第5話 悪魔狩りの特権と、悪魔狩り故の悲しみ
ディランは静かに街の中に降り立った。
優月のかつての家の前で喚き散らす夫婦を見据える。
「どうして!! どうして私達はここから出れないのよ!! それどころか配給だって他のひとより少ないわ!!」
「知るか!! せっかく金が入ったのに不正をしてると罰金で取られた上……くそ!!」
「どうしてか知りたいか?」
やかましい雄と雌に、ディランは冷めた声で言葉をかけた。
「あ、アンタは!? ど、どういう事だ!!」
「俺の本名はディラン・アンヘル。WDCAのハンターだ」
「な……?! じ、実業家じゃなくて――」
「俺の恩人の娘を苦しめる輩共を許すと思うか?」
「お、恩人?!?!」
雄は理解ができていないようだった、それがディランにとって腹立たしかった。
「御園美月。貴様の前妻で、優月の母たる女性――それが俺の恩人だ」
ディランは嘘を言ってはいない。
「色々あって、この町に来た際に彼女の娘の事を聞いてな、調べた結果周囲から虐待と言える扱いを受けているのを知ってわざわざ貴様に身分を偽って彼女を保護したのだ」
ディランは蔑みの目を向けたまま続ける。
「この町は悪魔が頻繁に出現するようになるだろうが、
「ま、待ってくれ、ゆ、優月は私の大切――」
「黙れ!!」
嘯く雄の態度がディランの逆鱗を刺激する。
「何が大切だ、貴様ら家族は永劫此処で怯え続けろ、悪魔の恐怖にな」
ディランはそう言ってその場を後にした。
姿を消すように。
「――未だ町にいるのはもう優月ちゃんをいじめてた連中とその家族だけになったよ」
「そうか」
隔離地域からの外出許可が出ていない人物の確認に言っていたアシェルの言葉に、ディランは留飲を下げる。
「それと、仕事が入ったよ」
「分かった、お前は先に帰ってくれ。私一人でやる」
「え? 優月ちゃんの事俺に任せるの?」
「――家族がいたお前ならどうにかできるだろう、俺は家族というものがまだ分からない」
ディランがそう言うと、アシェルはため息をついた。
「わかった、早めに帰って来いよ」
「ああ」
ディランはそう言って「仕事場」へと向かった。
悪魔を狩る為に。
「……」
私は食事を終えて、既にリビングのソファーで本を読んでいる。
この部屋にあった本だ。
「色んな本があるなぁ……」
読み終えて呟く。
絵本やライトノベル等だけではなく図鑑、そう言った幅広い本が用意されていた。
「……何をしよう」
「どーしたの?」
「?!?!」
突如背後から声をかけられて、私は尻もちをついてしまった、だって人の気配がなかったから。
「あ、ごめん。仕事の癖でさ。今度からはちゃんと玄関のチャイムを鳴らして入ってくるよ」
不法侵入者――アシェルさんは罰悪そうに答えた。
――チャイムを鳴らさず、鍵もどうやって?――
「ああ、俺はディランから許可貰ってるから入れるんだよ、よっと」
アシェルさんはそう言って私を抱きかかえてソファーに座らせてくれた。
「暇つぶしの時間が欲しい? ならこのゲームやらない、このソシャゲ」
「そしゃ、げ? あ、そのどんな?」
「まぁ、大半のソシャゲは戦うのが多いから、このターンバトル系の奴。時間制限ないからじっくり考えられるよ?」
「面白そう……」
「でしょ? 課金なら俺も援助するし、やらない? 仲間内でやってる奴一人しかいなくてつまんねーんだよ。話題なくて」
「そ、それなら……」
「よっしゃ一人仲間ゲット!」
アシェルさんは本当に嬉しそうにガッツポーズを取った。
「じゃあ、最初はストーリーを進めよう、そうしたら最高レア三体もらえるから」
「へぇ……」
「ちなみに、この三体がいい。特にコイツ」
私はアシェルさんに説明してもらいながらシナリオを進めつつゲームを遊んだ。
とても楽しかった。
課金しないでかなり強いのがきた時は驚いたけど。
「何をしている?」
「「!!」」
ゲームに夢中になっていて、再び急に声をかけられて私はソファからずり落ちてしまった。
「優月、大丈夫か」
「は、はい……」
ディランさんだった。
ディランさんは先ほどのアシェルさんのように私を抱きかかえてソファーに座らせてくれた。
「アシェル何をやってた?」
「ゲームだよ、ソシャゲ」
「面白いのに、やってくれる奴は一人だけで、あとはなし!! と言うわけで優月ちゃんを誘ってみたんだよ。あ、課金はまだしてないし、課金したいなら俺が――」
「私が金を出す、それとそのゲーム、私にも教えろ」
「え?! マジ?!」
「いいからさっさと教えろ」
アシェルさんは信じられないものを見る目でディランさんを見てる。
私は二人の事がよくわからないけども、きっと二人は互いの事をよく知っているから――ディランさんの行動が、アシェルさんには驚きだったんだと思う。
「ディランの奴、あそこ迄するとはよっぽどあの子の事が気に入ってるんだなぁ」
「俺、ディランさんの事クールだと思ってたけど、案外そうでもないんだな……」
「そうだぜ、クロード。あいつはああ見えて天然な所もある……まぁそれを仕事で出す事ないから気づかない奴が多いんだけどな」
金髪に碧眼の青年――クロードに、アシェルは言う。
「あ、この事は他の連中には言うなよ。お前なら許されると思って言ってんだからな、他の連中ならディランの奴ブチギレ起こしかねない」
「わ、わかったよ」
アシェルはスマートフォンを取り出して、見る。
「まぁ、このゲーム語れる相手がお前だけだったからな、喋れる相手が増えて俺としては嬉しいぜ」
「アシェル、ゲーム以外息抜きはないのかい……?」
「ないな!! 俺は完全適合型のハンター!! 生涯ハンター生活だ!! でもクロード、お前は不適合型だから、ちゃんと彼女を大事にしてやれよな」
「あ……う、うん……」
アシェルは真面目な顔をしてクロードに釘をさしてからにかっと笑った。
グギャアアアアアアアアアアアアアア!!
耳障りな断末魔を上げる悪魔を、ディランは静かに見つめる。
悪魔たちの屍の中でぼんやりと、空を見上げた。
そして「母」の言葉を思い出す。
『許してくれディラン、お前を息子として見れず悪魔を殺すための存在として育てる私を』
『いや、許さないでくれ。すべては私の妹の罪。私の家族や周囲の者が起こした罪ゆえに起きたのだ』
『だからどうか、他の者達を恨まないでくれ』
そういう「母」をディランは一度も恨んだことはなかった。
寧ろ、ディランは「母」を哀れんだ。
実の妹の罪故に死ぬことができなくなり、自分同様時が止まった哀れな「母」の事を。
真実を公にすることもできず、ただ苦しみ続ける「母」の事を。
立場故に「我が子」達を我が子として愛することを許されない「母」の事を。
ディランはただただ、哀れんだ。
『ディラン、どうかお前はいつか、幸せに――』
母の願い。
叶う事のない事だと思っていたが、一人の女性とその娘との出会いが叶う可能性のある願いに変わり。
そして叶った。
幸せと言うものが良く分からなかったディランだったが。
今は確かに幸せだと感じていた。
――優月が笑ってくれるようになったら、私は、私達はより幸せになれる――
その為には何をすればいいのだろうかと、ディランは悪魔の死体の山となった場所から立ち去りながら考えるのだった――
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