83.私のお部屋



「こちらのお部屋をお使いください。

専属の方々のお部屋は今、準備させておりますので、少々お待ちください。では、私は失礼致します」


「ありがとう」



スティーブさんは、私達を部屋へ案内すると退室していった。

彼の靴音が聞こえなくなった途端に、私は行儀悪くソファに倒れ込む。



「はぁぁぁぁぁ。緊張したぁ!!」


「お疲れ様でした。

旅の疲れより、気疲れですか?」



ああ、ソファの座り心地?寝心地?最高だわぁ。なんて思いソファを撫でながら、クスクスと笑うリズに少しムッと言葉を返す。



「だって、スティーブさんはジルティアーナと何度もあった事があるでしょ?

下手な事して、ジルティアーナ様と違う!って思われないか心配で」


「大丈夫ですよ。スティーブがジルティアーナ姫様と最後に会ったのは5年以上も前です。

5年前の姫様とは、本当の姫様も······かなり性格等は違ってしまってましたから。

恐らく、クリスティーナ様がご存命だった頃の姫様しか知らない者にとっては、今のティアナさんになったジルティアーナ様の方が、違和感が無いかもしれません」


「············」



そう語るリズを、複雑な気持ちで見つめる。

私がみたジルティアーナの過去ーー幼少期の事や、継母イザベル達とのやり取り······。


イザベルが父親ローガンに嫁いでくるまでは、次期当主として自信を持ち明るかったジルティアーナ。

人と話す時も背筋を伸ばし、人の目をしっかり見てはきはきと話す。そんな子供で、周りからも次期当主として期待をされていた。

それがイザベルや異母妹のシャーロット達が、ヴィリスアーズ家に来てからは、それが一変してしまった。

常にイザベルに自分の存在を否定され、周りからもシャーロットと比べられ、唯一の肉親だと思っていたローガンからも見捨てられた。


そんな環境から、少しずつ自信を失い、自分を隠す様に猫背になり、人と話す時もオドオドとして、相手の目を見ることが出来なくなってしまった。


ーー······確かに、自信なさげなジルティアーナは、昔のジルティアーナとは結び付かないかもしれない。



「それにしても······、随分と立派な部屋ねぇ」



私は話題を変えるように、部屋を見渡し言った。

私達が案内されたリビングのような部屋。

日当たりが良く、落ち着いた部屋だ。

今までの、ヴィリスアーズ家のジルティアーナの部屋も広いと思っていたが、この部屋は更に広い。


重厚感が漂う艶のあるお洒落な家具が並んでおり、家具などもジルティアーナの部屋のでも、とても豪華だと思っていたのに、この部屋の物は更に高そうだ。

テーブルやタンスには精巧な彫刻がされているし、この花瓶一つにしても、いくらするんだろ?とドキドキしてしまう。


そのまま視線を獣人族の兄妹に移すと、とても居心地が悪そうに身体を縮こまらせていた。



「ティアナさん、普段着に着替えられますか?」


「うん。久しぶりにこんなドレス着たから、早く着替えたい!」



私は今、小さいとはいえ初めて自分の領地に行くなら正装を!ということで、ドレスを着させられていた。


ヴィリスアーズ家にいた1ヶ月間は毎日こんなドレスを着ていたのに、この移動の間の楽な服装のおかげか、物凄く窮屈に感じていたのだ。



「では、寝室で着替えましょう」



リズが、ガチャリっと入ってきたのとは別の扉を開けると、そこは違う部屋があった。


今私がいる部屋並に日当たりが良く広いが、雰囲気が随分と違う寝室だ。


真っ白な壁紙に、白い家具。

差し色のようにピンクのカーテンや、赤やピンク色の小物がセンス良く置かれている。

天蓋付きのベットや、鏡台が置かれており、まさにお姫様の部屋。というような可愛らしい部屋だ。



「こちらがジルティアーナ様のベッドルームです」


「こんな立派な部屋が、私の部屋!?」



驚きの声をあげると、またクスっとリズに笑われる。



ベッドルームこの部屋だけじゃなく、そちらの部屋もジルティアーナ様専用のお部屋ですよ?」


「え······? ええええ!?」



そう叫ぶと、「そもそもこの屋敷がジルティアーナ様のものなんですけどね」と、リズに呆れられてしまった。


リズによると、このリビングみたい。と思った部屋は、領主専用の私的な会議室で側近等との話をする為の部屋。

隣は領主専用のメインベッドルームらしい。


ヴィリスアーズ家のジルティアーナの部屋格が違うのは、貴族令嬢よりも領主の方が上だからだそうだ。



「なるほど。元々はお祖母様のクリスティーナさんの部屋だったから、こんな立派なのね!」


「ベッドルームは、ジルティアーナ様の為の若い女性用に改装しております」



にっこりと笑うリズが言った。


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