89.蝶の髪飾りとお昼ご飯
「素敵な髪飾りね」
アンティーク調のゴールドの髪飾り。
蝶々が羽を広げ、羽ばたいているようなデザインモチーフで、羽は美しい透かし彫りになっている。
左右の羽には1個ずつ宝石が付いていた。
その宝石は最初白色かと思ったが、手に持ち角度を変えると黄色に見えたり青色に見えたり、光の当て方によって様々な色にキラキラと輝いた。
うっとりとその美しさに見とれていると、オブシディアンが言った。
「何か好きな色を思い浮かべ、その石に触ってみなさい」
「⋯⋯? うん」
よく分からないけど、言われるがままにやってみる。
じゃ、赤⋯⋯と考えながら宝石に触れると、石の色がみるみるうちに赤みがかり、あっという間に完全に赤色へと変わった。
「宝石が赤くなっちゃった!?」
「もう1つの石も触れてみなさい」
じゃ、緑⋯⋯。と思いながら、もう1つの宝石に触れると、同じように今度は緑色に変わった。
「
リズが驚く私から髪飾りを受け取り、髪に付けてくれた。するとーー⋯⋯
「え!?」
思わず声をあげてしまった。
鏡に映った私の髪が⋯⋯、くすんだグレーだった髪色が先程の宝石みたいに真っ赤に染まったのだ。
そして髪だけじゃない。驚き見開いた私の瞳の色は、紫色だったものが、緑色に変わっていた。
勢いよくオブシディアンを見ると、ニカッと笑った。
「
お前の魔力で、髪色と目の色を好きなように変えられるようにしてある」
「すごーいっ! ありがとう!!」
リズに髪飾りを外して貰うと、すぐに元のグレーの髪と紫色に戻った。
便利な上に、面白い!!
私は髪色と瞳の色を次々に変え、色んな髪色を楽しんだ。夢中になりすぎて
「また規格外なモノを⋯⋯」という、呆れたようなリズの声は私には聞こえなかった。
ーー⋯⋯
コンコンっ! 軽いノックがされた為にリズがドアを開けると、入ってきたのはレーヴェとステラだった。
それを見て、私はステラに声をかける。
「お疲れ様。文字の勉強はどうだった?」
「⋯⋯あ、えっと。
基本の文字は見れば、だいたい分かるようになってきました」
「もう? 凄いじゃない!!」
そう。文字を知らないレーヴェとステラに、読み書きは出来るようになってもらおうと、毎日文字の勉強をしてもらう事にしたのだ。
まだ教え始めて1週間程だが、既に文字を読めるなんて⋯⋯。
きっと教えられた事をただするだけじゃなく、自習もしたんだろうなぁ。と思いステラを褒めたが彼女は戸惑いの表情を浮かべた。
代わりにレーヴェが口を開いた。
「あの、ジルティアーナ様⋯⋯、ですよね?」
「え⋯⋯、ええっ!?」
雰囲気が違うとはいえ、メイク済みの顔を2人には見せてたので、私だってすぐに分かるかな?と、先程のやってみた下級貴族ティアナな格好で、普通に接してみた。
結果レーヴェにはあっさりバレてしまったものの、ステラはバレず驚かす事に成功したようだ。
レーヴェにバレてしまった原因は、匂い。
匂いは
そんな匂いで判断できるのはレーヴェくらいしかいない訳で、つまりは変装大成功!! ってことだよね?
私がこんな変装をしている理由を。
この屋敷の主であるジルティアーナの前では見せないような素の厨房の様子が見てみたくて、下級貴族・ティアナとして、この屋敷の使用人たちと接するつもりだ。と言うことを2人に説明をしていると、再びドアがノックされた。
リズがドアを開けると、入ってきたのは食事のワゴンを持ったエレーネさん。
「ティアナ様、お昼ご飯をお持ち致しました」
「うん。じゃ、みんなで食べましょう」
ーー⋯⋯
リズとエレーネさんが会議室の大きなテーブルに、食事を並べてゆく。
昨日の夕食とは違い、またみんなで食べたくて私のワガママで食堂ではなく、自室で食べる事にしたのだ。
今日の昼食は何かなー? とワクワクする。
この世界のご飯って夜にドーン!と沢山出るせいか、昼食は今までも夕食に比べたら少ない、普通の1人前くらいの量で軽めに提供されていた。
またクローシュが被さっている為に中身が分からないが、リズによって1人前ずつメイン料理らしき物が各席にセットされ、エレーネさんがその横にサラダとスープを置いていく。
それは⋯⋯
オニオンスープに、小エビの温野菜のサラダ??
玉ねぎ以外の具は無さそうな、とてもシンプルな飴色のオニオンスープに、たくさんの小エビと小さくサイコロ型にカットされた人参やブロッコリーにドレッシングがかかったサラダだった。
そして、メイン料理のクローシュが外されメイン料理を見て、私はさらに驚く事になる。
「⋯⋯え、サンドウィッチ!?」
現れたのは、2種類のサンドウィッチ。
チーズとトマトとハムが入った物と、サーモンとクリームチーズにアボカドが入った物。
それが今日のメイン料理だった。
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