80.レーヴェの天職とスキル



「レーヴェの天職は······【闘士】」


「【闘士】ですか! 戦闘系の天職ですね。

護衛にはピッタリです」



リズが両手を合わせ、嬉しそうに言った。

私には、【闘士】という職業がなじみが無くてイマイチ分からない。

だって日本に、そんな職業なかったし······。

だが、リズの反応から護衛には向いてる、良いものだったようだ。



「レーヴェさん! ステータスを開いてみて下さい」


「は、はい!」



珍しく興奮した様子のリズ。

そんなリズに押されるように、レーヴェがステータスを出した。



「あっ!!」


「天職が······。

変な文字だったところが、変わってます······」



ステラが驚きの声を上げ、レーヴェが信じられないものを見るように、ステータスに書かれている【闘士】の文字を撫でた。

先程まで、ドイツ語で書かれていた天職欄、【闘士】と書かれた文字が、この国の文字・フォレスタ文字で書かれていた。


······うん。日本語ほどではなさそうだけど、アルファベットも見たことない、レーヴェ達にとっては変な文字に見えてたようだ。

ちなみに、レーヴェ達は字が読めないので、フォレスタ文字に変わった事は分かった物の、何て書いてあるかは読めていないらしい。



「ちゃんとフォレスタ文字に、変わってますね!

スキルは!? なんて書いてあるんですか!!?」



リズは興奮冷めやらぬ様子で、聞いてきた。

······だ、大丈夫ですか、 エリザベスさん?


私はリズの興奮っぷりに、戸惑いながらレーヴェのステータスに書いてあるスキルを確認する。



「えっと······。

【領域探索】に【闘技】【嗅覚】て、書いてある······え!?」



私が読み上げていくと、ステータスにドイツ語で書かれていたスキルが光った。

かと思うと、フォレスタ文字へと変換された。



「変わる瞬間なんて初めてみましたっ!

こんな風に変わるんですね!?」


「【領域探索】に【闘技】【嗅覚】ですか。

【領域探索】は便利そうですね。

でも【闘技】と【嗅覚】は······、

今までの戦闘方法と変わりませんし、獣人としての特性と変わらないように思えますが······」



残念そうなレーヴェに、リズが笑いかける。



「大丈夫ですよ。

むしろ下手に新しい事を覚えるより、慣れ親しんだものを強化した方が、いい事の方が良かったりするんです。

しかも【領域探索】と【嗅覚】は相性がいいです!

そうですねぇ。【闘技】はここで使う訳にはいきませんが······。

まず、試しに【領域探索】から使ってみましょう。

ちゃんとスキルを使う事を意識して、やってみて下さいね」


「はい、わかりました」


「ここが普段、薬草を採取する西の森だと思って下さい。

薬草を探すつもりで、神経を研ぎ澄まして、辺りを見渡してみてください」



宿の部屋の中で、薬草を探すつもりで。って無理がない??


なんて思いつつ、リズとレーヴェのやり取りを見ていると、部屋の中を見渡したレーヴェが「······あ。逆三角」と呟いた。


······逆三角??


レーヴェの目線を辿るが、そこにはレーヴェの鞄。だが、レーヴェが呟いたような、逆三角の物は見当たらない。



「······俺の鞄の上に、逆三角形が。

矢印のような物が見えます!」


「ちゃんと、薬草を探索できたようですね」



私には何も見えないが【領域探索】で薬草を、探り当てたようだ。

レーヴェの目には今、薬草が入っている鞄の上に、薬草の場所を示すように矢印が見えているという。

森などで【領域探索】を使えば、今のように薬草など欲しい物の有りかが、簡単に分かるようになったらしい。


えっ! 採取に凄い便利じゃない!?



「では次です。目を閉じてください。

先程、薬草を探した時のようにスキルを使う事を意識して、周りの気配を探ってください」



リズの言葉を聞き、レーヴェは瞳を閉じた。

更にリズが、言葉を続ける。



「魔力を伸ばすように。

まず1番最初に、レーヴェさんの近くに居る私の気配を感じますか?」


「······はい」


「そのまま更に魔力を。段々と魔力を薄く伸ばし、探索する範囲を広げて下さい」



静かに目を閉じて、集中する様子のレーヴェだったが、急に目を見開き顔をあげた。

バッと振り向いた目線の先に居たのは、ソファに寝転ぶオブシディアン。



「なかなか、良質な探索スキルのようだな?」



恐ろしい者を見付けたように、驚愕な表情でオブシディアンを見るレーヴェ。

それに対し、オブシディアンは目を細め、面白いモノを見つけたようにレーヴェを見返した。


そんな見つめ合う二人の視線を遮るように、間に移動したリズ。

それによって、レーヴェの肩の力が抜けた事が分かった。



「オブシディアン様は、ティアナさんと契約されているので、大丈夫ですよ」


「そういう事だ。安心するがよい」



リズの言葉に同意するように、オブシディアンはニカッと笑った。




「では、最後に······。

また、スキルを使う事を意識して、辺りの臭いを確認してみてください」


「は、はい。············うぐッ!!」



オブシディアンの事に動揺しながらも、リズに従いまわりの臭いを確認したらしいレーヴェが、凄い声をあげ崩れ落ちた。

心配になり覗き込むと、鼻を押さえてプルプルと震えている。



「どうですか? 今までと変わりませんか?」


「な、なんですか、コレ······!? もの凄い臭いがします」


「それが、スキルの力ですよ。

レーヴェさんは、狼の獣人ですよね?

それだけでも、私たちエルフや人族より何倍も嗅覚が優れていたとは思います。

スキルを入手する事でその更に何倍も、鼻が利くようになったはずです」


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