92.屋敷の料理人と見習い



「エリザベス様、ティアナ様、こちらが料理人のミーナと見習いのアンナです。

この方達は、ジルティアーナ様の専属侍女のエリザベス様とティアナ様です。御二方の指示はジルティアーナ様のお言葉だと思い聞いて下さい」



厨房に行くと2人の女性がおり、エレーネさんが紹介をしてくれた。

代表でちょっとふくよかなミーナが挨拶をしてくれるようだが、アンナがハラハラした様子でミーナを見ている。



「わ、わたくしは⋯⋯料理人のミーナです。

いえ、ミーナと申します?

こ、こちらは、御息女のアンナでございます。よ、よろしくお願いします」



似てる2人だなぁと思ったら、親子だったらしい。


動きがぎこちなく、とても緊張しているのが分かる。そのせいか噛みまくってるし、たぶん丁寧な貴族への言葉遣いに慣れていないのだろう。

頑張って丁寧に言っているつもりだろうが、言葉遣いが色々と酷い。


ミーナのハチャメチャな言葉遣いを聞き、顔色を悪くしたアンナが勢いよく頭を下げた。



「申し訳ございません!

母は普段はクリスディアの街で、父と共に平民向けの食堂をしておりまして⋯⋯、

母はお貴族様への対応に慣れておりません。できれば、指示等はわたくしにして頂ければと思います」



謝罪するアンナをみてミーナも自分が失敗した事に気付いたのか、慌てた様子で頭を下げた。

頭を下げる2人をみていたエレーネさんが、ちらりと私とリズを見てから優しく声をかけた。



「アンナさん、大丈夫ですよ」



恐る恐るといった感じに、ゆっくりと顔をあげたアンナにエレーネさんが笑いかける。



「エリザベス様とティアナ様は平民である私にも、いつも優しく接して下さるんです。

普通のお貴族様なら言葉遣いなどをちゃんとしてないと咎められる事もありますが、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」



それを聞き、本当に? と言うように、2人が私たちを見てきたので私は頷く。



「私はあなた達に命令をする為じゃなく、話をしたくて厨房ここに来たんです。

慣れてないのに、言葉遣いを気をつけなきゃいけない。と思ってたら、言いたいことも言えなくなっちゃうでしょ?

私には話しやすい話し方で話してくれて大丈夫よ」



驚くミーナとアンナに対し、私が言うことを予想してただろうエレーネさんは「私が言った通りでしょ?」と言うようにニッコリと笑う。


戸惑う2人にリズが言う。



「ティアナさんは貴族令嬢としては珍しい事に、【調理】のスキルを持っています。

その為に自分で料理をし、異国や古代文献に載っていた料理を作る事もあります。

あまり貴族が食べない野菜を料理に使ったりもする為、貴女方が作る料理にも興味があるそうなんです」


「ええ、そうなんです。

これからクリスディアで暮らしていくので、是非クリスディアの人達が普段はどんな物を食べているのか知りたかったの。

食堂を経営しているの? クリスディアの食堂ではどんな料理を出していて、どんな物が人気があるのかを教えて欲しいわ」



ミーナとアンナは口をあんぐりと開け、私をしばらく見つめたあと、ミーナが言った。



「⋯⋯貴族のくせに、平民の食べ物が気になるなんて変わってるねぇ」


「お母さんっ!!」



ガシッとアンナがミーナの肩を掴み詰め寄る。



「だって、言葉遣いは気にしなくて良いって⋯⋯」


「いくらそう言ってくれたからって、その言い方は無いでしょう!?」


「でも、この子が⋯⋯」


「この子じゃなくて、ティアナ様!!」



もうやめてっ! と言わんばかりに悲鳴のような

声を上げてミーナを止めるアンナ。

泣きそうになっているアンナにリズが声をかけた。



「お母様は貴族と関わった事がほとんど無いんですよね? だったら仕方ない事だと思いますよ」


「ですが⋯⋯っ」


「ミーナが礼儀作法ができないだろう。という事はスティーブから聞いておりました。

それでもミーナに料理人をお願いしたのは、ミーナの料理の腕が素晴らしいという事と、貴族への対応等は娘のアンナがフォローをしてくれる筈だ。とスティーブが判断したからです」



え? そうなの?? 思わずリズを見る



「料理人は職人なので、見習いから貴族の元で働いていたような専属料理人でなければ、貴族への対応に慣れていない者も多いです。

料理人は献立の相談等をする為に貴族と関わる必要はありますが、本来は貴族対応を勉強したアンナだけが対応して、慣れてないミーナが貴族である私たちと直接会話をする必要は無かったんです。ですが⋯⋯」



リズがくるりと私に振り向き、目が合った。



「ティアナさんが料理人と直接話がしたい。と言うので、ミーナとも話をする事にしたのです。

こちらの都合で負担をかけてるので、気にする必要はありませんよ」


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