5.エリザベスへの告白
ヒヤリ。と首元に冷たい物を添えられるのを感じる。
ぎゃーーーーー!!
私、首にナイフ突き付けられてる!?
「貴女は何者ですか? 本物のジルティアーナ様はどうされたのですか? 貴女は目覚めてから知識だけでなく色々おかしいです。口調も態度も、いつもの姫様と違います」
初めて人に殺意を向けられた事に、思わず小刻みに身体が震えそうになるがそうすると刃が肌を傷つけそうで必死に我慢をする。
エリザベスさんは私を睨みつけ、はっきりと言った。
「もう一度だけ聞きます。貴女は───何者ですか?」
「誰って······私はジルティアーナ・ヴィリスアーズ。
ヴィリスアーズ家の次女で、リズの主でしょ? リズ······お願い、ナイフをしまって······こわいよぉ」
怯えながら涙を浮かべ、必死に訴える。だが、エリザベスさんは冷ややかな笑みを浮かべた。
「その話し方や態度······、今度はジルティアーナ姫様そっくりですね。見た目もそっくりですし、【なりすまし】スキルでも持ってるのかしら?」
「や、やめてよぅ。リズ! どうしちゃったの? そんなひどい事を言わないで······」
「止めなさい。姫様のマネをするなんて不愉快です」
っ!?
いったーい! ナイフ、ちょっとカスったでしょ!?
くそぅ。記憶の中のジルティアーナの口調を意識して話し、誤魔化そう思ったのに逆効果だったようだ。
本当の事、話したらどうなるんだろう······。
珍しいということで、実験体にされちゃう? まさか······殺されちゃう!?
恐怖に震えながらも、ジルティアーナの記憶にあるエリザベスさんの事を思い出す。エリザベスは聡明で優しい女性だ。ハーフらしいが、エルフ族の特性が強く現れた美しい容姿、膨大な魔力と知識量を持ちながらもそれをひけらかす事は無い。
実母と祖母を立て続けに亡くし、憔悴したジルティアーナを見て、昔にクリスティーナに世話になったからというだけで、最高峰のエルフ族のアカデミー研究員という地位を捨て、ジルティアーナに仕えてくれた。
ジルティアーナは彼女が大好きで誰よりも信頼し、姉のように思っていたのだ。
───よし。エリザベスさんにかけてみよう。
「わかった、全部話すわ。貴女の、言う通り私はジルティアーナであって、ジルティアーナじゃないの」
「何を言っているんですか? まさか、記憶喪失だとか言う気ですか??」
「その、逆。かな? 私には······ジルティアーナとして生きてきた記憶があって、そして更に、信じて貰えないかもしれないけど······別の人の記憶があるの」
どう伝えれば解ってもらえるか考える。天職を伝えただけで理解をしてもらえればいいが、【翻訳】と同じようにおそらく意味が通じないだろう。
そもそも自分の身に起きているというのに、私だって理解し難い事態だもん。信じて貰えるだろうか。解ってもらえるだろうか。
······ジルティアーナでなければ、身分もない私。
このまま、このナイフで刺されちゃうかもしれない。
そう思っていたのに、ナイフが下ろされた。
「それって、もしかして······貴女は、転生者なのですか?」
「え! 知ってるの!?」
あっさり受け入れられてびっくりした。
ジルティアーナの記憶には、生まれ変わりや前世の記憶といった知識が無かったからこの世界にはそういった考え方はないのだと思っていた。
【ロストスキル】みたいに、ジルティアーナが知らなかっただけなのだろうか?
その事を感じ取ったのかエリザベスさんが苦笑い浮かべた。
「私、ではなかったら、まずそんな事を知らなかったと思います。私だって最初は転生なんて事があるなんて理解できませんでした。でも私は······転生者にあった事があるんです」
エリザベスさんに言われ呆然とする。転生なんて信じられなかった、自分の身に起きなければ。いきなり知らない世界に放り出され、これからどうしようかと思ってた。その転生者の人はどうしたのだろうか。どう生きたのだろうか。
「その、転生者の人って······!」
「もう、何十年も前に亡くなりました」
もう、居ないんだ。と落胆した。
居るなら会って色々聞いてみたかったのに······。
「その方、昔お会いした転生者が言ってました。
“ 気づくとずぶ濡れで知らない異世界ーー
─────っ!
思ってた事だ。どうして、ジルティアーナになったんだろう。本当のジルティアーナは何処へ行ってしまったのだろう。と
「······神殿の、神殿の控え室でジルティアーナ様を、姫様を見つけた時······手首を切られてました。傷は酷く大量に出血し、私はもう駄目かと思いながらも【治癒術】をかけました。でも······【治癒術】は、死者には効きません」
思わずエリザベスさんを見る。だが、顔を下に向けてるために表情は見れない。
「癒しても治らない。その意味を信じたくなくて、私は何度も、【治癒術】をかけました。·····もう、これ以上やったら魔力が尽きてしまうと思った時······効いたのです」
エリザベスさんが顔をあげた。瞳にはみるみる涙が溜まった。
「私は神に感謝しました。姫様を、私の何よりも大切な存在を救ってくれてありがとうございます。と······でもそれは違ってたのですね······っ」
エリザベスさんの嗚咽が部屋に響く。
私は何も出来ずに、立ち尽くしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます