84.クリスディアでの晩餐
夕食の時間まで自室でゆっくり休ませて貰った私は今、食堂で広いダイニングテーブルにひとり座っていた。
リズは私の横で姿勢よく足先を揃え、手を前で組み立っている。
············落ち着かない。
ヴィリスアーズ家では省かれ
でも自室でだったからこんな広いダイニングテーブルではなかったし、何より最近はリズやオブシディアン、それにレーヴェとステラも加わって皆で楽しく会話をしながら食べていたのに。
それが今日はこんな広いダイニングテーブルなのに、ひとりだ。
ドレスと同じく、ジルティアーナとしてヴィリスアーズ家で過ごした1ヶ月間はひとりでの食事が当たり前だったのに······
ううう。凄い寂しいよぅ。
皆でご飯が食べたいっ! こんなに広い食堂なのに、なんでひとりなのよーーー!!
そんな私の心の叫びを察してか、リズが少し困った顔で笑いかけてきた。
するとスティーブさんがワゴンを押しながら、入ってくる。
「お待たせ致しました。本日の夕食でございます」
······うわー、なつかしー。
心の中で、棒読みで言った。
スティーブさんがワゴンに乗せて運んできた沢山の大皿料理たち。皿にはクローシュ······温かさや鮮度を保つ為の銀色のカバーが被されている為、料理を見ることはできないが、ヴィリスアーズ家で食べたのと同じく無駄に種類と量だけ多い、ビュッフェスタイルのようだ。
これは······やはり期待できそうにないな。
たぶんヴィリスアーズ家と同じ様な、茶色ばっかり料理が出てくるんだろう。
スティーブさんとリズがダイニングテーブルにセットしてくれてる料理を失礼ながらそんな風に冷めた気持ちで見つめていると、目の前の皿からスティーブさんによってクローシュが外された。
「······え。これって······!」
「エリザベス様から、ジルティアーナ様は野菜も好まれるとお伺いし用意させたのですが······いかがでしょうか?」
思わずリズをみる。
リズは満足そうに、にっこりと笑い頷いた。
その皿にあったのは焼かれたソーセージに······ジャガイモ、ブロッコリーにアスパラ、ミニトマト。
まさかの野菜! しかも彩りも綺麗!!
先程まで、期待できない。なんて思ってたのが嘘のように私の期待値はぐんぐん上昇した。
リズによって野菜などを一種類ずつ皿に取り分けられ、それは私の前に置かれた。
······美味しそうっ! いただきまーす!!
スティーブさんがいる為に心の中だけで「いただきます」と言い、フォークを手に持ったその時ーー
「ジルティアーナ様、少々お待ち下さい」
「それ······っ!」
声をかけてきたスティーブさんが手に持っているのは大きなチーズとナイフ。
チーズの表面は溶けており、それを私の皿にナイフで削ぎ落とした。
「ラクレット!?」
「ラクレットは畜産が盛んなこの地域以外では、なかなかない料理なのですがご存知でしたか」
私は頷いた後フォークでジャガイモを刺し、持ち上げた。
上にかけられたチーズがとろ~りと零れ落ちるのを絡め取り、パクリと口に入れた。
······っ!!
おいしーーーーいっ!
心の中で叫び声をあげた。
そしてコレを食べたら飲みたくなるよね······白ワイン。
ワイングラスに入れられていた白ワインをクイッと一口飲んだ。
「うま······っ」
自分の声に、はっ!とする。
いけない、いけない。この世界に来てから、今まで飲んできたワインは微妙だったのに予想外の美味しさに、思わず声が出てしまった。
口を手で押さえ給仕をしてくれている2人をみると、スティーブさんは優しく笑みを浮かべ、リズも少し呆れたような仕方ないですね。というような苦笑い。
「ラクレットはもちろん、この白ワインもとても美味しいわ」
「ありがとうございます。
このワインもチーズも、この町で作られたものなんですよ」
そうなの!? やったーー!
クリスディアでは、美味しい物が期待できそう!!
そう思いながら、次の料理を食べようとした時だったーー······
「お前だけ、
バンっ!! という大きな音と大声に、思わず私はびくりと身体を揺らした。
叫びながら入ってきたのは······
「オブシディアン!?」
腕を組んで仁王立ちしたオブシディアンがいた。
突然の乱入者にスティーブさんは固まり、リズは頭が痛そうに自分の額を押さえた。
オブシディアンは、ずかずかと私の傍に来てダイニングテーブルに並べられた料理をジロリと見た後、私を睨む。
「お前が“ オリバー以外の食事は期待できない ”と言うから、部屋で食事をとろうと思ったが······、
なんだ、この料理はっ!!」
スティーブさんの前で、私の失礼すぎる発言をバラされ焦る私。
オブシディアンは、そんな事はおかまいなしにドカっと斜め前の席に座った。
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