海の街、クリスディア

82.再会と到着



レーヴェ達の服を買った日から、4日。

私は今、本来はクリスディアへの移動の間、ずっと乗る予定だった、ヴィリスアーズ家の馬車に乗り込み、クリスディアに向かっていた。



昨日。

馬車でウィルソールの街に着いた、ネージュとエレーネさんと合流する事ができたのだ。


私を見つけた瞬間

「ジルティアーーナーーーっ!!」

と、泣きながら抱きついてきたネージュ。


え? 何事??

馬車での旅で何かトラブルがあったの!?


ネージュを抱きしめながら、ネージュと共に馬車に乗り、私に化けたネージュにずっと付いていてくれたエレーネさんを思わず見ると、彼女は首をぶんぶん横にふり否定した。



「今まではずっと、馬車から色んなものを眺め楽しそうに旅をなさっていたのですが、ジルティアーナ様を見た瞬間······っ」



エレーネさんもネージュが泣き出した理由わけが分からない。といった様子で、エレーネさんまで泣きそうになりながら説明をしてくれた。


そして、ネージュの状態を説明してくれたのは、オブシディアンだった。



オブシディアンの話によると、産まれたばかりの聖獣というのは人間の幼児と同じ様なもの。

卵を孵化させた主を、親のように思うらしい。


それなのに、産まれてすぐに10日間ちかく私と引き離された為に、私をみた瞬間に寂しかった気持ちが爆発したのだろうな。という。


えええ。そんなんじゃあ私と引き離したの可哀想だったんじゃあ······?

とも思ったが、元々聖獣は産まれた直後でも、ふらっと数ヶ月単位で遊びに出かけたりするらしいので、問題はないらしい。


よく解んないけど、幼児が保育園に行ってる間は友達と遊ぶのも楽しくて、ママを恋しがって泣いたりしないのに、ママを見た瞬間に寂しかった事を思い出して泣き付くみたいなこと??


と、勝手に解釈した。




そんなクリスディアへ向かう馬車の中、聖獣の······小さなホワイトタイガーの姿で、私の膝の上で丸まって寝ていたネージュが、不意に顔をあげ鼻をヒクヒクさせた。



「なんか······、ふしぎな匂いがする」



それを聞き私も鼻で息を思いっきり吸ってみたが、何の匂いもしない。それはリズも同じようで、「わかりません」と言うように、不思議そうに首を傾げていた。


ちなみに今、この馬車に乗っているのは、私、リズ、ネージュにネージュと同じく聖獣の姿で小型化したオブシディアンの4名だ。

他のエレーネさん、レーヴェ、ステラの3人は後ろを走る、後続の馬車に乗っている。



しばらくし、私の鼻でも匂いを感じた。

その匂いの原因は、私にはすぐに思い浮かんだ。


これはーー······潮の香りだ。


潮風に誘われて、四角い窓から顔を出した私の目の前に広がったのは、青い空と日の光を受けてキラキラと青く輝くーーー······海。

彼方には水平線が見えた。



「ここが、クリスディア······」



青い海に心が躍る。

海は、日本で見慣れている。と思っていたがその海は、まるで沖縄などのような透き通った青だった。


念願の海産物! 早く食べたーーい!!


そんな事を考えながら、クリスディアの町を素通りし、町の外れの高台にあるクリスティーナの屋敷へ。

私を乗せた馬車は進んで行った。



クリスディアの町から、馬車で10分ほど走ると門を潜り、屋敷の入口に着いた。

その入口の前には、執事のような格好の男性を筆頭に何人かの使用人らしき人達が並んでいた。

その男性が代表して、挨拶をする。



「お帰りなさいませ、ジルティアーナ様。

私はこの屋敷の管理をお祖母様であるクリスティーナ様から任命されたスティーブ・マニュールと申します。

これからよろしくお願い致します。

昔、何度かお会いした事があるのですが······、覚えておられますでしょうか?」


「久しぶりねスティーブ。覚えていますよ。

これから、よろしくお願いしますね」



そう私が笑顔で返し、そのまま屋敷の中へと促され入ろうとすると、後から動揺するような声が聞こえた。

その声に振り向くと、スティーブさんと共に並んでいた使用人と思われる人達の目線が私の後方に集中していた。


そこには後続の馬車からエレーナさんと共に降りた······レーヴェとステラの姿。

耳を澄ますと、小声だが「え?あれって······?」「なんで、馬車から獣人族が?」などという声が聞こえた。


私でも、小声で聞き取りづらいが聞こえるくらいだ。

獣人で人よりも優れた聴力をもつ2人には何を言っているか、しっかりと耳に届いているはずだ。

レーヴェは無表情に前を見つめながらステラの肩を抱き、ステラは怯えたような表情でレーヴェの影に隠れていた。


私がチラリと使用人達を見ると、彼らは気まずそうにしながら、急いで姿勢を正したのだった。



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