第八章 信頼

第32話 速水新

「……というわけで、仲間に速水さんを紹介したいんですけど……」

 私は、悪いことをした子供のように、恐る恐る、俯き、上目遣いで速水新さんに言う。

「いいの? 僕は勿論OKです。嬉しいなあ。透子さんからそう言ってくれるなんて」

 速水さんはニコニコしながら応えた。

「あ……じゃあ、次の土曜日って時間ありますか?」

「作る、作る。午後からでいい?」

 速水さんは、スマホをチェックしながら、そう言った。

「あ、1時から集まるので、その時間でよければ……」

「OK。スケジュールに入れた。あ、じゃあ、その日のランチは一緒に。どう?」

「あ、はい。喜んで」


 なんだろう、皆に紹介するっていうだけでドキドキする。だって、付き合ってるって言っても、ホントに、ついこの前からだし。私の方は、まだまだ敬語だし。

 シエルさんは、彼を本物の色読みだと認めてくれるだろうか? みんなは、彼を受け入れてくれるだろうか?



 ……私の心配は何だったのだろう? というほど呆気なく、速水さんは、仲間たちに歓迎された。

 コツコツ、色のパネルを、カイが、さり気なく叩き、それを見たシエルさんが、私の方を向いて、微笑んで頷いた。


「シエルとカイと、あたし明日香が、色読みね」

 明日香さんが皆を紹介し始めた。

「透子と一磨が、プリズム」 

「えっ……と、こちら二人は?」

 清羅と花梨を見て、速水さんが言うと、シエルさんと明日香さん、カイが、一斉に速水さんを見る。

「彼女たちが何者かわからないんですか?」

「ええ……僕には見えないです」

「浄化者が見えないの?」

 明日香さんが、疑うように聞いた。

「あっ、そうなんですね。浄化者さんでしたか。僕、浄化者さんが、何故か見えなくて……。そんな色読みもいますよ。ねえ、シエルさん」

 シエルさんは少し考えながら答えた。

「そうかもしれませんね。僕もサトルとセットじゃないと色は見えないし……」


「速水さんって、剣はできるの?」

 花梨が聞く。

「あ〜、剣は下手です。申し訳ない」

 速水さんは、頭をかく。

「でも、こういうのはどうですか? ……シエルさん、そこから僕にナイフを投げてみて下さい」

「えっ?!」

 唐突な依頼に、流石のシエルさんも戸惑う。

「大丈夫です。心配でしたら、逃げられるくらいの速さで」

「…………」

「俺が投げる」

 そう言うと、カイが速水さんに向かってナイフを投げた。結構な速さで――

 カンッという音がしてカランカランとナイフが落ちた音。

「速水さん!!」

 私は思わず駆け寄った。

「シールド……?」

 シエルさんが、驚いたように速水さんを見た。ナイフを投げたカイも驚いている。どうやら、速水さんの前に、透明なシールド(盾)ができていたらしい。

「シールドは、物理的なものと、闇の呪いの矢にしか効かないんですけどね」

 そう言って、速水さんは笑った。

「でも、例えば、僕の後ろに誰かいれば、飛んできた物からは守ることができます。」

「助かるわ!」

 と、明日香さん。

「俺たち、防御面では弱々だもんな」

 一磨さんも嬉しそうに言った。


 私も嬉しかった。速水さんが認めてもらえて。私たちの仲間になってくれて。


 速水さんの話では、彼は、やはり特別な施設で育ったらしい。そこで教育も戦闘訓練も受けていたという。ただ、彼が育ったのは、アメリカの施設で、18歳の時に卒業し、そのまま日本に渡り、日本の大学に進んだとのことだった。自分の両親が日本人であったと聞いていて、日本で暮らしたいと思っていたという。

 アメリカの施設にも、数ヶ国語がネイティブ並みに話せるようにする教育システムがあり、速水さんは、英語も日本語も、その他の言語も話せるらしい。そこは、シエルさんと話してみて、間違いないと言っていた。


 ◇ ◇


「どう思いました?」

 シエルが明日香に尋ねた。

 透子は速水新と一緒に帰っていった後だ。

「ん〜〜、判断に迷うけど……浄化者が見えない色読みがいるのかしら、ホントに?」

「プリズムが見えるなら、見えそうなもんだけどな」

 と、カイも言う。

「それに……」

 カイが続けた。

「シールドって何だ? 『戦闘クラス』ならともかく、俺ら『色読み』の中にそんなの使える奴いないぞ?」

「育ったところが違うからなあ、そこは教わったものも違うのかもしれないぞ?」

 一磨がカイに言った。

「…………」


「あった。あったよぉ、シエルさん」

 花梨がノートPCの前でシエルを呼ぶ。

「ここじゃない? 速水さんが言ってた施設」

「……確かに、実在はするようですね」

「でも、コードとパスワードがないと入れないみたい」

「……入れそうもない、か。」


「やっぱり、いきなり信用してくれって言われても難しいわよねえ」

 明日香が呟く。

「怪しいやつなら気をつけないといけない。まだ、具体的な作戦については、彼に話さないほうがよさそうだな」

 一磨も言う。

「では、『必要となったら手伝ってもらう』くらいの距離感で、と、透子さんには伝えましょう」

 シエルが提案する。

「それと……この際、今回の具体的な作戦については、彼が敵か味方かわかるまでは、透子さん抜きで進めることにしましょう」

 シエルがそう続けると、皆、頷いた。


 透子を危ない目に遭わしたくない。そして、透子を傷つけたくない。

 皆、心配していたのだった。

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