81.新しい服



「しばらくは、慣れるまでは大変でしょうが、最低でも1日1回は嗅覚を使ってください。

繰り返し使う事により、うまく調整出来るようになるはずです」


「はい······。わかりました」



スキルによって覚醒した嗅覚は、敏感になり過ぎて、調整が難しいらしい。

臭い匂いはもちろんの事、良い匂いでさえ強烈に感じ取ってしまうらしく、レーヴェは真っ青な顔でぐったりとしている。



「とりあえず今日は、色々あって大変でしたでしょう。もう休んで下さい」


「朝食の時間にはリズが声をかけに行くから、ちゃんと寝てしっかり休んでね」



なんか色々あり過ぎたけど、レーヴェと会ってからだって半日しか経ってない。

ステラも病み上がりだし、レーヴェもスキルのせいで疲れただろう。

2人にはステラを寝かしていた、隣の部屋へ戻ってもらった。





ーーー······

ーーーー·········



ーー次の日。再びフェラール商会を訪れた。




「じゃ、これ、試着してみて」



ステラに似合いそうなワンピースを選び、ステラを試着室に押し込むと、レーヴェが驚きの声をあげた。



「ジルティアーナ様の服を、買うんじゃないんですか!?」


「うん。だって、私の服は昨日買ったもの。

今日はレーヴェとステラの服を買いに来たのよ?」



そう言いながら、レーヴェに似合いそうな服を物色する。

レーヴェは護衛だから、動きやすくて丈夫なものじゃないとね。

そう思って男性物の服を見ていると、リズが「これはいかがでしょうか?」と、黒の上下に長めのジャケットを持ってきた。



「うん。これ、いいね。レーヴェに似合いそう!」


「では、レーヴェさん。試着してみて下さい」


「ちょっと待って下さい!

そりゃあ、今までの服でジルティアーナ様にお仕えする訳にはいかないかもしれませんが······、フェラール商会の服を、俺達が着るなんてっ」



············やっぱりそうなったか。

昨日私達の隣の部屋で寝てもらおうとした時も、ステラは今までの薄い布団より、しっかりとした暖かい布団で寝れる事を喜んでくれたが、レーヴェは「俺達がこんないい部屋で寝るなんて!」っと恐縮し、宿を飛び出そうとするのを

「しっかり休んで、元気に護衛するのが仕事!」と

必死に止めたのだった。


新しい服だって······。

本当なら私達が選んだ物じゃなく、レーヴェとステラ、それぞれ本人達が気に入った服を買いたいのだが、それは恐らく難しいだろうとリズに止められたので、こうしてリズと2人で選び試着してもらってる訳だ。

うん、······リズの言う通りだったわ。



「レーヴェさん。

貴方はもう今までとは違い、ジルティアーナ様の専属です。

ジルティアーナ様のお側に仕えるなら、格の低い物を貴方が身につけていては、主であるジルティアーナ様の恥になります。

仕事だと思って、受け入れてください!」


「え? うわっ!」



リズは無理やりレーヴェと選んだ服を試着室に押し込み、やれやれといった様子で息を吐いた。

見ていた私と目が合うと、悪戯っぽく片目を瞑り「レーヴェさんにはこれくらいしないとダメですよ」と、小声で言った。


そんな事をしていると、ステラが入っていた試着室が開いた。

恥ずかしそうに、もじもじしながら顔を出したステラ。



「ど、どうでしょうか······?」


「ステラ、可愛い~!」


「ええ。サイズもちょうど良さそうですね。

ステラさんは、いかがですか?」



ステラが着たのは、白が基調の胸にリボンタイが付いた膝丈のワンピースに、グレーのショート丈のジャケット。

ワンピースの白が、白い耳に合っており、可愛らしいステラにピッタリだ。



「こんな上質な服を着るのは緊張しますが······、可愛い服が着れて嬉しいですっ!」



やっぱり女の子。

自分の服装を確認する様に、鏡を見ると言葉通り、本当に嬉しそうに笑った。

うん。ステラの服はコレに決まりだね!


なんて思っていると、今度はレーヴェの試着室が開いた。



「わぁ! お兄ちゃん、その服カッコイイ!!

よく似合ってるよ」



ステラが赤い眼を輝かせて、レーヴェの事を見た。

私も振り向きレーヴェを見ると······。


おおお、カッコイイ!!

黒いシンプルなシャツに、細身の皮のようなパンツ。それに合った黒いロングジャケットが、長身のレーヴェに良く似合っている。


ステラが嬉しそうに、レーヴェの周りをぴょんぴょん飛び跳ねて後ろ姿なども確認する。


······本当にウサギみたい。


にこにこ笑い、とても嬉しそうなステラにカッコイイ!カッコイイ!!と何度も言われ、レーヴェも満更でも無さそうだ。



「いい買い物が出来て良かったですね」


「うん」



2人を見ていた私はリズにそう話しかけられ、笑顔で返事をしたのだった。


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