ドアノックは優しくしなって教わらなかったか?
「私は柏原友恵! なんのチート能力もチートアイテムも持っていない異世界転生女子高生よ!」
女――柏原友恵のセリフ聞いて、コジローが理解できた単語はほとんどない。
先ず柏原友恵。カシハラトモエ。『Ne-00
続いてチート。この意味自体は理解できる。だますこと。欺くこと。プログラム作成者が意図しない方法でシステムを突破する行為だ。おそらくモンキーアイを突破できるID偽装能力の事だろうが、トモエはこれを『持っていない』と言っている。どういう事だろうか?
そして女子高生。これも意味が分からない。女子とは性別を示す言葉だろう。しかし染色体とそれに伴う体型の違いを示唆しても意味がない。続く言葉もコジローの効いたことのない言葉だ。コウセイ。攻勢? 更生? 公正? 自分の染色体数とつなげて意味が通じる単語は思いつかない。
ただ唯一分かったのは、
「オッケー。聞いたことあるぜ異世界転生。
「お嬢ちゃんいうなオッサン! 私の名前はトモエ!
古典なんか『ありおりはべりいまそかり』しかわかんないわよ! ……それもよくわかってないけど!」
相変わらずよくわからないことを言う。そんな疑問を吹き飛ばすようにコジローの脳内にアラート音が鳴った。
<警告。オルバファミリーが4Fに到着しました。この部屋に向かっています>
「警備ロボ仕事しろよ! ああ、でも無理か。レーザー対策してなさそうだしな」
<モンキーアイの武装ではサブダベディに勝てる確率は0%。『
「はぁ!? いつもは2分以内に来るのに、どういうことだよ?」
<Ne-00000042とのVRチャットルームのログに『この件に関して『
ナビゲーションシステムの警告音は、緊急事態によりキャンセルされた。コジローはトモエを背後に回し、腰に装着してあるフォトーンブレードに手を伸ばす。
「オラァ! ここにいるのはわかってんだぞ!」
衝撃音と共にドアが歪む。次の衝撃音でコジローたちの方にドアが飛んできた。その向こう側にはドアを蹴ったのであろう、片足をあげた男がいた。白スーツを着た恰幅のいい男。頭髪はなく歪んだ笑みを浮かべている。
オレステ。Ne-0020
「ひぃ!?」
時速100キロを超える速度で飛んでくるドアだった鉄の塊。その衝撃音と光景に驚きの声をあげるトモエ。コジローはそれを目視し、フォトンブレードを振るった。抵抗なく、水面を裂くように光の刃は鉄を切り裂く。真っ二つに裂かれた扉は、コジローたちを避けるように二分されて後方の壁を破壊した。
「おいおい、ドアノックは優しくしなって教わらなかったか?」
フォトンブレードをオレステ達の方に向けて言い放つコジロー。その様子にオレステの顔が歪んだ。
「うるせぇ! そいつを渡しやがれ!」
「お断りだね。っていうか何考えてんのさ、アンタら。いくら自社だからって高ランク市民用のホテルで破壊行為とか正気の沙汰じゃないぜ。アンタもうこの辺じゃ商売できないだろうよ。他所の企業にトンズラするにしても、こんだけのことしたんだから受け入れられないと思うけどな」
企業規定に違反したクローンは『NNチップ』を通じてその罪状を受ける。IDに罪状を刻まれたクローン体はその度合いによって住居や食料や通信と言った企業サービスを受けられなくなる。全てのインフラが企業により成立している以上、サービス停止は致命的だ。
「へっ、そいつさえいれば何とかなるのさ」
「その割には扱いが雑だぜ。さっきも俺がいなかったら死んでたかもしれないぜ」
「臓器さえ無事ならどうとでもなるんだよ」
「そいつはそいつは」
言いながら相手の行動を見計らうコジローとオレステ。
<Ne-002000310の解析開始。プロテクトされました。ランク2市民権限を使って強引にプロテクト突破。解析完了。
Ne-002000310の情報更新。サブダベディに違法改造確認。威力が13.4%ブーストとされています。後方のクローン体はサブダベディ用のバッテリーと生体用生命維持装置を所持>
ナビゲーションシステムが相手の情報を解析し、コジローに伝える。トモエの臓器を手に入れたいこともあるのか、手りゅう弾などを使うつもりはないらしい。むしろ初めから頭を打ち抜いて殺害してから、臓器だけを生かす算段のようだ。
(『NNチップ』による解析が弾かれた。上位市民ランクの閲覧制限か。くそ、何者だ……!?)
対し、オレステはこちらの情報が解析できずにいるようだ。市民ランク6のコジローだが、現在は若旦那の権限により市民ランク2相応の偽装がされている。相手からすれば、自分より市民ランクが高い存在が目の前にいることしかわからない。わからないから、推測するしかない。
(サイバー義肢らしいものが見られない。武器もフォトンブレード? 見た目通りならただのバカなんだが……)
分かっている情報は、自分より市民ランクが上であること。見た目はサイバー化されていないどこにでもいる男性型クローン体。高速で迫る扉をフォトンブレードで斬ったことである。
(俺より市民ランクが高いくせに、サイバーレスなんてありえない。高度な偽装スキンを被せた
(金持ちが操作している戦闘用ドローン……か? 完全人型のドローンは五大企業協議違反だが、こっそり作ってる可能性は否定できないな。この裏にいるのがNe-00000042だとするなら、それぐらいはやりかねない)
(そもそもフォトンブレード? 骨董品もいい所だ。弱い武器を見せつけて、俺の知らないサイバー兵器を持っていると考えるのが妥当だな。極小のドローン? 不可視のフォースシールド?)
実際は肉体のサイバー化など何もしていない鍛えただけのコジローだが、情報による偽装が相手を疑心に追いやっていく。コジローもそれが分かっているのか、オレステに余裕の笑みを浮かべていた。
「どうした、来ないのか? それとも『
「つまらないハッタリだな。『
なるほど。コジローは『
「代理戦争の駒は辛いね。ま、組織は組織でドロドロした人外魔境か。肉体なくなって酒も女も興味がなくなると、出世欲が尖っちまうのかね」
<警告。今の発言は
「それを取り締まる『
言いながらもオレステとその後ろに控えているアルバファミリーから目を離さない。相手が引く意思がないと分かった以上、隙を見て襲い掛かってくるだろう。あるいは、すでに行動しているのかもしれない。
「最優先目的はお嬢ちゃんの保護。サポートよろしく頼むぜ、相棒」
<確認。最優先目的のデフォルトはNe-00339546の生存に設定しています。それより上位に設定してもよろしいのですか?>
「当然だ。
<否定。男性型であることと生命の順列に関連性はありません>
「これもロマンてやつさ!」
言って床を蹴るコジロー。それを迎えうつオレステ以下アルバファミリー。
トモエをめぐる戦いが始まった。
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