第33話 潜入

「隣の市のプリズムからの情報だと、あっちより西の方面では『カード詐欺』や『投資詐欺』が横行しているらしい。ターゲットはやはりお年寄りだな。偽の警察官や銀行員なんかを装っての詐欺だ。かなり綿密な下見がされているようだ」

 一磨が言う。

「年配者は老後の資金を貯めている人が多いから、詐欺にかかってしまえば、一度に数百万、もしかしたら数千万と騙されて取られてしまうかもしれないわね……」

 明日香が、腕を組みながら言う。

「一体これまでに、どれくらいの金額があつめられているんでしょうね」

 透子には想像もつかない。


「それを何に使ってるんだろう……?」

 一磨が口にしたことを、シエルが拾う。

「全部が、一つの企業に集められているとしたら……?」


 皆、ざわつく。

「どこかの会社が、彼らを使って、会社の資金を集めているっていうの?」

 明日香が驚いたように言う。

「リョウが聞いた話では、アジトはどこも少し大きめのプレハブのようなところとのことでした。しかし、それだけ大きなお金を集めるにしては、施設的な規模が小さすぎる気がします」

「じゃあ、例えば、この前のカルトの時みたいに、どこかに『基地』があるってことか?」

 一磨が言うが、シエルは静かに首を振る。

「あんな『敵ですよ』って分かりやすいところではないはずです。木を隠すなら森の中、人を探すなら人の中でしょう。どこかの企業がそのまま携わっているのではないでしょうか」


「……リョウ、もう一度、詳しく撮ってきてもらえるかしら。何か掴めるかも知れない」 

 明日香が言うと、リョウは頷いた。



「お前、芝居が下手なんじゃねえか? 全然成功してねえじゃねえか」

 リーダーと呼ばれている奴が、リョウに言ってくる。

「す、すみません。慣れてないもんで……その……」

 リョウは怯えたような声で答えた。

「まあ、成功報酬だから、お前が稼げないだけなんだけどよ、うちにもノルマがあるんだからな! 今日は最低1件は取れよ!」

「わ、わかりました……」

 オドオドした様子で答える。


 リーダーがいなくなると、リョウは、キョドキョドした感じを保ちつつ、周りを見渡す。勿論、眼鏡はかけているので、彼が見ているものは全て録画されている。


「あ、もしもし、俺だけど。(何? 修司かい?)うん、そう。 (どうしたの、声?)咳の風邪引いちゃったみたいで、聞き取りづらくてごめんよ、ゴホゴホッ。(大丈夫?)身体はね。ただ……困ったことになってさ……」

 向こうのテーブルで、話している声がする。

「うん、お金、すぐ返すから、ごめん。じゃあ、坂本さんって人が取りに行ってくれるから。ゴホッ」

 電話は成功したらしい。

 この電話の向こうの人を助けられないのをもどかしく思いながら、リョウは芝居を続けた。


 1件も契約が取れないのも不自然なので、あらかじめ明日香に聞いていた番号にかける。

「もしもし、俺だけど……」

 明日香は声色を変え、対応し、騙されたふりをした。リョウの仕事は一応成立したことにはなった。

 そして、そこから、リーダーを通して、「受け子」という、実際に取りに行く奴に司令が下る。

 勿論、明日香のところに来た輩は、母に変な電話があったから、弟に電話して確かめた。警察を呼ぶ、と、逃げ帰らされたのだが。



 リョウからの報告があった。定例会ではない臨時の集会だ。透子は呼ばれていない。


「大体のところは全部撮れたんじゃないかと思うんですが……」

 そう言うリョウから眼鏡型の防犯カメラを受け取り、シエルは再生を始める。

「何か気づいたことがあったら、教えてください」

 皆、大型モニターに転送された映像を注意深く見つめる。


 PC画面には、ターゲット候補の連絡先、住所、わかる範囲での家族の情報も書かれてある。

「相手先や『受け子』にかける電話番号は、毎回違う番号が使われているんです」

 リョウが言う。

「ああ、そうなんだ……。じゃあ、この前の怪しい電話番号を見つけようとしても無理ね」

 明日香が残念そうに言う。

 

 リョウが周りをグルっと見る様子がわかる。

「随分人が少ないんだね」

 花梨が映像を見ながら言う。

「相手に他の会話が漏れることはないようにしてあるんですが、それでも聞かれると厄介なのでしょう」

「こういう部屋があと何室も?」

シエルが建物の規模を確認する。

「こんな部屋が多分3〜4部屋。あとは事務室と、入ったことのない部屋が2つありますね。でも、やはり全体的にはプレハブ住宅みたいな、簡単な造りの事務所です」


 その時だった。

「シエル、今のとこ、ちょっと戻って!」

 急に明日香が声を上げる。

「何かありましたか?」

 シエルはスローで巻き戻す。

「そこ! そこで止めて!」

「この壁に何か?」

「カレンダーよ」

「カレンダー?」

「この、カレンダーの下にプリントされてある文字、拡大してもらえる?」

明日香が言う。シエルがそこを拡大した。


「見つけたわ」

明日香が指差す所には、一つの会社名が書いてあった。

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