90.小エビの温野菜サラダ



私はリズに椅子を引いてもらい、席に着くと改めて今日の昼食を眺めた。



「オニオンスープ、小エビの温野菜サラダに2種類のチーズとトマトサンドと、クリームチーズとアボカドサーモンサンド⋯⋯、おいしそうねっ!」


「ええ!?」



良さげな献立に喜びの声をあげると、エレーネさんが驚きの声をあげた。



「⋯⋯もしかしてエレーネさん、エビとかサーモン苦手??」


「エビってこの赤い縞模様のやつですよね?

なんか⋯⋯ちょっと虫、みたいで⋯⋯」



心配になり聞いてみる。するとエレーネさんは言いづらそうに、そう言った。

うーん。学生時代の友人でもそんな事言ってる友達が居たわ。と思い出す。


エビ、美味しいのに⋯⋯。

この世界では海に近い場所じゃないと魚介類を見る機会はあまり無いようだし、現にリズもエビの存在を知らなかった。

残念だけど、見慣れないものを苦手だと思ってしまうのは仕方ない。

調理済みの、剥かれたエビが虫っぽいっなんて、甲羅が付いた普通の状態見たらどうなるんだろ⋯⋯?



「もしかして、リズもダメ?」



他のみんなも、もしかして苦手??

と心配になり聞いてみる。



「エビって⋯⋯、マリーさんにナポリタンの作り方を教えた時にティアナが言ってた、海老フライの事ですか?」


「うん、それ! あの時、話したのは海老フライ⋯⋯エビを揚げた物だけど、このサラダに入ってるのがそのエビだよ」


「私は今までティアナさんが、美味しいって言ってた物は全部美味しかったので、ぜひ食べてみたいですっ」


「エビって昨日の夕食に出た、アヒージョとかいうオリーブオイルと合わせたやつか?

アレなら美味かったから、たくさん入れてくれ!!」


「ネージュもたくさん食べたーい!!」


「ていうか、海老フライとは何だ!?

美味しいものなら、ティアナ! 作ってくれ」



リズに苦手じゃないか聞いただけのはずなのに、食いしん坊な聖獣達に圧倒された。


ちなみに私とオブシディアンとレーヴェは、昨晩既にアヒージョでエビを食べていたが、領主である私と、他の使用人とはメニューが少し違かった為にエビは今が初体験らしい。


私はレーヴェ達にも確認する。



「レーヴェとステラはエビやサーモンは大丈夫そう?

嫌なら無理しないでね?」


「俺は、食べてみたいです!

エリザベス様が仰っていたように、今までジルティアーナ様が美味しいと言ってた物はとても美味しかったので」



そんなレーヴェの言葉に同意するように、ステラも何度も頷いた。



「本当にっ。いつも、美味しい食事をありがとうございます!

でもそれ以上にみんなと一緒にご飯を食べるのが楽しくて、みんなと食べるともっともっと美味しく思えるから、嬉しいです⋯⋯っ!」



そんな可愛い台詞を、はにかみながら言うステラを思わず抱きしめたくなってしまった。





「じゃ、みんな食事は揃ったわね?

いただきまーす!」



私がそう言うと、それぞれ好きな物を食べ⋯⋯と思いきや、やはりみんな気になっていたのか、エレーネさん以外の者達は小エビのサラダに手を伸ばした。もちろん私も。


野菜と一緒にエビをパクっと食べた。


うん! エビはプリっとしてて、美味しいーっ!

味付けはオリーブオイルに塩を足したと思われる、とてもシンプルなものだった。



「⋯⋯っ! エビというものを初めて食べましたが美味しいですねっ」


「不思議な食感ですね」


「美味い!! もっと入れてくれ」



なかなか好評のようだ。

私はそっと胸を撫で下ろした。


このエビのサラダ⋯⋯シンプルなオリーブオイルでも美味しいが、エビにはマヨネーズが合うよなぁ? なんて思っていると



「あの⋯⋯っ!

私も⋯⋯エビ、食べてみたいです」



そう言ったのは、ひとりエビを食べていないエレーネさん。

彼女のサラダが入った皿には、苦手だというエビは省かれ、全く入っていなかった。



「エビ、苦手なんじゃなかったの?」


「そうですけど⋯⋯っ、皆さんがあまりに美味しそうに食べるから⋯⋯っ!」



元々、エビの味などが嫌いっ!という訳でもなく、ちょっと見た目が⋯⋯っという理由の為、あまりにみんなが美味しそうに食べているのをみて、気になってしまったらしい。


リズに、苦手だったのでは?と聞かれ気まずそうにする。



私は思わずクスリと笑いながら、まだエビの温野菜サラダが入ってる容器から、エビを一尾摘みエレーネさんのお皿に入れた。


驚いた様子で、皿を見たあと私を見てきたエレーネさんに片目を瞑りながらいった。



「試しに一尾、食べてみて。

美味しかったらたくさん食べるといいよ」


「⋯⋯あ、ありがとうございます!」



エレーネさんは私に礼をいった後、意を決したようにパクリとエビを口に入れた。


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