貧しき世界に暮らすAの人生
「ワタシ」の前に現れた最初の人物はとある貧しい国に生まれた。
その国に住む人々の多くが裕福とは程遠い暮らしを続けており、衣服・食事・住居などの生活必需品に不自由しない家庭には羨望の眼差しが向けられた。
この映像の主役であるAも国の大部分を占める家庭の生まれであった。
貧しい暮らしを強いられていたAだったが、周辺に不満を口にすることは少なかったようだ。
両親が貧しい環境でありながらも、Aに出来る限りの教育を施したうえ、多くの愛情を与えてきたことがその大きな理由であろう。
Aは頭が良かったようだ。大人たちは周辺地域に住む子どもたちと比べ、「Aは優れた子ども」と噂しあった。将来は有望であると思ったのだろう。
そのような期待を一身に背負いながらも、Aは自身を尊大に見せるような傲慢さを表すようなことはなかった。
その態度を見た人々は、さらにAに期待するようになった。
Aは周りの期待に応えるようにして生きてきた。
だが、長年の努力を踏みにじられるような出来事がAを襲った。
Aが住む地域には学校が建設されていた。同級生たちとともに、Aは勉学に励む生活を送っていた。
その学校に新たな仲間、つまり転校生が加わることになった。
「〇〇という国からやってきました。よろしくお願いします」
転校生は丁寧な言葉で外国出身であることを皆に伝えた。
Aも同級生も転校生の身なりに驚きを隠せなかった。
服装には清潔感があふれ、髪もすっきりとまとめられており、野暮ったさとは無縁の存在に思えたからだ。まさに住む世界が違った。
転校生が同級生や大人たちと打ち解けるのにそう時間はかからなかった。
転校生が外国人である、という認識は薄れつつあったようである。
同級生たちは転校生に海外のこと、そこで流行っていたもの、伝統の料理など様々な関心事を質問し、遠い世界のことを詳しく知ろうとした。
転校生も丁寧に返答をしたため、同級生との距離感はすぐに縮まっていった。
だが、Aだけは例外であった。Aにとって転校生は「よそ者」だった。
何の前触れもなく、自分の目の前に現れて友人たちの注目を集めている。
大人たちも「よそ者」を褒め、応援の言葉をかけている。
それまでは自分が周りから注目を浴びる立場にあったのに。
Aの心に生まれて初めて妬みの感情が根を張った。根は芽をだし、Aのなかでグングンと成長していった。
「よそ者」はAを悪く言ったり、邪険に扱うことはしなかった。同級生と同じように接していた。しかし、Aには関係なかった。
大人たちからも慕われているように見えたことも、Aの嫉妬心を増長させていた。
なんで、アイツがあの立場に……。
黒い炎がAの視野と思考を鈍らせた。招き入れた嫉妬はあっという間にAを包み、「よそ者」を生み出したのだ。
どれほどの時が過ぎようとも、Aには転校生が「よそ者」にしか捉えられなかった。
成長し続けた妬みの感情は、ついに表面化した。
ある日の出来事。授業の合間の休憩時間に、「よそ者」がAに勉強で分からないところを教えてほしいと頼んできた。
Aはこう答えた。
「ほかのヤツに聞いてよ。君とは関わりたくない」
その言い方に「よそ者」が戸惑った。Aが優しく、周りに親切な人物だと思っていたからだ。実際、同級生や大人たちもそう言っていたので、「よそ者」にはAが同じ仲間だと考えていた。
だが、返ってきたAの言葉には憎しみがこもっているように感じた。戸惑うのも無理はなかった。
同級生がAの意地悪な返答に対し、その言い方は失礼だと言った。
教えてくれとお願いをしているだけじゃないか。転校生に優しくしてやれよ。
だが、同級生の言葉はAには届かなかった。
その出来事が引き金となったのだろう。
Aは学校にいかなくなり、自宅に引きこもるようになった。
両親は将来のために、学校にいくよう促すが効果はなかった。
Aは裏切られた気分だった。努力してきたのに、アイツが全てを奪った。
アイツが注目を浴びている。どうして……。
生まれも育ちも、まるで違うことに絶望していたのかもしれない。
みすぼらしい恰好で、不格好な自分はどれだけ頑張ってもアイツにはなれない。
Aは生まれた国を呪ったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます