをシールドで止めたかと思うと、その時点ですでに次の攻撃に移っている。わずかな腰と肩の動きだけでフォトンブレードは次の動作に移行している。


 真上からの斬撃下に下がったブレードが足を薙ぐように動いてそのまま下から振り上げるようにして肩まで切り裂く動きその後で横の払いながらブレードを真正面に戻しそこから突いてくる光の刃はその位置から跳ねるように右からに迫りそこから斜めに切り裂いて――


 流れるような斬撃チェーンコンボ。一つの動きが次の動きの予備動作。動きを最小限に絞り、動作を可能な限り短縮し、途切れることなく攻め立ててくる。速度が速い、のではない。コジローの動きはカメラアイでも捕らえられる。


 だが動きに無駄がない。ただ斬るだけに特化した動き。機械のパワーで圧倒するのではなく、エネルギーの量で耐えきるのでもない。格闘技術を突き詰めた動き。攻撃攻撃また攻撃。サムライの技法がカメハメハに攻撃のタイミングを渡さない。


 カメハメハも格闘を学ぶものだからこそ、その意味に気づいていた。


<あり得ぬ!? あり得ぬあり得ぬあり得ぬぅぅぅぅぅぅ!?>


 あり得ない。天蓋において技術を極める意味などない。強くなるならサイバー化すればいい。強い銃を持てばいい。肉体を鍛える意味などない。なのに、目の前のクローンは天蓋の常識外の手法で強さを得ている。


 動きを再現するのなら機械化して動作をアプリ化してインストールすればいい。事実、カメハメハもそうしている。コジローがサイバーレスなのは明白だ。サイバー義肢を偽装している、とかでは決してない。カメハメハはそれを理解していた。


<吾輩の動きにここまでついてこれるだけの経験! 多様なる我が『カプ・クイアルア』の格闘技術のパターンをインストールしていたとしても、ここまで対応できるなど決してあり得ぬぅぅ!>


『カプ・クイアルア』の格闘技術を覚えさせたドローンなど、これまで何度も遭遇してきた。そしてカメハメハも何度ももそれと戦い、打ち倒してきた。時にパワーで、時に持久戦で、時に多彩なる技術で勝利をもぎ取ってきた。機械ごときにクローンの頭脳が負けるなど、ありえない。


 その経験があるからこそ、コジローの対応力は機械に覚えさせたものではないと気づくことができた。Aに行動に対するB、と言う機械的対応ではない。Aと言う行動に対し、複数の対応を用意して最適解を選ぶ『人』の動き。


<技術だけを極めたというのかァ! それが貴様の超能力――いいや、サムライという事かぁ!?>

「理解できるとは流石だな。アンタも相応に強いぜ。『カプ・クイアルア』の格闘技術もその機械腕も伊達じゃないてな」

<認めたくないが……美しいィ!>


 打ち合うからこそ、切り合うからこそ理解できる互いの技量。流れるような光の攻防。カメハメハは少しずつコジローの動きについていけなくなり、フォトンシールドも間に合わなくなる。コジローのフォトンブレードはカメハメハの機械体を少しずつ刻んでいく。


<このままでは、負ける! 一旦退くが良策か!?>


 途切れぬコジローの攻撃に撤退を視野に入れるカメハメハ。この状況から打破できる可能性は低い。一度引いて対策を考えるのも戦略の一つだ。勝利を第一義にするのなら、この場での退却は最良と言えよう。


<……否ぁ! 否、否、否ぁぁぁぁぁ! この場での撤退は美しくなぁい!

 この美しき機械腕がァ! 『カプ・クイアルア』の格闘技術がァ! そして『ペレ』のエネルギー工学がァ! 逃亡するなと叫んでいるぅ! 吾輩もまた、ここで引くのは美しくないと叫んでいるのだぁ!>


 だがカメハメハはそれを拒否した。勝利よりも大事なことを優先した。改造に改造を重ねた機械腕。『カプ・クイアルア』の格闘技術。そして企業の看板。そして何よりも、カメハメハ自身の矜持。


<吾輩の渾身の一撃ィ! たとえ負けようともこの一撃を叩き込む!>

「悪くないぜ。その心意気!」


 決死の一撃を放とうとするカメハメハに笑みを浮かべるコジロー。戦う者としてその精神には共感できる。


機 械 格 闘 術マシンアーツ――】!

光 子 剣 術フォトンスタイル――】!


 機械拳と光の剣が交差し――


「あはははははは!」


 その間に走る二閃の光。青い二本のフォトンブレードが両者の間に割って入り、斬撃と共に交差を断ち切った。


「面白い事やってるじゃないか。お姉さんも混ぜてほしいね!」


 ふらふらした足取り。赤い顔。二刀流フォトンブレード。そして酔っ払い。コジローとカメハメハが互いに意識を集中した瞬間に跳躍し、二人の間に割って入ったのだ。


「出たな酔っ払い……」

<フォトンブレード……! まさか、貴様がこそが件の超能力者か!?>


 うんざりした顔のコジローと、驚愕の声をあげるカメハメハ。その声に笑いながら答える乱入者。


「違う違う。お姉さんの名前は二天のムサシっていうんだよ。今日も今日とて電子酒が美味い! ああ、幸せだねぇ!」


 IZー00210634こと、ムサシ。コジローが若旦那から依頼を受け、カメハメハもまた探していた存在。


「あ、おっぱい揉む?」


 それはいつもながら、一番どうでもいいタイミングでやってくるのであった。

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