8.異世界から来た私
「私は日本。地球の日本って国で産まれ育ったの。
歳は29歳。自宅でやけ・・・いや、自宅で寝ちゃったような気がするんだけど····気付いたらジルティアーナになって、そこのベッドで寝てたんだよね」
「地球·····!日本というのは解りませんが、私が以前会った転生者も地球と言ってた気がします」
「エリザベスさんが言ってた、英語っていうのは地球の日本ではない外国で使われていた言葉なの。」
私は出したステータスの天職の部分を指す。
「で、これね。【転生者】って書いてあるの。日本語で」
「日本····。つまり、異世界の文字。貴女の母国語ってことですか?」
私は頷く。エリザベスさんに説明した通り、私は日本で産まれ日本で生き、ジルティアーナとして転生したようだ。
ジルティアーナの最後は先程思い出し、わかった。
だが、
先程説明したように、私の記憶では・・・
自宅でヤケ酒を飲んで、そのまま寝て、起きたらジルティアーナになっていたのだ。
天職欄にある【転生者】と、スキル欄にあった【前世の記憶】の文字。
ーーーああ。死んで転生してしまったんだ。と妙に納得した。
私に与えられたスキルは4つあった。
1つ目のスキル【前世の記憶】、その横に書いてあったのは、2つ目のスキル【翻訳】
【前世の記憶】とは上手く言ったもので、家族や友達に逢いたいという気持ちも無くはないが、懐かしいような気持ちだけで、最近流行りの転生モノや転移モノのラノベの主人公によくあったような、元の世界に帰りたい!という気持ちは起きなかった。あくまで記憶なのだろう。
ジルティアーナに対しても先程は、急に最後の時のことを急に思い出し取り乱してしまったが····今のような冷静な時は、例えるならば映画の主人公を見てる様な感覚だった。
主人公が辛い目にあったりしたらハラハラするし悲しくなる。だが、それだけだ。
「ジルティアーナは【ロストスキル】だった事で、次期当主を降ろされる。のよね??
これからどうなるのかな?私はジルティアーナとして、この世界でどうやって生きていけばいいんだろう·····?」
あ、言葉にしたら、なんだか急に不安になってきた。
とりあえず、この世界と私が生きてきた世界の1番の違いは自分の中の力を使う魔力や精霊の力を借りるマナというものがあり、それらを使う為の魔術具なるものが存在する事。
ステータスといい、このイルジオーネはゲームみたいな世界に思える。
異世界転生!?やほーい!異世界チートで冒険者として無双してやるぜぃ♪
なんて、10代とか若さがあれば、わくわくドキドキ楽しめたかもしれない。だが、そろそろオバサンと呼ばれ始めたアラサーの私では、あまり楽しめる気がしない。
いや、そもそも転生特典チート能力があるのか知らんけど。
それこそ異世界転生定番的なお貴族様というものになってしまったが、庶民として日本で平凡に生きてきた私が、貴族として上手くやれるかの方が不安すぎた。むしろマイナスなんじゃなかろうか?
そして、憑依してしまった少女・ジルティアーナの現状。
まじで、これからどうなるの?
貴族の当主様になる。という無茶ぶりよりはマシかもしれないが、このままどっかにお嫁に行きなさい。となっても不安しかない。
「まだ確定ではありませんが·····仰る通り、次期当主の座は降ろされてしまうと思います。
【ロストスキル】が、実は異世界の文字で書かれたスキルだった。と公表すれば残れるかもしれませんが·····」
魔法が普通に存在するゲームのような世界。
そんな世界と言えど、転生や転移というのはあまり無いことのようだ。
そして、それを知られてしまった場合どういった扱いをされるか予測しきれない、らしい。
「でも····次期当主じゃなくなるのは私個人的にはラッキーなのかも」
私の答えが予想外だったようでエリザベスは驚いた顔をした。
ジルティアーナにとっては次期当主でなくなる事が、それこそ死ぬほどショックを受ける事だったようだが、私としては次期当主ではなくなるのは歓迎すべき事だ。
貴族としてお金に恵まれ、良い生活が出来ているのは良かったと思うが、ジルティアーナの記憶を軽くみただけでも、日本での常識が色々違いそうだ。
魔法の次に、この世界で日本と大きく違うな。と思ったのは王族・貴族という身分制度の事だ。
日本にも天皇制があったりはしたが、一般市民が関わる事はまずないし、エリートの人達を上級国民などと揶揄することはあったが、実際には身分なんてなかった。
身分についての日本との違いや、これからの事を不安に思っている事を伝えた。するとエリザベスさんは、私の見解ですが·····と、私に3本の指を出した。
「ジルティアーナ様が次期当主でなくなるならば、その後の考えられるヴィリスアーズ家による姫様への対処は主に3つです。
1つ、このままこの家に残る。ーーこの場合だと、今後は今まで以上にイザベル奥様が、強く酷い態度をとる事が予想できるので、まず辞めた方がいいと思います。
2つ、どこかの家に嫁ぐ。ーー相手方の家が何処になるか分かりませんが、恐らくは奥様の意見が大きく反映されます。あの奥様が·····ジルティアーナ様の為に良い方を選んでくれるとは考えにくいです。
最後に、辺境の地へ行く。ーー馬車で10日程行った場所にクリスディアという海と森に囲まれた小さな町があります。
街の高台にはクリスティーナ様が使われていた屋敷も残っています。そこへ移り住むという選択です。
クリスディアは元々、30年程前までは貧しい村でしたがクリスティーナ様が救済し、その後は漁業と畜産で発展した自然豊かな街に発展しました。知り合いも居ないそこへ移り住むという選択です。」
それ、3つ目一択じゃない?
と言おうとした時、エリザベスさんが顔を曇らせ、3つ目を選んだ場合は·····と、言葉を続けた。
「おそらく旦那様は世間への説明としては体調を崩したジルティアーナ様を休養させる。という名目で移動させると思います。
【ロストスキル】を授かり、次期当主を外されたタイミングでの移動です。世間では・・・顛落したように見られるでしょう。
ただでさえ【ロストスキル】の事で評価が下がっている状態です。社交ではある事ない事噂されるでしょし、そこへ継母である奥様が悪意有るジルティアーナ様の話をすればーーーおそらく、社交界でのジルティアーナ様の外聞は、死にます。今後、格下の貴族とでさえ婚姻が難しくなると思います」
「・・・・・・。」
そんな····外聞が・・・?
結婚が難しくなるなんて···そんな事········
好都合だわ。
心の中だけでニヤリと笑ったはずが、現実の顔にも出てたらしい。
そんな私を見てたエリザベスさんは呆れたような様子で、大きく息を吐き苦笑いのような表情だ。
「私は、3つ目の選択はありえないと思ってました。
周りの目を気にする姫様なら、外聞が良くない。と聞けば絶対に避けた選択です。
なによりも王都に程近い都会でしか生きた事がない姫様が、知り合いが居ない田舎町での生活が耐えられないだろうと思ってました」
でも。と少し間をあけ、言葉を続けた。
「今のジルティアーナ様ーーー、貴女は違うのですね。
外聞がどうなろうと気にしない。田舎の町に行く事も厭わないのですね·····」
その顔は笑っているが、どこか寂しそうに見えた。
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