4. 迂闊な私



「······姫様? ジルティアーナ姫様!?」

「···え? あっ、ハイ!!」


成人の儀での後の事を思い出していた私は、呼ばれてる事に気付き急いで返事をした。

······そうだ。ジルティアーナ姫って、今は私のことだったんだ。そんな私をエリザベスさんが心配そうに見てくる。


「あの······姫様」

「なに?」

「失礼な事だとは承知して言わせて頂きます。姫様のステータスをお見せ下さいませんか?」


··········。

沈黙が流れ、私の気分を害したと思ったのか「やっぱり嫌ですよね」とエリザベスが目を伏せる。


「あの······リズ。ステータスって自分以外には見れないんじゃないの??」


··········。

また、沈黙が流れた。


「ステータス

「!?」


私のとは違うステータスが現れた。

名前は、エリザベス・イリーナ・ロイ・スタンフォード。エリザベスさんのステータスの様だ。


「ステータス、オープン······!?」


真似て言ってみると、私のステータスが現れた。

神殿の控え室で見た時と大きく違う点があった。控え室で見た時はステータスの表示が青い半透明の板だったのに対し、今は赤い半透明で板全体に薄らと《開示中》と書かれている。


なんか······役所で貰った住民票などをコピーした時に《COPY・複写》て浮き出るやつみたいだね。

エリザベスが私のステータスを見て、そっとステータス画面に触れた。


「とても珍しいタイプの······【ロストスキル】ですね」


エリザベスさんの言い方に違和感を覚えて聞いてみる。


「【ロストスキル】が、珍しいんじゃなくて、【ロストスキル】の中に珍しい、珍しくないとかあるの?」


「ええ、【ロストスキル】持ちはあまりいません。ただ、姫様が思われているよりは、【ロストスキル】多いと思います。

ちゃんと統計をとった訳ではないので正確な人数や割合は分かりませんが、エルフの国では300人に1人くらいは居ると言われています」


「そんなに? エルフ族には【ロストスキル】の人が多いって事??」


「あくまで私の推測ですが、フォレスタ王国この国にも同じくらい居ると思われます。フォレスタ王国は【ロストスキル】保有者に対して······差別が酷いですからね。大聖堂で大勢の人の目がある中で成人の儀をする貴族とは違い、平民などは隠すでしょうから······。実際は一般的に思われてるより多いと思います」


目から鱗が落ちる思いだ。

そうだったんだ······だったらジルティアーナもフォレスタ国以外でなら、あんな風に死ぬこともなかったかも······。

そこで嫌な事を思い出し恐る恐る、自分の手首を見てみた。


「あれ???」


そこには、薄く赤い線のような······痣?

てっきり、ザックリとやってしまったと思ったのにナイフを手に取りその後······ってあれは夢だったの??

と、痣を撫でているとエリザベスさんに手首を掴まれた。


「傷なら私が癒しました。もう二度と、あの様な事はなさらないで下さい」

「癒した······?」


この世界には魔法がある。傷を癒す回復魔法もある。

ただ、ジルティアーナの記憶によると回復魔法を使えるのは少数の職種のみのはずだ。······それこそ、【聖女】とか。

ちらりと出たままになっていたエリザベスさんのステータスのスキル欄を見てみた。


「【治癒術】? って、もしかして【回復魔法】の事!?」


エリザベスさん、凄い!! あら? でも今までジルティアーナの前では【治癒術】なんて使った事なかったよね? 私がそんな事を考えていると、先程とは違う雰囲気のエリザベスさんが言う。


「どうして······。なんで、【治癒術】って解るのですか?」


エリザベスさんが驚愕した顔で私を見てきた。言われてハッとする。

ヤバッ! このステータスってエルフ語で書かれてたのか! 焦って言い訳をする。


「えーと······ちょっとエルフ族の本も読んでみたいなー。とか思ったりして、エルフ語を勉強してみたんだよねぇー?」

「違います。これはただのエルフ語ではありません。古代エルフ文字です。······この文字を読めるのはエルフ族でもあまりいません」


··········。

思わず手で顔を覆う。


うげ、マジかよ。やっちまったーーー!!

うーん。どうしようかなぁ······。


少し考えてから、私のステータスのスキルを指差しエリザベスに聞いた。



「ねぇ。これ、なんて書いてあるか解る?」

「······っ!読めません」


痛ましい顔をしてエリザベスさんが言った。そうだよね? やっぱ、普通は読めないよね?? ······でもね。


「これね。【翻訳】って書いてあるのよ」

「······ほんやく?? え、まさかコレを······読めるのですか!??」


この世界、イルジオーネには翻訳って言葉が無いのかな?

翻訳の意味は伝わらなかったようだが、私が【ロストスキルこの文字】を読める事に驚いたようだ。だから教えてあげる。


「【翻訳】って、言うのは、ある言語で表された文章を他の言語に置き換えて表すことだよ。

·····まぁ簡単に言うと、エルフ文字や古代文字みたいな違う種族なんかが使ってる文字を理解でき、共通言語に直せる。って感じかな?だから私は【ロストスキルコレ】が読めたみたいだね」


エリザベスさんが「全部、読めてるいうことですか?」と聞かられ頷く。唖然とした後、エリザベスは暫く考え込んだ後に言葉を続けた。


「まず、【翻訳】という言葉を初めて聞きました。

ただ······その説明が正しいのなら違和感を感じます」

「え? な、何??」


探るようにエリザベスさんの緑色の瞳が私をとらえる。そんな視線に思わずたじろぐ私を、探るように見てくる。


「私は以前、エルフ国のアカデミーに居ました。実はそこでは、【ロストスキル】の研究をしていたんです」

「へぇ、そんな研究なんてあるんだ」

「はい。先程少しお話したように、まずエルフの国では【ロストスキル】の考え方か違います。

フォレスタ王国では、神様から。ように言われてますよね?ですが、エルフの国では違っています。

エルフの国では、というよりフォレスタ王国以外の他の国では、諸説ありますがロスト・スキルは天職などは普通に授かりはしたが、古代文字などで書かれたで書かれてる為に解読できないのだろうと言われているのです。私の研究室ではその研究もしていました」


そうだったんだ。

ていうか、さっきから聞いてるとこの国、フォレスタ王国って他の国からみて閉鎖的な国なの? ちょっと世界を知る必要性を感じてきた。


「じゃあ、その考え方は合ってたのね。私が【翻訳】で読めるようになったんだもん。【翻訳】さえ出来ればスキルが【ロストスキル】が解るんだよ」

「確かに【翻訳】スキルは凄いと思いますが───少しおかしいのです」

「何が??」

「私達【ロストスキル】を調べていた研究員たちは、数多くの【ロストスキル】のステータスを見てきました。その中で、ある1人のエルフ族のステータスを、1人の研究員が読み解いたのです。そして研究員は言いました。

この【ロストスキル】は、古代文字で書いてあるのではない。これはーーー『英語』という異世界の文字で書いてあると」

「!?」


まさかエリザベスから、英語という単語を聞くと思わなくて動揺したが、なるべく表情に出さないように気をつけて聞いてみる。


「へぇ。この文字、『英語』っていうんだ? けどその『英語』とやらで書かれてるからって何がおかしいっていうの?」

「まず、その『英語』って書いてある文字が普通は読めないからです」

「?」

「その研究員は、“ その『英語』で書かれてる天職が【弓使い】と書いてあり【必中】スキルを持っている ”と言いました。

なので、その【ロストスキル】保有者に弓を持たせてみましたが、素人にしては上手いものの、的の枠にしか当てられなかったそうです。

その為に最初は研究員の解釈が間違っているのだろうと思われたのですが、保有者に

“ 貴方の天職は【弓使い】であり【必中】のスキルがある ”

と伝えたところ、なんと今まで読めなかった【ロストスキル】の文字がエルフ文字に変わり、その後に矢を射ってみたところ、見事に的の真ん中を射抜きました。更には弓使いが優れた特性を伝えたところ、命中・攻撃・素早さといった能力が補正されたかわったそうです」


··········わたし、もしかして、更にやらかした?

最初はエリザベスさんが言っている意味が解らなかったが、私が犯したミスの可能性に気付いてきた。

エリザベスさんが続ける。


「天職やスキルはただ見ただけでは全く意味がないし、他人が読めたとしてもその内容を教えて貰い、本人が意味を理解しなければ効果がなかったんです。

【翻訳】によって古代エルフ語が読めた事は解りました。でも、貴女は【翻訳】というスキルによって【ロストスキル】が読めた。と仰り、【翻訳】の意味の説明をしてくれました。

エルフの特徴が強い私は人間より寿命が長く、人間の一生分くらいはエルフのアカデミーで学びました。私の知識量は多いと自負してます。なのに、私は【翻訳】の意味を知らないどころか、言葉を聞いたことさえありません。さらに【ロストスキル】の研究の為に様々な文字を見てきた私でも、姫様の【ロストスキル】で使われている絵のような文字を見た事もありません。······だから、おかしいのです」


私はごくりと唾を飲み込んだ。

エリザベスさんはそんな私を真剣な顔で見つめる。


「貴女はどこで、この知識を得たのですか?

失礼ながら私の知るジルティアーナ・ヴィリスアーズ様が───そのような事を知っているはずがありません」


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