86.ケモ耳と尻尾



オブシディアンに突然現れた耳と尻尾に、スティーブさんが驚愕の表情で後退る。


現れたのはもちろん聖獣だった時の馬のような、黒い耳と尻尾。

リズもあまり表情には出さないようにしているが、エメラルド色の瞳を少し見開いたので驚いているようだ。



「今、元の姿に戻ると食事が不便になるからな。だが耳と尻尾だけでは信じられないと言うなら、後で元の姿に戻るぞ」



そう言うとオブシディアンは、そんな事より飯!!と言わんばかりに、鯛のアクアパッツァを口に入れた。

ワインでほろ酔いの私は思わず立ち上がり、まるで獣人族みたいな姿になったオブシディアンに駆け寄った。



「何その耳!? ぴょこぴょこ動いて可愛い〜〜っ!

ねぇねぇ、ちょっと触ってもいい?」


「ん? こんな物が触りたいのか??

お前はまた面白い事を言うな、少しならいいぞ。食事の邪魔だから手短にな」


「ありがとうっ!」



許可も貰えたので、そっとオブシディアンの馬耳に触れた。

触った瞬間にピクンっと動いた耳。耳の後ろには短い毛が生えておりツルっとした触り心地だ。


やーん、可愛い〜っ!


実は私、ケモ耳しっぽが結構好きなのだ。

だから本当はレーヴェとステラを最初見た時も、リアル獣耳!尻尾!!と興奮したが彼らの大変な状況にそんな事を言っている場合じゃない事は分かったので黙ってたけど。


ちなみにクリスディアここにくるまでの4日間、落ち着いてる時に2人の耳や尻尾も触らせて貰った。

長い耳やもふもふの尻尾······っ! 気持ちよかったなぁ。


オブシディアンの耳も負けず劣らず最高で、ずーと触って居たかったが少しだけ、という約束だ。

食事の邪魔をして、もう触らせない! と怒らせたらマズイ。

名残惜しいがお礼を言って手を離した。


オブシディアンの耳も、可愛かった〜。

また今度、触らせてもらおう。


そんな事を考えながら、席に戻ろうとするとネージュが「はいっ!」と手をあげた。



「どうしたの? ネージュ」


「ネージュもできるよっ!!」



そう宣言すると、ぽんっ! と現れたかわいい丸い耳に、猫みたいな縞模様の尻尾。

得意げに、ふんすっ!と鼻から息を吐くと、尻尾をふりふりと振った。



「かわいい〜〜〜っ!! 触ってもいいの?」


「いいよー」



猫といっしょかな? と、耳の後ろを撫でてみるとネージュは気持ちよさそうな顔をした。



「えっと······、こちらのお嬢様は?」


「聖獣様であり、ジルティアーナ様の守護獣となられたネージュ様です」


「守護獣!?」



スティーブさんは先程、オブシディアンが聖獣だと聞いた時以上に驚いた様子で、私に撫でられるネージュを見つめていた。




ーーー······



夕食の時間が終わり、私たちは私の部屋に戻ってきた。



「魚とチーズにワインも美味しかったねっ!」


「ああ。ティアナが以前言ってたように魚は美味かったし、チーズも良かったが······、

それ以外のものは悪くはなかったが、やはりオリバーの料理の方が美味かったな」


「確かにね。でもオリバーさんの料理を知らなかったら今日のが一番だったよ」



オブシディアンと夕食の感想を話しながら、先程の夕食の事を思い返す。

美味しかったが、あまり貴族の料理に慣れてないのかな?と感じた。


ヴィリスアーズ家で出されてた料理は、肉料理ばかりだった。

肉料理を食べれるのは貴族の特典。

高価な油と砂糖を沢山使うように、肉も切る前のローストビーフみたい肉とか、鶏の丸焼きなど大胆に使われたものが多かった。


それが今日の食事は、違っていた。

鯛のアクアパッツァは、魚は丸ごと1匹分使われているようだったが切り身になってたし、肉料理ではグリルチキンが出されたが、食べやすい一口サイズにカットされていた。


個人的には好感が持てたが、貴族の食事としては微妙だろう。

丸焼きで出されても執事や侍女が切り分けてくれるので、食べにくくても問題はないのだ。

見た目よりも食べやすさを重視されてるように感じた料理。



「······どんな人が、作ってくれたんだろ?」


「明日、厨房へ行かれますか?」



私がポツリと呟いた言葉に、私の前にお茶を置くリズが言った。



「 でも、平民の料理人と直接会話したり、厨房に行くのってダメなんじゃないの? 」


「ヴィリスアーズ家で厨房へ行きたいというティアナさんの要望が通らなかったのは、当主であるローガン様から許可が下りないからです。

ですが、この屋敷の主はジルティアーナ様です。貴女がやりたいと仰る事を止める権利は、誰にもありませんよ」



行きたい!! とは思ったが、心にモヤっとしたものが生まれる。



「それって······、本当は厨房に行かない方がいいけど、一番偉い私の要望なら通りますよ。って事よね?

私が厨房に行ったら迷惑になる?」


「ジルティアーナ様が厨房に来られたら、厨房で働くものたちは緊張で仕事にならないでしょうね。

オリバーさんは王都で貴族の屋敷で働いていたのと、接客業のおかげで言葉遣いなどの礼儀作法は問題ありませんでした。でも普通の料理人は、作法など習ってない者が多いです。

厨房に行くのは自由ですが、この屋敷の主であるジルティアーナ様が直接、厨房の者と接するのは難しいと思います。

会話は侍女などを介してください」



そんなぁ。

それじゃあ意味ないし、料理人達に負担をかけてまで厨房へお邪魔しようとは思わない。


そんな私の心情に反して、リズはにっこり笑い言う。



「なのでこの館の主であるジルティアーナ様付きの専属として、下級貴族のティアナさんが厨房へ行かれたらどうでしょうか」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る