93.屋敷の料理人と見習い 2
「と、とんでもございません!
ただ母は悪気なく先程のように、また失礼な事を言ってしまうと思うのですが⋯⋯」
「リズの言う通り、私のワガママだから礼儀作法の事は気にしないで。
⋯⋯やっぱり私がミーナと直接話すことは、かなり負担になってしまうかしら?」
アンナさんは何か言おうとしたのか口を開けたが、結局何も発さずそのまま口を閉じた。
本当は、はっきりと断りたいけど断りずらくて困ってるのかな⋯⋯?
館の主であるジルティアーナじゃなく、下級貴族のティアナだったら料理人を萎縮させないですむかと思ったが、それでも難しいのかもしれない。
そんな事を思っていると、
「アンナが言うように、私はお貴族様への対応なんてちゃんと出来ないけど、それでも良いというなら構わないよ」
「お、お母さん⋯⋯っ!」
沈黙を破ったのは、ミーナの声だった。
制止しようとアンナがミーナの左手を掴んだが、その手をミーナが、大丈夫だよ。というように右手で包み込んだ。
「⋯⋯昔ね。なんの気まぐれかお貴族様がうちの料理を食べに来たことがあったんだ。
だけど、“ こんな馬の餌のような物を出すなんて⋯⋯っ ”と、怒って注文した物を一口も食べなかった。それから私は、貴族なんか嫌いになったんだ」
「何、いってんのよーーー!!」
うん。なかなかぶっちゃけたね。
普通ならお貴族様に対して聞かれたら、かなり不味い発言なんだろうなぁ。と、この世界の常識に疎い私にだって分かる。
アンナは絶叫し、顔色を無くしていた。
そんなアンナに構わず、ミーナが続ける。
「今日の昼食、サーモンが入ってるくらいで、全然お貴族様向けの食事じゃなかった。
でも、ジルティアーナ様と専属のこの人達は、ちゃんと食べてくれた」
そう言うと私たちを見ると、ミーナがニカッと笑った。
「また手も付けず返ってくるんじゃないか。って思ってたのに、ちゃんと食べてくれた。
それどころか、私たち平民が普段どんな物を食べてるか興味があるなんて、嬉しいじゃないか」
そう言って貰えて、私も嬉しくなったがなんて言葉を返そうか迷っていると、リズが言った。
「貴族は基本的に野菜を殆ど食べません。
でもティアナさんが、野菜を使った料理を色々作ってくれたり教えてくれたりして、私も野菜が好きになりました。
ミーナが作ってくれた昨日の夕食も、今日の昼食もとても美味しかったです」
「ありがとう。エビとか魚とか、食べ慣れないものもあったと思うけど、大丈夫だったかい?」
そうミーナに聞かれ、私とリズは思わずエレーネを見た。
「な、なんですか!?」
「⋯⋯いえ、別に」
焦るエレーネさんに、リズが返す。
別に。と言いながら、昨日のエレーネさんの食事風景が脳裏を過ぎったんだろうなぁ、と思う。
何故なら、私もそうだから。
焦るエレーネさんを見て思わず私が笑ってしまうと「ティアナ様までっ!!」と、軽く怒られた。
私たちを不思議そうにみる、ミーナとアンナの視線に気付いたエレーネが、気まずそうに言う。
「⋯⋯私、今日エビを初めて見たんですが、でもちょっと見た目が苦手で⋯⋯、最初は食べたくなかったんです。
でもティアナ様だけじゃなくて、エリザベス様達も凄い美味しそうに食べるから、食べたくなっちゃったんです」
そこまで言うと、グッと顔を上げミーナを見る。
「エビのサラダ! とっても美味しかったです!!」
宣言するかのように勢いよく言ったあと、ポツリと
「結局、私が一番食べてしまいました⋯⋯」
恥ずかしそうに呟いた。
そんなエレーネさんの様子にミーナは、一瞬きょとんとした顔をした後に、ハハハッ!! と豪快に笑った。
「それは、それは⋯⋯、料理人冥利に尽きるねぇ」
そう、嬉しそうに笑った。
「エレーネさんは⋯⋯、平民ですよね?
気さくに貴族であるお二人と、本当に接しているのですね⋯⋯」
エレーネさんのおかげで、私たちが貴族対応が出来てなくても、本当に気にしなさそう。
ということを、アンナに信じて貰えたようだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます