87.専属侍女、ティアナ



「下級貴族の、ティアナさん······?」


「はい。以前マリーさんに説明したようにジルティアーナ様の専属侍女、下級貴族のティアナとしてなら、この土地の領主であるジルティアーナ様が行くより確実に負担が少ないです」


「でも侍女のふりをするなら、もうジルティアーナとして使用人の人達には顔を知られちゃってるでしょ?

それなのに今更······」


「大丈夫ですよ。スティーブ以外とは会話もしておらず、クリスディアに着いた時に少し見られただけです。

それに今のジルティアーナ様の姿をご確認下さい」



今の私の姿······?

そう言われて、すぐ近くにあった姿見で自分を見る。


············あ。


そこに映って居たのは、ほぼスッピンで地味な顔の私。

服装は暗い印象の、深緑色のドレスを着ていた。


言っておくが全くもって、私の趣味ではない。



私はフェラール商会でローランドさんから化粧品を貰ってから、毎日ばっちり化粧をしていた。


なので今朝も。

これから領主としてクリスディアに初めて行くんだから、今日は特に気合いをいれてお化粧しなきゃ!!

と、張り切っていたのに何故かリズから止められてしまい結果······ほぼスッピン。

本当は「何もしなくて良い」と言われたが、私が全くしないのは我慢出来ず、すっぴんに見えるように、うっすらとだけ化粧をしていた。


ドレスだって······元々のジルティアーナは、自分に自信を持てなかったせいで、ドレスをジルティアーナ自身が選ぶ時はいつも暗い色の物を。

上級貴族として品位を保つ為に高級感はあるものの若い女性らしくない、暗くてなるべく地味に見えるものばかりを選んでいた。


ジルティアーナの記憶によると······

ドレスを新調する際には、リズや服飾店のデザイナーに明るい色の、もっと若い女性らしい華やかなドレスを!! と勧められていたが


「素敵なドレスね。だけど······ブスでデブな私なんかには似合わないわ」


そう言って首を縦に振らなかったのだ。


ジルティアーナが私になってからは、ジルティアーナが選んだそんな地味なドレスを一切着てはなかった。


いつも着てたのはリズの必死な説得の結果、どうにか数点だけ購入してはいたけど、ずっとタンスの肥やしになっていた華やかなドレス。

ジルティアーナではなく、リズが選んだ素敵なドレスばかりを着ていたのに······。


なのに、今日着ているこのドレス。

これはジルティアーナが選び購入していたものだ。


上級貴族用の物なので刺繍やレースが多く使われていて高級感はあるが、深緑色の為かどこか暗い印象。

どう見ても10代の女の子用ではなく、お母さん世代······いや、おばあさん向け?? というようなドレスだった。


そんなドレスを、リズに着せられていたのだ。

今までのジルティアーナに

「もっと若い方向けの可愛いドレスの方が似合いますよ?」

「少し化粧をしてみたらいかがでしょうか?」

などと、お洒落をする事を勧めていたのはリズだ。


私になって見た目を気にするようになった事を喜んでいた。

なのに、今日のリズが提案してきたのは、このドレスとスッピン。


なんでこんな格好にしなきゃいけないのか疑問だったが······



「下級貴族のティアナとして、成りすます為······?」



私がそう言うと、リズが私にブルーのワンピースドレスを差し出した。


それはフェラール商会で購入した、あのドレスだ。


そうだ。これを買った時にリズは言ってた······


“ 上級貴族のジルティアーナ様用では格が低すぎますが······でも、低級か中級のティアナさんになら、ちょうどいい服装かもしれません ”



「リズ凄いっ!

だから私に今日は地味なこんな格好を勧めたのね?」


「服装を変えて化粧をすれば、今のジルティアーナ様の姿とかなり違う印象になります。

スティーブにだけには、私から上手く説明をしておきます。スティーブ以外のこの屋敷の人達には、普段は『ジルティアーナ様の専属侍女、下級貴族のティアナ』で通しましょう」


リズがにっこりと笑った。




そして、その後は下級貴族のティアナ、としての振る舞い方についてリズから話がされた。



「ティアナさんは元々は他国の者で、私とエルフのアカデミーで知り合い、私の紹介でジルティアーナ様の専属になり、ジルティアーナ様からは絶大な信頼を受けている設定にしましょう」


「それって······大丈夫なの?

元々住んでいた国の事や、エルフの国やアカデミーの事を聞かれても、私は何も答えられないけど」


「大丈夫です。出身国については“ 昔の事は話したくない ”で通して下さい。

エルフのアカデミーでの事は、アカデミーへの留学生で機密性の高い研究をしていた者は、そこで知り得た情報を許可なく外部に漏らさぬように契約する事も多いんです。“ 迂闊に話すと契約に触れる恐れがある ”と言えば違和感はありません」


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